ネコとガムテープ(後編)
「ピンポーン」
誰か来たっぽいにゃん。ご主人様は、伸ばしかけたガムテープを床に置いて玄関に向かった。
ぼくはガムテープを見て思った。
「ご主人様のお手伝いするにゃ!」
ぼくはガムテープを手に取り、伸ばそうとしたら、手が小さくて、うまく伸ばすことができなかった。
それどころか、
「あっ」
ガムテープが滑って、ぼくの手にぐるぐるまとわりついた。
「ガムテープがくっついちゃったにゃん」
ぼくは必死でもがくけど、はがれない。
それどころか、余計ぐるぐると巻きついてしまった。
「どうしよう。とれないにゃ!」
ガムテープがこんなにペタペタとくっつくものだと思わなかった。
「にゃ~!」
ぼくがガムテープと格闘していたら、ご主人様が戻ってきた。
ご主人様は、ぼくを見て、
「べリべリべリべリ~」
思いっきり、ぼくについていたガムテープをはがした。
「痛いにゃ!」
ガムテープをはがしてもらえたのはよかったけど、ガムテープには、ぼくの毛がいっぱいついていた。
「ぼくの毛が~」
ぼくには毛がいっぱい生えているけど、こんなに抜けると少しぞっとした。
そして、ご主人様に、
「ガムテープで遊んではいけないよ」
と叱られた。
ぼくはお手伝いしたいだけなのに……。
そう言えば、ご主人様といっしょにテレビを見ていたら、こんな話しをしているのを思い出した。せっかくいいことをしていたのに、その人にとってはわずらわしいことだったみたいで、
「小さな親切、余計なお世話」
とテレビで言っていた。
ぼくがお手伝いしたことは余計なお世話しだったのかもしれない……。もしそうなら悲しい。
「ガムテープには触らないにゃん! 毛は抜けるし、ご主人様に怒られちゃうし!」
ぼくはそう心に決めた。
ご主人様はそんなぼくの気持ちに気づくことなく、
「べリべリべリべリ~」
とガムテープを伸ばしてダンボールに貼りつけてふたをした。
どうしていつもご主人様は、ぼくのこと分ってくれないのだろう。
子どもたちにイタズラされていたから、反撃しようとする。
そうすると、ぼくが子どもたちに悪いことをしているように見えるらしい。
ぼくは日頃の怒りがこみ上げてきた。
「プイにゃん! ぼくは悪くないにゃ!」
ぼくは怒って隣のお部屋に行った。
そして、ぼく用の毛布の中にもぐりこみ、まるまった。
「ぼくのことを探しに来たってむだにゃん。ご主人様がぼくに謝らない限り、ここから動かないにゃん。ご主人様なんかきらいにゃ!」
ぼくの怒りは爆発していた。
けど、それは長くは続かなかった。
一時間後。
「ぐ~」
ぼくのお腹がなった。
「お腹がすいたにゃ~」
ぼくのお腹は相変わらず正直だった。
「でも、我慢にゃん。ここでご主人様がいるお部屋に行ったら、ぼくの気持ちは伝わらなくなってしまうにゃん」
「ぐ~」
う~。我慢は辛い。いつもならこの時間はごはんを食べ終えている時間。お腹がすくのは仕方ない。
すると、ご主人様がお部屋に入ってきた。ごはんの時間がすぎているのに、リビングにいないから探しにきたのかもしれない。
「ごはんの時間だよ」
だって。
「ぼくはご主人様が謝ってくれるまでここを動かないにゃ!」
と自分に言いきかせ、その場を動かなかった。
「ぐ~」
またお腹がなった。
「ぐ~。ぐ~」
お腹がなる音は止まることはなかった。
「ぐ~。ぐ~。ぐ~」
ここまでなると、さすがに恥ずかしい。
さすがにご主人様も何かあったと思ったみたいで、ようやくぼくの気持ちに気づいたらしい。
「さっきはごめんね。きみは一生懸命手伝ってくれたんだよね。ありがとう」
と言った。
「分かってくれたの? うれしいにゃん」
ぼくは毛布から飛び出てご主人様の所に走った。
「ご主人様~。大好きにゃん」
ご主人様に飛びつこうとしたら……
「せっかくだからダイエットしたら?」
ご主人様はポツリと言った。
「えっ?」
ぼくは思わず固まった。
「どうせきみは、謝ってもらうまでここから出てくるつもりがなかったんでしょ」
ズバリと言い当てた。
「きみに『ありがとう』とは言ったけど『謝って』はいないからね。きみこそ『謝る』べきだよ」
ご主人様は続けてそう言った。
「んにゃ? どうゆうこと?」
ぼくには何のことだか分らなかった。
「きみがつまみ食いをしていることを知らないとでも思った? 私が作ったごはんのおかずを、数えきれないくらいつまみ食いをしているよね。きみにとってはこっそりやっているつもりなのかもしれないけれど、あれはごっそりだよ」
最初は一つだけでいいから食べたくて、こっそりやっていたけれど、おいしくてついつい手を出してしまった。だから最終的には、こっそりではなくごっそりになっちゃったみたい。
ご主人様は、「何もかもお見通しです」みたいな顔をしている。
「バレてるにゃ~」
ぼくは思わずギクッて顔をした。
「ごめんなさい。ぼくが悪かったにゃ~」
ぼくは誠意を込めてないて謝った。
「ぐ~」
またお腹がなった。
「ぼく、お腹すいたにゃ~。ごはんちょうだい。もう『謝って』くれなくていいにゃん」
ぼくは必死に訴えた。
すると、ご主人様はニヤッと笑った。
どうやらご主人様の方が一枚上手だったみたい。
「今まで、一番手ごわいのは子どもたちだと思っていた。けど、それは違うにゃん。一番手ごわいのはご主人様にゃ~」
ぼくの手の内をすべて知りつくしているご主人様には勝てないと思った。
《終わり》