ネコとみかん
「スピピ~。スピピ~」
ぼくは、特等席のストーブの前で眠っていると、
「コン」
ぼくの身体に何かが当たった感じがした。
目を覚ますと、ぼくのねずみのおもちゃが落ちていた。
んにゃ? おかしいにゃん。
きのうご主人様が、
「子ども達が来るから片付けてね」
と言っていたから、おもちゃ箱にちゃんと片付けたにゃん。
だから落ちているはずがない。
でも、ねずみのおもちゃが勝手に飛んでくるなんてありえない。
誰かが投げない限り……。
そんなことを思いながら周りを見ると、
「あっ。ボールも落ちている!」
ぼくのお気に入りのキラキラしたボールも落ちていた。
まさか、あまりにも寝相が悪くておもちゃ箱をひっくり返しちゃったのかにゃ……。
それくらいしか思い当るふしがなかった。
「ドンっ」
また何かが飛んできた。今度はテレビのリモコンにゃ!
「こんなのが当たったら、危ないにゃん!」
飛んできた方向を見ると子どもが二人いて、
顔を真っ赤にして怖い顔でものを投げ合っている。
その近くに、もう一人の子どもがいて、オロオロしながら見ている。
どうやらあの二人はケンカをして、どちらかの子が投げつけたみたい。
子ども達の近くには、ぼくのおもちゃ箱がひっくり返っている。
どうやらこの子たちが、ぼくのおもちゃを投げ合っていたみたい。
ぼくが悪いんじゃなくてホッとしたけど、
おもちゃを勝手に使って投げ合うなんてだめだよ。
そもそも投げること自体だめにゃん。
投げるものがなくなってリモコンを投げたらしい。
なんとかして止めないと……。
見たところ、子どもが投げられそうなものはもうなさそう。
あるとしたらコタツの上のみかんくらいにゃん。
コタツの上には大きなカゴがあって、その中にはたくさんのみかんが入っている。
あっ。子どもの一人がそのみかんを手に取り、投げた。
「ヒューン。ゴトッ」
コントロールが少しづれていたのか、みかんは当たらなかった。
すると、投げられた子どももみかんを手に取り、投げ返した。
「ヒューン。ゴトッ」
この子も、コントロールがづれて当たることはなかった。
二人とも目を見合わせている
このままいったら、投げ合いになりそう。
お互いにみかんを手に取り、投げようといている。
「食べ物を投げちゃだめにゃん。二人ともやめるにゃ!」
ぼくが二人の間に入ったら
「ポーン」
「ガンッ」
「ドンッ」
ぼくの頭とお腹にみかんが当たった。
「痛いにゃん」
ぼくは気を失った。
しばらく経って……
「ん?」
なんだか気配を感じる。
目を覚ますと、子ども達がぼくのことを見ている。
目があうと、子ども達がいっせいにぼくのことを呼び、
「ごめんね」
「痛くない?」
「大丈夫?」
と子ども達三人は口々に言った。
子ども達があまりにも心配そうなまなざしで見つめるので
ぼくはビックリした。
当ったときは痛かったけど、もう大丈夫!
「にゃ~ん」
とご機嫌な声でないた。
子ども達は安心したのか、ぼくの身体をさすり始めた。
「気持ちいいにゃ~ん」
と思っていたのはほんのひとときだった。
子どもたちはぼくの整った毛並みを思いっきり掻き立てはじめた。
「グシャグシャ!」
「にゃー!」
ぼくの毛並みが乱れたにゃん!
その姿を見ていた子ども達は大笑いをしている。
けど、ケンカはおさまって仲良くなったのだから、
今日は特別に許してあげるにゃ~。
痛い目にはあったし、毛並みもグシャグシャだけど、
いいことをしたっぽいから気分がいい。
「ふわ~」
ぼくはあくびをした。なんだかくたびれたし、
もうひと眠りするにゃん。
ぼくはストーブのところまで戻って身体を丸めて目を閉じた。
「スピピ~。スピピ~。もうケンカしないでにゃん」
≪終わり≫