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ネコと鶏肉

「きみー。見て見てー」


 ご主人様はぼくを呼んだ。


「コトン」


 なにかをぼくの前に置いた音がした。


「なになに?」


 振り向いてみると、


「にゃにゃ!」

 

 ぼくは驚いた。そこには 大きなお肉の塊があった。 


「やっぱり、きみのお腹の方が大きいね」


 ご主人様は笑いながら言った。


「むーっ。失礼にゃん。ぼくのお腹の方が小さいにゃ!」


 と思ったけど、見比べるとぼくのお腹の方が少し大きかった。

恥かしいけど、ご主人様の言う通りだった。


 ところで、こんな大きなお肉を買ってきてどうするの?


 なになに。


「今日は子どもたちが来るから、このお肉を全部使ってお料理をするんだよ。お肉は子どもたちが喜ぶからね」


 だって。


 確かに、子どもたちはお肉が大好き。サラダは残すのに、サラダの上に乗っている蒸した鶏肉は全部食べてしまう。

それにしても、多すぎない?

いくら子どもたちがお肉が好きだからってそんなには食べられないでしょ。

 いつもだったらプラスチックのお皿に乗っていて「特売品」と書いてあるシールが貼ってあるお肉を買ってくる。

 それなのに、きょうのは大きな袋に入っていて、「業務用2キロ」と書いてある。


 こんなに大量のお肉をどうするのだろうとぼくは不思議に思った。

しかも、全部使うみたい。


 もしかして、子どもたち以外の人たちが来るのかにゃ。

それとも、お肉が安かったから隣の人におすそ分けでもするの?


 まさかご主人様、あのお肉を全部食べる気じゃないよね?

ご主人様もお肉が大好きだったことを今、思い出した。

子どものころにお腹いっぱいにお肉を食べたかった夢を

持っていて、それを今、叶えようとしていたりして……。


 それは危険だにゃん! 大人になったってだめなものはだめにゃん。

いくら鶏肉は栄養価が高くてお肉の割にはヘルシーって言われているけれど、そんなに食べたらまた太っちゃうにゃん。太っちゃうどころか食べすぎて病気になちゃうかもしれないにゃん。


 ぼくは確かめにキッチンへ行った。


「ご主人様~」


 お料理を作り始めているご主人様に近づいた。


 ぼくに気がついたご主人様は、こう声をかけた。


「どうしたの? まさか、さっき見せたお肉を全部食べようとしたとでも

思ったのかい?」


 ご主人様はぼくの考えていることはお見通しだったらしく笑いながら言った。


「もちろん。全部食べないよ。半分は鶏のから揚げにして、半分は

鶏ハムにするんだよ」


「鶏ハム? なにそれ」


 鶏のから揚げは子どもたちが好きだから分かるけれど、鶏ハムってなに?


「鶏ハムはね……」


 ご主人様は、鶏ハムの作り方を教えてくれた。


「お肉を包丁で切って広げて、塩・コショウをする。

それをラップにくるんでピッチリとしばる。

グツグツしているお湯が入っているお鍋の中に入れて作るんだよ」


 だって。


 へ~え~。簡単そう~。でも、ぼくは作らないけどね。

ネコだし。ぼくは食べる専門だから。


「鶏ハムは日持ちができるから余っても大丈夫。だからお肉をたくさん買って鶏ハムを作って、食べれない分は保存しようと思っているんだよ」


 ご主人様はそう言った。

 鶏ハムってすごいね~。

 さて、鶏ハムのことはよくわかったからできるまで待っていることにするにゃん。

人間の食べ物はあんまり食べちゃいけないから、

たくさんは食べられないけれど、少しくらいはくれるはずだにゃん。


 ぼくはリビングに戻り、


「スピピ~。鶏ハム~」


 ぼくは眠った。



 それから数時間後、


「お腹がすいたにゃ~」


 ぼくはキッチンに行くと、ご主人様がいて包丁でなにかを切っていた。


「鶏ハムできたかにゃ~」


 ぼくは近づいて行くと、


「相変わらずきみはこういうときだけタイミングがいいね。これだよ」


 ご主人様の手のひらには、白いお肉が乗っていた。


「へ~え~。これが鶏ハムなのね」


 この見た目ではおいしいというのは伝わりづらいにゃん。

白っぽいただの蒸し鶏にしか見えない。

なにかをつけたりするのかな?


「あっ」


 ぼくは思い出した。

この前、ご主人様といっしょに見ていたお料理番組で鶏ハムを作っていたことを。

それによると、鶏ハムにおいしそうなソースをかけたり、野菜の上に乗せていた。


「これから焼いた食パンに野菜とチーズと鶏ハムをはさんで

ホットサンドにするんだよ。子どもたちはホットサンド大好きだからね」


 どうやら、野菜を食べさせる作戦に出たらしい。

子どもたちはホットサンドにすると野菜も食べるにゃん。


「パチパチッ」


 コンロの辺りから音が聞こえてきた。

どうやら、ご主人様はから揚げを作っていたらしい。

から揚げは子どもたちが来るときはよく作る。

子どもたちは喜ぶし、一度にたくさん作れるからご主人様にとって都合のいい料理らしい。


 ご主人様は、できあがったから揚げをお皿に乗せてリビングに運んだ。


「待ってましたー」と言わんばかりにぼくはピョーンと飛んでテーブルの上に乗った。

このときばかりは重いはずのぼく身体は軽やかに飛べた。


「いっただっきまーす」


 ぼくはから揚げに近づいた。


「ちょっと待って。きみー」


 ご主人様の声よりも先にから揚げを食べた。


「熱いにゃん!」


 ぼくは思わず、悲鳴をあげた。から揚げができたてだってことを忘れていた。

ご主人様は、「きみならそうするか思ったよー」って顔をした。

 

 分かっていたならもっと早くに止めて欲しかったにゃん。

ネコはあたたかいものがニガテ。


「ご主人様~。から揚げも鶏ハムも冷めてからちょーだい」


 ぼくはニコニコしながらアピールしたけれど、

それに気づいたご主人様は見ないふりをしてキッチンに戻った。


「待って~。ご主人様~。食べものは冷たくてもいいけど、

ぼくに冷たくしないでにゃ~」


 ぼくはご主人様を追いかけた。



《終わり》


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