ネコと缶けり(後編)
「早速だけど肉まん。最近、何かあったかい?」
ハリーはぼくに聞いてきた。
「子どもにイタズラされたり、ドジをして痛い目にあってばかりにゃ!」
ぼくはありのままを話した。
「相変わらずだなぁ。まぁ元気だしなよ」
ハリーは、いつものように聞いてくれた。
話しを聞いてくれるだけでもなんだか安心する。
ぼくは誰かにこのことを聞いて欲しかった。やっぱりぼくの気持ちを分ってくれるのは、同じネコ同士だよね。
ご主人様にはぼくの悩みなんか分かってもらえない。
ぼくは、ハリーに悩みを打ち明けると、他のネコたちもハリーに話しかけた。他のネコたちも色々と悩みを抱えているらしい。
いつもハリーがネコたちの聞き役となってネコの集会は進められていく。
あるネコは、
「ご主人様とケンカばかりしてうまくいっていない」
と怒っていたり、別のネコは、
「ご主人様がかまってくれなくなった。ぼくをほったらかしにして、友だちと遊びに出かけちゃう」
と言って、悲しそうな顔をしていた。
その他のネコたちも、次々と自分の不満をハリーに言った。
「エサをケチられ、おいしくないごはんにされた」
「変な服を無理やり着せされた」
「新しいおもちゃを買ってくれなくなった」
などなど、悩みやぐちを言っていた。みんなもそれなりに大変なんだね。ぼくよりも深刻な悩みを抱えているネコも多かった。
そして、一通りの報告は終わった。
「これで今日の報告会は終わりにしよう」
そう言うと、ハリーは大きな声で言った。
これが終わると、みんなが楽しみにしているイベントが始まる。
「今日も、みんなが楽しくなるようなイベントを企画したいと思っているのだけど、何かいい案はあるかい?」
と楽しそうな顔をして言った。
「ハリーに任せるにゃん」
ぼくは言った。他のネコたちもそんな感じだった。
すると、
「今日は、空き缶をけって、誰が一番遠くに飛ばせるかを競おうと思うのだけど、他に案はあるかい?」
とハリーはみんなに聞いた。他のみんなは、
「やりたーい」
「賛成ー」
「面白そう」
とネコたちはそれぞれ声を上げた。
「じゃぁ今日は、缶けりで決まりだ!」
とハリーは言った。
この空き地は、空き缶の回収場所になっている。回収日の前の日には、空き缶を入れる箱が置かれ、空き缶が入れられるようになっている。
すでに、空き缶は箱の中にたくさん入っていた。
ハリーはその箱がある場所に行き、箱の中から空き缶を一つ取り、転がしてみんながいる場所に運んで来た。
「順番に一匹ずつけって競争しよう。まずは肉まんからだ」
「えっ。ぼく?」
いやな予感がした。よりによってどうしてぼくなの?
「まずはみんなにお手本を見せてやってくれ」
「え~」
お手本と言われても……。ぼくはこうゆうのはニガテだった。
でも、ハリーに言われたからには仕方ない。しぶしぶ、思いっきりけった。
「スカ!」
缶は少しも動かなかった。
「あれ?」
見事に空振りだった。
「ははははー」
ハリーは高笑いをし、他のネコたちにも笑われている。
「は、恥ずかしいにゃん」
分かっていたとは言え、みんなの前で思いっきり空振りはやっぱり恥ずかしい。
ぼくはなんとしてもうまくけりたい! どうしてもみんなにいい所を見せたいから。
けど、ぼくはスポーツがニガテだからうまくできない。
おまけに、ぼくは太り気味だから、余計なお肉がついていて身体が動かしづらい。
ぼくがうまくけるのは無理なのかもしれない。どうしたらよいのだろう。
「肉まん、もう一度けってごらん。二回目ならうまくけることができるかもしれないよ」
ハリーは言った。
そうだよね。一回目は感覚がつかめなくてうまくけることができなかったのかもしれない。よし、もう一度、けってみよう。
「次こそは!」
と思いをこめてけってみた。
「ポン」
ぼくがけった空き缶は、コロコロとゆっくり転がって止まった。
さっきよりは進んだけど、飛んだとは言えない距離だった。
「おいおい。ちっとも飛んでいないじゃないか~」
とハリーは言った。他のネコたちは、さっきと同じように笑っている。これでは、ぼくはただのお笑い者。
じゃなかった。お笑いネコにされてしまう。
「どうしたらうまくけることができるのかにゃ~」
ぼくは思った。
そんなとき、ぼくの様子を見ていたネコの誰かがこう言った。
「ちゃんと空き缶をよく見て勢いよくけることができたら飛ぶよ」
確かにそうかもしれない。ぼくは、そのアドバイス通りによく缶を見て、勢いよくけった。
すると、
「スカ!」
勢いがよすぎて、空振りになってしまった。
アドバイスは何の効果もなかった。
「ははははー」
ハリーにも他のネコたちにもさっき以上に笑われ、ますますぼくのだめだめっぷりがみんなにさらされてしまった。
「は、恥ずかしいにゃん」
ぼくはしばらくみんなの顔を見ることができなかった。
もう、うまくけろうとすることはあきめよう。別な方法を考えよう。と言っても、すぐに思いつかなかった。けるということをしなければ、なんとかなるかも。ん? けらない……。
「それなら!」
ぼくはある方法を思いついた。
「ぼくは空き缶をけって飛ばすよりも、コロコロ転がす方が好きにゃん!」
ぼくは前足で空き缶を動かした。
「コロコロ~」
空き缶はうまく転がって行った。
そして、ぼくは空き缶を追いかけ続け、転がし続けた。
「コロコロ~」
空き缶はゆっくりとだけど、ちゃんと転がっている。
「にゃん♪ 楽しいにゃん♪」
ぼくは、空き缶をけって飛ばすより、転がす方が楽しいから、夢中になって転がした。
それを見ていた他のネコたちもみんな空き缶を持ってきて、転がして遊び始めた。他のネコたちも楽しそうに転がしている。
「コロコロ~」
これなら簡単だし、面白い。ぼくでも楽しく遊ぶことができる。
「おい、お前たち~! 空き缶けりはやらないのか~?」
と言っていたハリーすら、みんなが楽しそうに遊んでいるのを見て気になってしまい、
「仕方がないな~」
と言いながら、楽しそうに空き缶を転がして遊び始めた。
結局、「缶けり」が「缶転がし」になってしまった。
ネコの性格は気まぐれだから、ネコの集会のときの遊びは、こんな風になってしまうことが多い。
いつもこんな感じでネコの集会を楽しんでいる。
しばらく遊んでいたけど、次第にみんなは動かなくなっていた。空き缶を転がしているネコが少なくなっている。
どうやらみんなは飽き始めたらしい。寝ているネコもいれば、他のネコたちとおしゃべりをして楽しんでいるネコもいた。
ネコはそうゆう性格だからね。実はぼくも飽きてきた。こうなるとネコの集会は終わる。
「よし、みんな。そろそろ飽きてきただろうから帰ろう! 解散だ。次のネコの集会をするときはまた連絡する」
そうハリーが声をかけると、
「はーい」
ネコたちは口をそろえて返事をし、空き缶を片づけ、みんな帰って行った。
「ふにゃ~」
ぼくは大きく伸びをした。
「眠いにゃん」
ぼくもおうちに帰った。
「今日は、上手く缶けりができなくて恥をかいたから、次までに練習をしておこう」
と決めた。
「ん? ちょっと待って」
ぼくはふと思った。
「次のネコの集会で、また缶けりをやるとは限らないよね。今日みたいに、缶転がしになるかもしれない」
そう思ったのだ。
「う~ん」
ぼくはこれから缶けりの練習をするかどうか迷った。
「缶けりは上手い方がいいだろうし、いつかやるはずだから、やっぱり練習するべき」
と色々と迷ったけれど、
「ふにゃ~」
ぼくは眠たくなってその日は眠ってしまった。
「スピピ~。スピピ~。また明日にゃん」
と思いながら、目が覚めたときにはスッカリ忘れているのがいつものぼくにゃん
《終わり》