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ネコとおばあちゃん(後編)

 おばあちゃんのおうちに来て三日目。

きのう、散々悩まされたニワトリの声にも慣れてしまい、


「コケコッコー」


 といくら鳴いても、起きることはなかった。 

 ぼくが目を覚ますと、昨日と同じで、顔にてぬぐいを巻いて、手袋をしていた。

そして、右手にカマを持って歩いている。


「おや、起きたかい」


 ぼくと見ておばあちゃんはお部屋に入って来た。

こんな奇妙なカッコをしているけど、草むしりをしていたからこんな格好をしているらしい。

 でも、昨日とは様子が違った。やけにニコニコしながらこっちへ近づいてくる。

ただでさえ怖い顔をしているのに、カマを持ってニコニコしているなんて怖くてたまらない。


 ぼくはこう思った。

その一、ぼくと遊ぼうとして近づいただけ。

その二、ぼくを食べようとしている。

昨日は高級キャットフードの『ネコセレブ』もささみのおやつもたくさんくれた。

普段、ネコセレブは特別なときしか食べられないからぼくは夢中になって食べたし、ささみのおやつもたくさん食べた。

 けど、本当は、ぼくのことを食べるために、まるまると太らせようとしているのかも。

もしかして、


「『きのうのごはんが最後の晩餐ばんさんだよ』なんて言われたらどうしようかにゃ……」


 そんなことを考えていたら、


「ゴロン」


 おばあちゃんは、ポケットからぼくの前に何かを転がした。


「んにゃ? コレは何かにゃ?」


 それは茶色くてまるっぽいものだった。


「これはまつぼっくりだよ」


 おばあちゃんはそう言った。

なーんだ。これを見せたくてニコニコしていたんだね。


「へ~え~。傘みたいなのかたくさんついていて面白い形をしているにゃん」


 どうやらもらえるっぽい。ぼくはまつぼっくりを触って転がした。


「コロコロコロコロ~」


 まつぼっくりはゆっくりと転がって行く。


「にゃにゃ。面白いにゃん」


 ぼくはしばらく触って遊んでいたら、


「そろそろお腹がすいただろ。朝ごはんを用意してあげるよ。こっちへおいで」


 ぼくはおばあちゃんについて行った。

居間に着くと、


「あんたは、こっちの缶詰がよかったんだよね」


 おばあちゃんは袋の中から『ネコセレブ』を出してくれた。

今日も『ネコセレブ』を食べることができるらしい。おばあちゃんはお皿の上に『ネコセレブ』を乗せてくれた。 


「毎日『ネコセレブ』が食べられるなんて、ぼくはおばあちゃんのおうちにずっと住んでいたいにゃん」


 それから数時間後には、ぼくの大好きなささみのおやつもくれた。

ぼくはおばあちゃんとの暮らしにすっかり満足をしていた。


「これがおもてなしなんだね」


 そう思っていた。


 すると、


「ギギギギー」


 玄関のドアが開いた。もしかして、ご主人様が帰ってきた?


「ただいまー」


 ご主人様の声がした。

ぼくは玄関に行った。やっぱりご主人様がいて、大きなバックとお土産が入っている

っぽい袋を持っている。


「ご主人様ー。おかえりなさい」


 ぼくはご主人様の顔が見れてホッとした。


「旅行は楽しかったかい?」


 おばあちゃんがご主人様に聞くと、


「おいしいお魚とお肉をたくさん食べたし、温泉にも入って来た」


 と言った。

ご主人様は、大きなバッグの中からカメラを取り出して、おばあちゃんに見せている。


「どれどれ。ぼくも見たいにゃん」

 

 ぼくはご主人様に近づいて、のぞきこんだ。そこには、きれいなお山の景色や立派なお屋敷みたいな建物が写っていた。どうやら旅行を楽しんできたみたい。


「んにゃ?」


 ご主人様はぼくに気がつくと、こんなことを言った。

 なになに。


「君、少し太ったんじゃないかい? おばあちゃんは君に甘いから、『ネコセレブ』をおねだりしてたくさんもらっていたんでしょ。ささみのおやつも同じくらいおねだりしていたんじゃないの?」


 だって。

すっかりバレている。


「欲しがるから、ついあげちゃったんだよ」

 

 そうおばあちゃんは言った。

ご主人様は立ち上がり、持ってきた黒と白の水玉模様のバッグを開けてビックリしていた。


「『ネコセレブ』もささみのおやつも全部ない!」


 ご主人様はビックリしていた。

 バッグを逆さまにしたけど、


「ゴトゴトゴトゴト」


 落ちてきたのはいつものキャットフードだけだった。

ご主人様は、『ネコセレブ』もささみのおやつもたくさん持ってきてしまったことは、失敗だったって顔をしている。


「きみね~。少しは遠慮しなさい!」


 ご主人様はそう言った。


「そんなことないにゃん。ぼくはおばあちゃんの所にいる間、ごねずにいい子にしていたから食べてもいいにゃん」


 ぼくはご主人様に言われても気にしなかった。


 ご主人様はおばあちゃんにおまんじゅうのお土産を渡し、

旅行の話しをしばらくしてからご主人様はぼくを見た。


「んにゃ? ぼくに 何か言いたいことがあるのかにゃ?」


 なになに。


「そろそろ帰るよ。おばちゃんもきみの相手をして大変だったから、少し休ませてあげないとね」


 だって。


「やだ~。もうちょっといたいにゃん」


 ぼくは首を


「ブルブルブルブル」


 と振った。


「けど……」


 ご主人様をチラリと見た。あの目は、


「絶対に帰るよ。だだをこねだいでね」


 っていう目だった。

おばあちゃんのことは好きだけど、おばあちゃんのことを思うと帰らないといけない。

いくらぼくのことが好きでも、普段、慣れないことだから、くたびれちゃったよね。

ぼくは振り向いておばあちゃんを見た。

おばあちゃんは今までの中で一番のステキな笑顔をしていた。


「ありがとう。おばあちゃん。また来るにゃん」


 そう思いながらご主人様といっしょにおばあちゃんのおうちを出て、車に乗った。


車に乗っている間、もらったまつぼっくりで遊んでいると、

ご主人様はぼくに話しかけてきた。

なになに。


「きみは散々贅沢をしたから、しばらくは『ネコセレブ』もきみの大好きな、ささみのおやつもあげません。一週間分の『ネコセレブ』とささみのおやつを三日で食べるなんて、あきらかに食べすぎです。それから、動かず寝てばっかりいたでしょ? おばあちゃんがお昼寝をしたときにいっしょにお昼寝をするだけじゃなくて、他にもたくさん寝ていたでしょ。食べたら寝て。食べたら寝て。その繰り返し。きみはウシですか? もう少し、身体を動かしてスリムになりなさい」


 だって。


「えー。やだ~。『ネコセレブ』は普段からくれないからあきらめるとして、おやつは許してにゃ~」


 ぼくはご主人様を見た。


「だめなものはだめです!」


 とキッパリと言った。

ご主人様だって、旅行へ行って、楽しんできたのに~。

今度は、ぼくも旅行へ連れて行って欲しい。

それがだめなら、こっそりご主人様のバッグの中に入ってこっそりついて行こう。


「にゃ!」


 ぼくは大事なことを忘れていた。 それなら、スリムにならないとバレちゃう。


「やっぱりダイエットをするしかないみたいにゃん」


 ぷっくりとふくれた大きなお腹を見てため息をついた。


《終わり》

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