ネコのお正月4
「スピピ~。スピピ~」
ぼくはいつものようにあたたかい部屋で眠っていた。
小さな小悪魔たちによって安らぎの時間を壊されるとは知らずに……。
「ジリリリリリリ~」
ぼくの耳元でけたたましい大きな音がした。
「にゃー!!」
思わず叫び声を上げた。
その様子を子どもたちがいつものように、はしゃぎながら見ている。
目覚まし時計を持ってきて、ぼくの耳元で鳴らしたらしい。
「また、こいつらにゃ……。この子たちは子どもじゃなくて小悪魔にゃ! 毎回、毎回、ぼくにイタズラばかりして~。耳がジンジンするにゃ~」
あまりの衝撃にぼくはクラクラしてその場を動けずにいた。
子どもたちに目を向けると、ニタニタとぼくを見ている。
「それにしてもどうして、子どもたちがいるのかにゃ?」
ふとカレンダーを見て気がついた。
「あっ! 今日は元旦だからにゃん」
毎年お正月になると、子どもたちは、ぼくのおうちにやって来るのだ。
「今年も新年早々、ぼくの邪魔をして~! 今日こそはおしおきするにゃ!」
ぼくは子どもたちに近づき、
「にゃ~!!」
子どもたちに飛び掛かろうとしたぼくは、突然、首根っこを捕まれた。
「痛いにゃ~ん!」
後ろを振り向くと、ご主人様がぼくの首根っこをつかんでいる。いつものごとく、こっぴどく怒られてしまった。
「ぼくじゃなく、子どもたちが悪いことを、ご主人様に分かってもらえるようにしなきゃ!」
といつも思うのだけど……。
「どうしたいいかにゃ~」
しばらく考えたものの、まったく名案が浮かばない。
「……」
とりあえずこの件は置いておいて、
今年こそはどうやっておせちを食べることができるかことだけに専念することにした。
ぼくは毎年、おせちにありつくことはできずじまい。
去年はお刺身をゲットしたと思ったのに、子どもたちの罠に引っかかり、
わさびたっぷりのお刺身を食べさせられて、
痛い目にあった。
「そんなぼくだけど、今年こそは一味違うにゃん。今回の作戦は考えた完璧にゃ!」
とぼくは思っている。
今回の作戦は、おせちを取りに行ったり、食べさせてもらうのを待つというものではない。
食べようとしているところ横取りするという作戦。
おせちをおはしでつかんで口に運ぶ瞬間に、ぼくがパッと飛びこんでいただく。というもの。
まさか自分が食べようとしているものを横取りされるなんて
思わないだろうから、あっけにとられてしまうはず。
「これなら絶対にうまくいくはず。今年は必ず食べるにゃ! ジュルジュル」
考えただけでよだれが出てきてしまう。
「早く運ばれて来ないかな。おせち♪ おせち♪」
ぼくはワクワクしていた。
しばらく待っていると、ご主人様はリビングにおせちを運び始めた。
子どもたちも遊びをやめて、テーブルの近くに座った。
「いっただっきまーす」
子どもたちは、おせちを食べ始めた。
おせちには昆布巻とか伊達巻とか色々とあるけれど、ぼくが狙っている、まるまった赤いエビだけ。煮込んでいるエビだから味がしみていておいしそうだからずっと気になっていた。
アレコレ手を出してゲットでないのはいやだから、今回はコレ一つを狙うことにした。
ぼくはそっとおせちが置いてあるテーブルに近づき、子どもたちが座っている後ろから様子をうかがい始めた。
さすがにご主人様や他の大人たちのものを取るのはかわいそうだから、
ターゲットは子どもたち。いつもひどいことされているしね。
子どもたちは順調におせちを食べ始めていた。
「早くエビを食べようとしてくれないかにゃ~」
お目当てのエビをお箸でつまむのを今か今かと息をひそめじっと待っていた。
すると、子どもの一人がお皿から赤いエビをお箸でつまんだ。
「作戦実行にゃ!」
子どもがエビをつまんだお箸を口元に持っていこうとしたときにぼくは走りだし飛びこんだ!
その瞬間、
「ガシっ」
ぼくの体は取り押さえられてしまった!
「にゃにゃん!!」
えっ? 作戦は完璧だったはずなのに、どうして??
身体を取り押さえたのは、他の子どもたちだった。
どうやら、ぼくがおせちを眺めているのを見ていて、
狙っているのに気がついたらしい。何かするんじゃないかって。
ぼくは作戦を実行することに夢中だったから、
背後から近づいてくる子どもの気配に全く気がつかなかった……。
結局、おせちの横取り作戦は失敗し、
ご主人様にまたこっぴどく怒られてしまった。
それを見ていた子どもたちは高々に笑っている。
「くやしぃ~! 来年こそは必ずおせちを食べてみせるにゃ!」
ちかいを新たにぼくは、
「にゃ~!!」
と大きな叫び声を上げた。
すると、
「ゴツン!!」
「痛いにゃ!」
ご主人様にさわがしいと頭を叩かれてしまった。
「グ~!」
今年も散々なお正月にゃん。ぼくの悲しい気持ちとは裏腹に、お腹の音が鳴り響く。
「せ、切ないにゃ……」
《終わり》