ネコと花粉症(後編)
「う~」
ぼくは悩んだ。病院は怖いけど、今の状況はとても辛い。
「クシュン」
またくしゃみをした。くしゃみの回数がどんどん増えてきて、鼻水も出るからどんどん息苦しくなってきた。
「つ、辛いにゃん」
ここまで苦しいと、この先どうなっちゃうのか不安になってくる。このままくしゃみばかりしていたらどうしよう……。
痛いのはいや! でも、辛いのもいや!
けど、今のぼくにはこのどっちかを選ぶしかない。
ぼくは散々悩んで……。
「仕方ないにゃ!」
ぼくは決めた。その結果、ぼくはゆっくりとご主人様の元へ行った。
「よく分ってくれたね」
ご主人様はそう言うと、頭をなでなでして、ティッシュでぼくの鼻をふいてくれた。
「じゃあ出かける準備をするからちょっと待っていてね」
そうぼくに言った。
やっぱり、ご主人様を心配させてはいけない。
十分後、準備ができたご主人様はぼくを乗せて病院に向かった。
「さぁ降りて」
ご主人様はぼくを抱えて車のドアを閉めた。
「ウイーン」
病院の自動扉が開いてぼくたちは中に入った。受付を済ませると、病院の待合室に行った。なぜか今日はネコばかりいた。
しかも、
「クシュン」
くしゃみをしている子。目が痛そうにしょぼしょぼしている子ばかりいた。ぼくみたいな症状で辛そうにしている子ばっかりだった。
しばらく待ち合わせ室で待っていると、女の人に呼ばれて、ご主人様が返事をして立ちあがった。どうやらぼくの番が来たらしい。ご主人様といっしょに白い扉の部屋に入った。
「こんにちは」
ご主人様は病院の先生に挨拶をした。
「今日はどうしましたか?」
病院の先生はご主人様に向かって説明をした。
「この子がくしゃみばかりしているんです。目がかゆいみたいで、よくひっかいています」
とぼくの症状を先生に話した。
「確かに、目は赤いですね」
先生はそう言った。
「クシュン」
ぼくはまたくしゃみをした。
「くしゃみも辛そうだね。じゃあ診てみるね」
そう言うと、
「よいしょ」
先生は、ぼくの重い身体を持ち上げ、診察台の上に寝かした。
先生は、ぼ
くの身体に聴診器を当てて音を聞いている。
ご主人様は、
「風邪ですか? 花粉症ですか?」
そう聞くと、先生は、
「この症状だと、風邪とも花粉症とも言えるので、検査してみないと分りません。ネコのアレルギー検査をしてみませんか?」
先生はそう言った。
「お願いします!」
ご主人様は迷うことなく言った。
すると、
「カチッ」
身体をしっかりと固定された。ぼくはいやな予感がした。先生は何かを取りに行ったみたいでぼくに背中を向けている。
「何かの道具を用意しているみたいだにゃ」
ぼくにはその道具が何なのか、予想がついていた。
先生が振り向いてぼくに近づいてきたとき、
「やっぱりにゃ……」
先生の手には注射器を手に持っていた。予想が的中した。
「やっぱり怖いにゃ~」
先生はどんどん近づいてくる。予防接種のときとは違う注射器みたいだけど、注射器であることは間違いなかった。
今回ばかりはご主人様が、ものすごく心配しているから我慢しなきゃ。
先生はぼくの手を押さえた。さらに怖くてたまらない。そしてぼくの腕に注射をした。
「チクッ」
ものすごく痛かったけど、鳴くのをこらえた。これにはご主人様はビックリしたみたいで、診察が終わったあと、
「えらかったね」
と言った。
検査結果が分るのが、四~五日ほどかかるらしく、風邪なのか花粉症なのか、それとも他の病気なのか分からなかった。
とりあえず、ぼくたちはそのまま帰った。
相変わらず、ぼくはくしゃみをしていたけど、リビングで夕ごはんを食べ、お腹がふくれると眠った。病院に行って疲れたのか、眠れた。
「スピピ~。スピピ~」
ぼくが眠ってから、ご主人様は新聞を読んでいた。
すると、何かに気がついたかのように、
「カチッ」
テレビのリモコンのスイッチを入れて熱心にテレビを見ていた。
次の日、
「クシュン」
相変わらず、ぼくはくしゃみをしていた。
「ぼく、大丈夫なのかなぁ」
不安でしょうがなかった。
「もしかして、変な病気だったらどうしよう」
ぼくは落ちこんでもいた。
「クシュン」
だって、くしゃみは止まる気配がまったくないんだもん。
「ガチャ」
玄関が開く音がした。ご主人様が帰ってきたみたい。
今日は、ぼくにごはんを食べさせたあと、ご主人様はお出かけしていた。ぼくは、くしゃみと目のかゆさで動くのも辛くなり、玄関までお向かいに行けなかった。
ご主人様は、ぼくがいるリビングに入って来た。
「おかえりなさい。ご主人様~」
ご主人様は、お出かけしていたから、花粉症のメガネと大きなマスクをしていた。だから、見た目がちょっと怖かった。
ご主人様は大きな荷物を持っていた。ぼくはてっきり、近所のスーパーにお買いものに行ったのだと思っていたけど違うみたい。
「何? それ?」
ご主人様はダンボール箱を持っていていた。ダンボールには電化製品っぽい絵が描いてあった。きっと電化製品なのだと思うけど……。
なになに。
「これで、きみの症状がよくなるといいね。昨日テレビで、花粉症対策について特集をしている番組があってね、そのときにコレを紹介されていたから、買ってきたんだよ」
だって。
ぼくのために買ってきてくれたの? ご主人様はダンボール箱を開けて取り出した。
「これは何?」
ぼくには分からなかった。
なになに。
「これは空気清浄器だよ。空気清浄器は、お部屋の中の空気をきれいにする風が出るから、花粉の量を減らす効果があるんだよ。もし、きみが花粉症ならよくなるかもしれない」
だって。
あと、こんなことも言った。
「しばらくは、お外には出ないでね。花粉が身体についちゃうから。もし、きみが花粉症ならそれだけでもだいぶ辛さが違うはずだよ」
ご主人様はお外に出るのは我慢して欲しいみたいだった。
ご主人様はたぶん、ぼくが花粉症だと思っているらしい。まだ結果は分からないけれど、自分と同じ症状だから、とりあえず、対策はしたいみたい。
ご主人様は、空気清浄器のスイッチを入れた。
「ピュー」
と風が吹く音がした
けど、ぼくからすると、ただ風が吹いているだけにしか見えなかった。空気がきれいになっているという実感はなかった。
それからと言うもの、ご主人様はまめにお部屋のお掃除をしてくれた。
五日後、ご主人様はリビングに郵便物を持って来た。何だかいつもと違う雰囲気。
「もしかして、ぼくの検査結果が届いたのかにゃ?」
ご主人様はハサミで封筒を開けて、中に入っている紙を取り出した。
「何て書いてあったの。ご主人様~」
ぼくはご主人様に近づいて結果を教えてもらうことにした。ぼくが近くにいることに気づいたご主人様は、こう言った。
「きみはやっぱり花粉症みたいだよ。花粉症のアレルギーを持っているらしい」
だって。
やっぱり花粉症だったんだ。とりあえず。ぼくは原因が分かってホッとした。
実は、ぼくも花粉症なんじゃないかって思っていた。
だって、ご主人様がぼくのためのしてくれた花粉症対策はかなり効果があったんだもん。空気清浄器をつけてから、クシャミの数も減ったし、目のかゆみもなくなった。目には見えないけど、お部屋の空気はきれいになったみたい。
お部屋の掃除もしっかりしてくれるから、気持ちがよかった。
窓を開けるときは、お掃除のとき。それと、お洗濯ものを干すときと、取り込むときだけにしてくれているから、できるだけ開けないようにしてくれていた。
そのおかげで、外から花粉が入ってくることが少なくなったみたい。入ってきても空気洗浄機があるから安心。
「ご主人様。ありがとう」
ぼくはご主人様に感謝した。やっぱりご主人様はいつもぼくのことを考えてくれているんだね。
「ぼくはご主人様に飼われて幸せにゃ」
心からそう思った。
なになに。
「手紙には、もし症状が悪化したり、ひどいようならまた病院に来て下さい。と書いてあるけど、きみの症状もよくなってきたから、このままおうちで過ごしていよう」
だって。
「あ~。よかったにゃ」
ぼくは心の中で思った。この調子なら、もう病院に行かなくても大丈夫そう。できることなら病院には行きたくないからね。
けど、お外に出られないのは悲しい。ぼくは窓際に行ってお外を見つめた。とてもあたたかそうだった。
「お日様が出ていてポカポカとあたたかそうだから、お外に行きたいにゃ。花粉症の症状もよくなったし。いいよね?」
そのとき、ご主人様はお洗濯ものを取り入れようと、窓を開けた。
すると、
「クシュン」
ぼくはくしゃみをした。
そして、目もかゆくなった。あまりにもかゆくて、
「ゴシゴシ」
と目をひっかいた。思いっきり目をひっかいたせいで痛かった。
どうやら、窓を開けたから花粉が入ってきたらしい。目には見えないけど、花粉は飛んでいたみたい。
やっぱり、おうちの中でおとなしくしているしかないみたい。それにしても、いつ飛ばなくなるのだろう。花粉ってやっかいだよね。これならまだ子どもたちの方がまだまし。あの子たちは、イタズラはするけど、ちゃんと目に見えるからね。
「クシュン」
またぼくはくしゃみをした。
「少し窓を開けただけなのに、花粉症の症状が出るなんて……。しばらくは、お外へ行くのは我慢にゃ~」
ぼくは急いで空気清浄器の前に行った。
「ピュー」
空気清浄器の風を受けながら
「花粉症が早くおさまって欲しいにゃ~」
そう心の中で願った。
《終わり》