ネコとこいのぼり
お部屋からお外をながめたら、お日様が顔を出していたらからぼくは外へ出た。
「ポカポカしていい気持ちにゃん」
ぼくはすっかりご機嫌だった。
「んにゃ? あれは何かにゃ?」
ポールにつながれたお魚さんたちが風にゆれている。
しかも一列にお行儀よくゆれている。空を泳いでいるみたいに。
あのお魚さんたちどこかで見たことがあるけど、どこだったっけ?
「んにゃ……」
と考えていると、
「あっ。思い出した。たしかご主人様はあのお魚さんたちを、こいのぼりって言っていたにゃ!」
きのう、ご主人様が“何か”をお外に運ぼうとしている姿を見たとき、
ぼくはその“何か”が分らず、不思議そうにご主人様を見ていた。
すると、ぼくに気づいてくれて教えてくれた。
「こいのぼりだよ」
って。
こいのぼりは、この時期になると飾るらしい。
おうちの庭先に紙とか布にコイの絵を書いたものを高い所にぶらさげて風になびかせているんだって。
すると、お天気がよくて風もほどよく吹いているときは、空を泳いでいるように見える。
きょうみたいに。
それからこいのぼりは、男の子の節句で、滝をのぼるコイのように男の子が
元気にすくすくと育って大きくなることを願って作られたものらしい。
天の神様に「男の子が生まれたのでどうぞお守りください」
という意味もあるんだって。
「黒色、赤色、青色、緑色のカラフルなコイが泳いでいるけど、
実際に、色がついたコイって食べてみたらおいしいのかにゃ~。
こいのぼりが絵ではなく、本物のお魚だったら!」
と想像したら、
「ジュルジュル」
お腹がすいてきた。それにしても本物そっくりなコイ。
もっと近くで見よう。
「テクテクテクテク」
ぼくは近づいた。
すると、ポールにぶつかり、そのはずみでポールが倒れてきた。
「にゃー。こいのぼりが倒れてきたにゃん」
ぼくは、こいのぼりの下敷きになったけど、
布で描かれているこいのぼりたちは痛くも重くもなかった。
こいのぼりを払いのけ、あらためてまじまじと見た。
「もし、実際のお魚だったら、ぼくよりも大きなお魚さんたちに囲まれていたことになるから、なんて幸せなんだろう。お魚食べ放題にゃん!」
考えただけで、
「ジュルジュル」
さらにお腹がすいてきた。
「あっ。ご主人様」
ご主人様がやってきた。
こいのぼりが倒れていることに気づき、元の位置に戻してくれた。
なになに、
「本物のお魚だったらどんなにいいだろうと想像していたんじゃないの?」
だって。
「ギクリッ」
ご主人様にバレていたみたい。
「ブルブルブルブル」
とぼくは首を振ってごまかした。
ぼくの食い意地が張っていることを知っているから、
お部屋にいなかったとするとここにいると思ってお庭に出てきたのかも。
それって恥ずかしいことだにゃん。
ニセ物のお魚さんたちを見て食べようとしていたなんて……。
今度から気をつけよう。
「でも、あんなお魚がいたらいいにゃ~」
またこいのぼりを見つめた。すると、こうなった。
「グ~」
ぼくのお腹が鳴った。
ふとご主人様を見ると、
「やっぱり、この子はこいのぼりを見て食べることを考えている」と思っているって顔をしている。
「にゃ~。恥ずかしいにゃ~」
しばらくご主人様の顔が見られなかった。
《終わり》