ネコとかしわもち
「ゴトゴトゴト」
キッチンから音が聞こえる。
時計を見ると、10時だった。
「この時間からお昼ごはんの準備かにゃ?」
それにしては早いはず。
キッチンに行くと、ご主人様は白くてもちもちしてそうな生地に、
あんこを入れてとじていた。
どうやら和菓子を作っているみたい。
ご主人様はぼくに気づきこう言った。
「かしわもちを作っているんだよ。5月5日の端午の節句が近いからね」
話によると、かしわもちは縁起もの食べ物なんだって。
かしわの葉っぱは、新葉が育つまで葉っぱが落ちないから、
孫々の繁栄を祈るという縁起ものらしい。
ご主人様はかしわもちを蒸し器に入れた。
ぼくはかしわもちが気になり、できる様子を見ていた。
7分~8分くらいたったころ、タイマーが
「ジリジリジリ~」
と鳴り出した。
ご主人様は蒸し器からおもちを取り出すと、しばらく置いて冷ましていた。
それから葉っぱに包んだ
あの葉っぱが、かわしわの葉っぱなんだって。
お皿につぎつぎと葉っぱにくるまれたおもちが置かれかしわもちが完成した。
かしわもちを見ていると、
「グ~」
ぼくのお腹がなった。
「ぼくも食べたいにゃ~」
ぼくはキラキラと目を輝かせてご主人様を見つめた。
「きみはだめだよ。喉に詰まったらどうするの」
ご主人様は言った。
「それなら、ぼくが食べられるように小さく切ってくれればいいじゃない。だからぼくにもちょうだい」
と思っていた。
すると、
「ジュルジュルジュル」
ぼくのよだれが出てきた。
ぼくの様子にご主人様は危機感を感じたのか、
「とにかく、きみにはあげません。ここにいたら、きみはかしわもちを食べたくなるだろうから、リビングで遊んでいなさい。まだ作るものがあるから、きみの相手はできないから」
そう言うと、ご主人様はボウルの中で何かをこね始めた。
「分かったにゃ~」
ぼくはリビングに行った。
「ピンポーン」
玄関チャムが鳴った。うわさをしていたら早速、誰かがやって来たみたい。
「んにゃ~。誰か来たっぽいにゃ~」
キッチンにいたご主人様は、玄関に向かって歩いて行った。
すると、ドアを開けた瞬間、うるさい声が聞こえた。
どうやら子どもたちが来たっぽい。
「今日は子どもたちに何もされないといいけどにゃ……」
子どもたちが来るとロクなことが起きないからぼくは心配になった。
子どもたちがリビングに入ると、早速ご主人様はさっき作った
かしわもちをリビングに運び、テーブルの上に置いた。
子どもうれしそうに手に取り、
「パクパク」
と食べていた。
「いいにゃ~。ぼくも、かしわもちが食べたいにゃん」
だっておいしそうなんだもん。
子どもたちはおいしそうに食べている。
でも、子どもたちがいるからうかつに近づけない。
おまけに、ご主人様もこの部屋からしばらく動かないっぽい。
どうしたらいいかなぁ。
「ピーン」
そこでひらめいた。
ものすごいスピードでパッとかしわもちを口にくわえて逃げればいいんだ。
「さぁ。やるにゃ!」
ぼくは猛スピードで走って、テーブル上めがけてジャンプした。
「ピョーン」
とテーブルの上に乗り、かしわもちが置いてあるお皿を見た。
「えっ!」
ぼくはビックリした。
「ないにゃ! かしわもちがなくなっているにゃ!」
どうやら、かしわもちは子どもたちに全て食べられてしまったみたいだった。
すると、
「痛いにゃ~」
突然、ぼくの首根っこがつかまれた。
振り向くと、ご主人様がいた。いつものごとくこっぴどく怒られた。
「きみの考えていることなんてお見通しだよ!」
ご主人様は言った。さすがご主人様!
「きみが欲しがると思ったから、きみ用のかしわもちを作ったよ。ここに持ってきてあげるから、待っていて」
そう言うと、ご主人様はキッチンに行った。
「かしわもちが食べられるなんてうれしいにゃ~。ぼく用に作ってくれていたのなら、もっと早くに出してくれればよかったのに~。
そう言えば、さっき、まだ作るものがあるからって言っていたよね。もしかして、それを出してくれるのかな?」
ご主人様はリビングに戻ってきた。
「かしわもち♪ かしわもち♪」
ぼくはワクワクしていた。
「コトン」
ぼくの目の前にお皿を置いてくれた。
「コレがかしわもち?」
目の前には葉っぱに包まれた白いお団子みたいなものがある。
なになに。
「これは、ささみ団子だよ。きみが食べられるようにとりささみをお団子にしてかしわもち風にしたんだ。そうそう。葉っぱは食べないでね」
だって。
え~。「かしわもち風」と「かしわもち」は違うよ~。
かしわもちって和菓子だから甘いはず。コレは甘いものには見えない。
ぼくは「納得がいかない」って顔をした。
「ささみ団子も食べるけど、かしわもちもちょうだい。確か、いっぱい作っていたからまだあるはずにゃ!」
すると、
「いやなら食べなくていいよ。せっかくきみのために作ったのに!
ネコにとって、甘いものは身体によくないし、これ以上太ったら大変だからと考えて作ったおやつなんだけどね!!」
そう言うと、
「ヒョイ」
とお皿を持ち上げた。
「え!」
ぼくは慌てた。
「持って行かないでにゃ~。ごめんなさい。ぼくが悪かったにゃ~」
ぼくは大声で鳴いたけど、ご主人様はぼくに背を向けてキッチンに向かって歩いて行った。
ぼくが大声で鳴いていることに気がついているはずなのに、背を向けている所を見るとご主人様の機嫌を損ねてしまったみたい。
ぼくはご主人様を追いかけて行った。
この様子を見ていた子どもたちは、ぼくのことを笑っていた。
このときばかりは子どもたちに笑われても、ちっとも気にならなかった。
だって、それどころじゃないんだもん。
かしわもちは諦めるとして、このままでは、ささみだんごももらえなくなってしまう。
両方とも手に入れようとして、結局はどちらも取り損ねるなんて、
「まるで、花も折らず実も取らずにゃ~」
この言葉を昔、
「欲張ってはいけないよ。欲張りすぎると失敗しちゃうからね」
とご主人様に教えてもらったことがあった。
こんな日がいつかくるんじゃないかとぼくに教えてくれたのかもしれない。
今日は、子どもたちに何もされなかったけど、この子たちが来るといつも何かが起きるらしい。
「ご主人様~。もう欲張らないから許してにゃ~」
ぼくはご主人様の足元にすがりついた。
《終わり》