ネコとおばあちゃん(前編)
「ガサガサガサガサ」
ぼくは、もの音で目が覚めた。
「ガサガサガサガサ」
音はまだ続いていた。
「ご主人様がなにかしているのかな?」
気になって、音がしている隣の部屋に行った。
「どうしたの。ご主人様~」
すると、大きなバッグにお洋服を詰めていた。
ぼくに気がついたご主人様は、
「しばらくお出かけするよ。準備して」
だって。
「準備って言われても、ぼくがする準備なんて、心の準備くらいじゃない」
そう思っていたら、ご主人様は、大きなバックのチャックを閉めて肩にかけた。
なんだか重そう。ご主人様はぼくを見て、
「こっちへおいで」
と手招きしている。どうやら、出発らしい。ぼくはご主人様について行った。
すると、庭に止めてある車の方へ向かった。
「んにゃ? 車に乗るのかにゃ?」
助手席のドアを開けてぼくを乗せると、すぐにご主人様も運転席に乗って車を走らせた。
「今日はどこに連れて行ってくれるのかにゃ?」
しばらくお出かけするってこと、遠い所に行くつもりなのかもしれない。
「砂浜を見ながらドライブかにゃ~」
とか
「金沢のおいしいものが売っている場所に連れて行ってくれて、ご主人様が食べるときにそのおこぼれをくれるのかにゃ~」
でも、ご主人様はいつもと違う雰囲気なんだよね。「どう違うの?」と聞かれると、うまく答えられないけど……。
「う~ん」
色々と考えてみたけれど、分からなかった。
そのうち、ぼくが座っている所にはちょうどよく日差しが当たり、心地よくなってつい、ウトウトしてしまい、
「スピピ~」
ぼくは眠ってしまった。次に目が覚めたときは、目的地に着いたときだった。
目の前には、古いおうちが見えた。
「ん? このおうち、見たことがあるにゃん」
けど、だいぶ前っぽい。うっすらと記憶に残っているようなあいまいな感じだけど。
助手席のドアを開けて、ぼくを降ろすと、ご主人様は歩き出した。
ぼくはついて行くと、おうちの前に着いた。
「ガラガラガラ~」
玄関の戸を開けてご主人様といっしょにおうちに入った。
「ただいまー」
ご主人様はそう言って、玄関の中に入った。ぼくも続いて入る。
ご主人様は戸を閉め、靴を脱いで廊下を歩いた。
居間らしき所に入ると、お茶をすすって座っているおばあちゃんがいた。
「お帰りー」
おばあちゃんは言った。
あっ。このおばあちゃん見たことがある。確か、ご主人様のお母さんだ。
ぼくがご主人様に飼われることになったときに、
「どんなネコを飼うのか見たい!」
と言われたらしく、このおうちに来たことがあったんだった。
「この子、肉まんかい?」
おばあちゃんは、ぼくをジロジロと見た。
「初めて見たときもまるまるとしていたけど、さらにまるまると太ったね。おいしそうだね。へへへへ~」
おばあちゃんは、今にもぼくのことを食べたそうな顔で言った。
「おいしそうなんて言わないでにゃ~」
まるで、ぼくのことを食べたいみたいじゃない。
「ブルブル」
思わず寒気がしてぼくは身の危険を感じた。なんか、いやな感じがするにゃ。
おばあちゃんは続けてこう言った。
「お友だちと待ち合わせをしているんだろ? あとは私に任せて気をつけて行っておいで」
すると、ご主人様は肩にバックをかけ直した。
「ご主人様、お出かけ?」
ぼくはご主人様を見た。
なになに。
「きみは、おばあちゃんの言うことを聞いていい子にしているんだよ。じゃあね」
だって。
「ぼくを置いていくの? やだ~。ぼくもご主人様といっしょに行くにゃ!」
ついて行こうとしたら、後ろからガッシリとつかまれた。
「あんたはこのうちでお留守番だよ」
と後ろから声がした。振り向くとおばあちゃんは怖い顔でぼくを見ている。
いつのまにか、立ち上がってぼくの後ろにいたらしい。
「やだ~。おばあちゃん怖いもん。ぼくもご主人様について行くにゃ!」
でも、おばあちゃんの力は強くて身動きできなかった。
「ブルブルブルブル」
と身体を思いっきり動かした。
すると、
「ジタバタするんじゃないよ!」
おばあちゃんの低い声がひびく。
「ビクッ」
ぼくはその声を聞いてとても怖かった。
「にゃー。にゃー!」
ぼくは必死に抵抗したけど、全く意味がなかった。
ご主人様はそんなぼくを気づいていたけど、
見ないふりをしたみたいで居間を出て行ってしまった。
「ガラガラガラ~」
玄関の戸を開けた音がした。
「えっ! 本当にぼくを置いて行っちゃうの? ぼくがこんなにいやがっているのに!」
ぼくの心の声は届かず、
「ピシャリ」
とドアを閉める音がした。
《続く》