ネコの毛並み
お日様がポカポカして暖かそうだったから、窓際で寝ていたら、
「う~ん。なんだか身体に圧迫感を感じるにゃ~」
たくさんの手につかまれている感じがしていた。
しかもその手はものすごく冷たい。
ぼくは目をあけて身体を見ると、子どもたちがぼくの身体を
触っている。どうやら、手が冷たいからぼくの身体を触ってあたたまろうとしている。
「何をしているにゃ~! ぼくはストーブじゃないにゃ!」
ぼくは身体をブルブルと振った。
すると、子どもたちがビックリして手を離した。
ストーブがあるのだから、そこであたたまればいいのに、
どうしてぼくの身体であたたまろうとするにゃ!
するとご主人様が、
「お菓子をあげるから、手を洗ってね」
と言うと、子どもたちは手を洗いに行った。
ふ~。これで子どもたちはおとなしくなるはずにゃん。
食べているときは食べるのに夢中になるだろうし……。
そう安心していたら、手を洗い終えた子どもたちが戻ってきた。
おとなしく座って待っているにゃん。
もう少ししたらお菓子を運んできてくれるはず。
しかし、子どもたちは座ることなく、ぼくの近くにやってきた。
「んにゃ?」
子どもたちは、ぼくの身体にぬれた手を押し当て、拭いている。
「にゃ~! これじゃあ洗った意味がないにゃ!!」
ぼくの毛並みはタオルじゃないにゃ!
これを見ていた子どもたちのお母さんは注意し、もう一度、子どもたちは
手を洗うことになった。
子どもたちが戻って来ると、今度はちゃんと座り、お菓子が運ばれてくるのを待っていた。
ご主人様は、大きなお皿とぼくのお皿をおぼんに乗せて部屋に入ってきた。
大きいなお皿の上には、クッキーとチョコレートが乗っていて、テーブルの上にお皿を置いた。
そしてぼく用のお皿には、ネコ用のクッキーを乗せて持ってきてくれた。
「いっただっきまーす」
子どもたちもぼくも夢中になって食べた。
たくさん食べたみたいで、
子どもたちの口の周りも手もお菓子の粉やチョコレートで汚れていた。
すると、また子どもたちが近づいてきた。
「ぼくのクッキーを食べたいの?」
でも、あげられないよ。ネコ用だし……。
すると、子どもたちは、思いもよらない行動をした。
なんと、ぼくの身体にお菓子を食べて汚した手を押し当て、拭き始めた。
「にゃ~! ぼくの白い毛並みが~!!」
白い毛並みはまるで、泥遊びをしたかのように茶色く汚れてしまった。
それを見ていたお母さんは、子どもたちに手を洗うように言って、
洗い場に行かせた。その間に、お湯につけたタオルを取りに行ってくれて、ぼくの身体を拭いてくれたけど、
「あたたか~い」
と思ったのもつかの間。
「ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ」
まるでなかなか落ちない汚れをこすり洗いするかのようにこすられ、
「痛いにゃ~!」
ぼくは悲鳴を上げた。
「あっ。ごめんね。力をいれすぎちゃったね」
ぼくの身体の汚れは落ちたけど、身体がヒリヒリするにゃん。
やっぱり子どもたちといるとロクなことにならない。
子どもたちは戻ってきて、お絵かきを始めた。
「お絵かきに夢中ならぼくにイタズラすることもないはずにゃん」
そのスキにぼくはまた窓際に行った。お腹がいっぱいになったし、寝ることにした。
「スピピ~。スピピ~」
ぼくは夢の中でもおやつを食べていた。おいしにゃ~と思いながら無意識に寝返りを打つと、
「肉まん。動かないで」
子どもの声がして目が覚めた。
ふと見ると、子どもたちはスケッチブックにぼくの絵を描いているみたいだった。
「どんな絵ができるのか楽しみにゃん」
ぼくはじっとしていた。
しばらくすると、
「もういいよ」
と子どもに声をかけられた。
「どんな絵が描けたのかにゃ?」
見に行くと、スケッチブックには線みたいなものが
ネコっぽい形で書かれていた。
ひどいにゃ~。ぼくの顔はこんなんじゃないし、
白くてそろっている毛並みはどこにも書かれていなかった。
ひどいにゃん。ずっと我慢していたけど、もう限界にゃ!
「にゃ~!!」
子どもに飛びかかろうとした瞬間、
「ゴツン!!」
痛いにゃん……。
ご主人様に騒がしいと頭を叩かれてしまった……。
ぼくは悪くないにゃん。悪いのはあの子たちにゃ!
その後、お子どもたちのお母さんが「帰るから準備をしなさい」と言った。
「じゃあね。肉まん。ぼくたちは帰るね」
子どもたちはそう言うと、近づいてきた。
なになに。ぼくに何か用があるのかにゃ?
「さっきはごめんね」
って言ってくれるの?
それとも、
「今度から、きみがいやがるようなことはしないよ」
と宣言してくれるの?
いやいや。
「反省の意味をこめて、ぼくにおやつをくれるの?」
とぼくはひそかに期待をしていた。
すると、子どもたちはぼくに近づき……。
「グシャグシャ!」
子どもたちはいっせいに毛並みを掻き立てた!
「にゃー!」
本当は反撃したかったけど、お母さんがゴシゴシ拭いてくれたところが
まだヒリヒリして痛む。子どもたちに少しでも期待したぼくが甘かったにゃん。
「またね。肉まん」
ぼくへの用事をすませると、部屋を出ようとしていた。
そんな子どもたちのうしろ姿を見て、
「ヒリヒリ、早く治らないかにゃ~。今日も、子どもたちにやられっぱなしだにゃ!」
と切ない気持ちでいっぱいになった。
《終わり》