ネコとウサギ
「ニャムニャム。スピピ~スピピ~」
いつものように、ぼくが気持ちよく眠っていると、
「んにゃ? 何だか気配を感じるにゃん」
ぼくの目の前に”何かがいる”そんな気がした。
多分、この気配は、ご主人様ではないと思った。
長年いっしょに住んでいたら、ご主人様の気配くらいは分かる。
かと言って、ぼくの天敵、子どもたちでもないはず。
だって、微妙な息使いが聞こえるから。
「もしかして、お化け?」
それなら怖いけど、お化けがぼくに用事があるとも思えない。
アレコレと考えてみたけれど、答えは出なかった。
きっと、ぼくが目を開けたら、きっと相手は気づかれてしまう。
でもこのまま目を閉じていたら、何かされてしまうかもしれない。
子どもたちのようにイタズラされたらたまったものじゃない!!
「どうしようかにゃ……」
ぼくは迷った。
このままだと何も変わらないから、思い切って、確かめることにした。
ぼくは、そぉ~と、そぉ~と目を開けた。
するとぼくの目の前にいたのは、ウサギだった!!
「ウサギがいるにゃん!!」
ぼくは思わずビックリして体を起こした。
「こんにちは」
ウサギが話しかけてきた。
「こ、こんにちは」
ぼくもあわてて挨拶をした。
この前、ご主人様がウサギのぬいぐるみを持って帰ってきたけど、
今度は本物のウサギ。
「あなたが肉まんね」
ウサギはぼくの名前を知っていた。
「どうしてぼくの名前を知っているのかにゃ?」
「あなたのご主人様がそう呼んでいたからよ。私が来たから、起こそうとしてくれたのだけど、何度呼んでも起きないから、諦めたみたい」
「へ~え~。そうだったんだぁ」
ぼく、かなり熟睡していたんだね。しかもお客さんがいる前で……。
かなり恥ずかしい。「で、そのうち起きるから気長に待っていてと言われたから私はずーっとあなたのことを見ていたのよ」
「いつから?」
「一時間前から」
「そんな前から?」
ずいぶんとのんびり屋さんなのかなぁ。一時間も前からぼくの目の前にいたってことだし。それに気づかないぼくもぼくだけど……。
「あっ、そうだ。きみの名前は?」
「みう。ご主人様が美しい卯だからってつけてくれたの」
みうは堂々と言った。
「そうなんだにゃ……」
自分で言っちゃうんだ。美しいうさぎって……。
かわいいことは事実だけど、ミーコに言ったらにらまれそう。
みうはニコニコしながらぼくを見ている。
「今日はどうしてぼくのおうちに来ているのかにゃ?」
「私のご主人様のあいちゃんがね、私が寂しそうに見えたんだって。それで、肉まんが遊び相手になってくれるかもしれないと思って、連れてきてくれたのよ」
「へーえー」
それって、ネコとウサギが仲よく遊ぶと思ったってこと?
普通はこのような考えにはならないと思うけど……。
ぼくはウサギであってもカメであっても仲よくするけど、
ぼく以外のネコだったらおそわれてしまうかもしれないよ。まぁぼくだったから大丈夫と思って連れてきたっぽいけどね。
「ん? さっき、みうのご主人様はあいちゃんって言ったよね?」
「そうよ」
「あいちゃんって、長い髪の毛の人だよね?」
「そうそう。肉まんも知っているのね」
「もちろんにゃん!」
あいちゃんはご主人様のいとこ。
たまにぼくのおうちに遊びに来ている。
ぼくをだっこしたら手を滑らせて高いところから落っことしたり、
ぼくをなでていたら、あいちゃんの長い爪がぼくの毛に引っ掛かり、
思いっきり抜けてしまったこともあった。
悪気はないとは思うけど、
毎回のようにあいちゃんには痛い目にあわされている。
そっか~。あいちゃんはウサギを飼い始めたんだね。
みうにはお友達がいないからぼくのおうちに来たってことみたい。
「ガチャ」
戸が開く音がして、ご主人様とあいちゃんが入ってきた。
あいちゃんは、袋の中から何かを取り出した。
先端に長い羽とボンボンのついた棒だった。
そして、フリフリしながらそれをぼくに近づけてきた。
「コレはネコじゃらしにゃ!」
どうやらコレでぼくと遊ぼうとしているみたい。
あいちゃんはうまく使いこなせてなくて、ネコじゃらしの動きが
ブランブランと不思議な動きをしている。そんな動きが気になってしまい、
ネコじゃらしをながめていると、フリフリした先端が勢いよくぼくの顔に当たった!!
「にゃ~。痛いにゃ!」
ぼくは悲鳴を上げ、その場にうずくまってしまった。
あいちゃんはぼくに謝りつつも、顔は大笑いしている。
ふと、みうを見ると、クスクスほくそ笑んでいる。
こんなにぼくが苦しんでいるのに……。ひどい!
あいちゃんもみうも、やっぱり似た者同士だよ。
性格も行動も似ている。
よく飼い主とペットは似てくるって言うけど、
ペットが飼い主に似るのか、飼い主がペットに似るのか、
謎は深まるばかり。
けど、実はそんなことはどうでもよくて、
「とにかく痛いにゃん……」
《終わり》