ネコの挨拶(後編)
「ところで、りりこ。お外で遊んだことある?」
「ないです。小沢さんは私が人見知りするのでお外に出してもらえないのです。お出かけするときは、さっき私が入っていた大きなカゴの中に入れられて連れて行ってくれます。それだって、数えるほどしかありません。お外って怖くないですか?」
りりこは聞いてきた。
「子どもに囲まれたときとか、車が近くを通りかかったときは怖いこともあるけれど、それ以外は楽しいにゃん」
さすがにりりこには、子どもに囲まれていたずらされたことを言ったら、怖がってしまうだろうから言えいかった。
「じゃあ、いっしょにお外に行くにゃん。遠いところには行かず、近いところならすぐに戻ってくれるから安心してにゃん」
「はい」
りりこはうれしそうな顔をした。本当はお外に行ってみたかったのかも。
こうして、ぼくたちは、ご主人様と小沢さんにはナイショで、そっと部屋を抜けてお外に出た。
りりこなら突然走り出してどこかに行ったりしないだろうし、社会勉強の為にもいいんじゃないかなとぼくは思った。
道路歩き、近くの空き地に向かった。その間、車も人も通らなかったからよかった。空き地に着くと、誰もいなかった。
ネコ一匹すらいない。ぼくたちはかけ回って遊んでいた。
りりこにとって、広いところでのびのびと走り回れるから楽しそうだった。
落ちていたボールを見つけ、二人でボールを転がして遊んだ。
しばらく遊んでいたら、手が滑って、
「コロコロ~」
ボールが転がっていってしまった。
「ちょっと待っていてにゃん。取りに行ってくるにゃん」
ぼくは道路に向かって走り、ボールを拾った。
「遠くまで転がらなくてよかったにゃん」
ぼくがボールを拾おうとしたとき、
「ワンワン!」
後ろから犬が吠えてきた。いやな予感がする。おそるおそる振り向くと、ぼくが思った通り、大きくて怖そうな犬が立っていた。
「にゃん!」
イヌににらまれたネコになってしまい、動けなくなってしまった。
「おいっ!」
犬は顔も怖いけど、声も怖かった。ぼくをジロジロ見ている。
「あの……。その……」
ぼくはすっかり固まってしまった。
「肉まんさーん」
後ろからりりこがやって来た。
「りりこ。来ちゃだめにゃん」
りりこにはぼくの声が聞こえてなかったみたいで、ぼくの隣にやって来た。
すると、
「はじめまして。イヌさん」
りりこは怖そうな犬に挨拶をした。
「りりこ~」
こんなときに挨拶って……。
挨拶よりも、身の危険を心配するのが先だよ。ぼくは絶体絶命のピンチだと思った。
「そのボールは?」
ぼくたちの足元にあるボールを見て、イヌは怖い声で言った。
「空き地に落ちていたので遊んでいたのですが、もしかして、イヌさんのボールですか?」
りりこは言った。
「そうだ。ここに落ちていたのかぁ。実は、ボールを探しに来たんだよ。そしたらボールを見つけて、その隣にいるネコに声をかけたんだ」
隣にいるネコってぼくのことだよね。
怖そうなイヌはぼくをジロリと見た。風貌のせいか、ぼくを見たその目はとても怖い。
「そうとは知らずに遊んでいました。ボールありがとうございました」
りりこはお礼を言った。
そして、りりこは怖そうなイヌの元へ届くようにボールを転がした。
「見つけてれくれてありがとう。じゃぁまたな」
怖そうなイヌはりりこにお礼を言うと、帰っていった。
どうやら、ぼくに声をかけたのはボールを見つけたからだったみたい。
怒っているわけではなくて、元からああゆう怖い顔で怖い声のイヌだったみたいだね。
「あー怖かったにゃん」
ぼくはホッとした。
一方、りりこを見ると、りりこは楽しそうな顔をしていた。
「お外って楽しいですね。さっき肉まんさんが言っていたコミニュケーションって、このことだったのですね!」
「えっ……。そ、そうにゃん。コミニュケーションはだ、大事だにゃん」
ぼくはうまく切り返した。
ふとお空を見上げると、赤いお空になってきた。
「さぁ帰るにゃん。夕方になったし」
おうちに帰ると、小沢さんは帰ろうとしているようだった。
ご主人様とのお話も一通り終ったみたいでちょうどいいタイミングだった。
小沢さんは両手でりりこを持ち上げ、大きなカゴの中に入れた。
「またね。りりこ。いつでも遊びに来ていいからね」
ぼくは手を振った。
「今日はありがとうございました。さようなら。肉まんさん」
りりこはカゴから顔をだし、ペコリと会釈した。
「今度、ハリーやミーコたちに会わせてあげたいにゃ~」
ぼくはそう思いながら、りりこと小沢さんを見送った
《終わり》