ネコとどろぼう
「スピピ~。スピピ~」
コタツの中で気持ちよく寝ていたら、
「ガチャガチャガチャガチャ!!」
と、乱暴に玄関を開ける音で目が覚めた。
「ご主人様が帰ってきたのかにゃ?」
コタツを抜け出してリビング入口から覗いてみると……。
「んにゃ? 誰?この人??」
玄関には見知らぬ男の人が立っている。
ぼくを見た瞬間、ビクっとしていたけど、
「な~んだ。ネコかぁ」って顔をして男の人はくつを脱ぎ捨てズカズカとおうちに入って来た。
人のおうちに勝手に入り込んで、この態度は失礼だよ。
ぼくをネコだと思ってバカにしているにしているのかもしれない。
男の人はリビングに入り、引き出しの取っ手をつかんだ。
次から次へと開ける。まるで何かを探しているかのように。
「人のおうちに勝手に入り込んで、いきなり引き出しを開けようとするなんて、礼儀知らずにゃん!!」
ぼくはプンプンと腹を立てた。
この男の人は、黒いぼうしに黒いコートを着て小太りだった。
見るからに怪しい感じがする。
しかも、大きなバッグを持っている。
ぼくがこの男の人に近づいて
「何をやっているの?」
と鳴いて聞いてみた。
すると、ビクって顔をした。とても怪しすぎる。
「これじゃぁまるで泥棒みたいにゃ!」
ぼくはあらためてその男を見た。
「あー!この怪しげな男は本当の泥棒にゃ。格好も行動も、上から下まで泥棒っぽいから絶対にどうにゃ!」
ぼくはこの怪しげな男の正体に気がついたとき、
「グ~」
静まり返った部屋で、お腹の音が鳴った。
この音はぼくじゃなくて、泥棒のお腹の音。
「もしかして、腹ペコなのかにゃ?」
泥棒は、引き出しの取っ手を放してリビングを抜けキッチンに向かった。
ぼくはそれを見てそっと尾行を開始した。
キッチンは暗くて電気をつけないと周りがよく見えない。
ぼくはネコだから暗くても見えるけど、人の目には見えづらい明るさ。
だからご主人様はいつも電気をつけてキッチンに入っている。
最初泥棒は、手探りで壁を触っていたけど、電気のスイッチの場所が分らなかったから諦めたみたい。
すると、
「痛っ」
という声がした。
電気をつけずにキッチンに入った泥棒は、暗さのあまり、何かにつまずいたらしい。
泥棒がつまずいたものを拾い上げると、その手に持っていたものは高級キャットフードの『ネコセレブ』だった。
おそらく、ご主人様がぼくのために、お買い得の日にまとめ買いしておいてくれたみたい。
どこかに片づけようとしていたけど、めんどくさくなって、そのまま置きっぱなしにしたっぽい。
そんなことを考えていたら、泥棒は何を思ったのか、『ネコセレブ』を拾い上げポッケに入れた。
すると、近くにあった他のネコセレブを拾い上げてポッケに入れようとしていた。
「やだー! 持っていかないでにゃ! よく見てにゃん。それはツナ缶じゃないにゃん。高級キャットフードにゃん。ぼくの『ネコセレブ』返してにゃ!!」
ぼくは必死に鳴いて泥棒の足を引っかいた。
「痛いっ!」
泥棒は言った。
「絶対に、持って行かないでにゃ~!!」
ぼくはさらに大声で鳴いて、泥棒の足を引っかいた。
泥棒はもっと痛がっている。
そんなとき、
「ガチャ」
玄関が開いた音がした。
「にゃ! 今度こそご主人様が帰って来たにゃ~」
泥棒を見ると、真っ青な顔をしてワタワタしている。
そして、キッチンからリビングを抜けそのまま窓から逃げて行った。
一方、ご主人様は見知らぬ靴があることに気づき、慌てておうちに入ってきた。リビングやご主人様の部屋などおうちの中を見回し始めた。
「カチッ」
と電気をつけ、最後にキッチンに入って来て、ぼくを見つけた。周りを見渡したけど、盗られたものがネコセレブ一缶だけだということが分かり、ホッとしていた。
「ご主人様~。帰ってきてくれてよかったにゃ~」
ぼくはネコなのにワンワン鳴いた。
ご主人様は、ぼくの頭をなでなでしてくれて、ネコセレブの缶を開けてぼくのお皿に入れて食べさせてくれた。
「今日は特別な日じゃないのにぼくにくれるの? ご主人様ありがとう~」
ぼくはパクパク食べた。
それにしてもさっきはひどい目にあった。
けど、ぼくも泥棒を思いっきり引っかいたから痛かったはず。
しかも、そのままおうちを飛び出したから、靴は履いていない。
外は雪が降っていてサムサムだから、この寒さで足はかじかむし、痛い。おまけにしもやけになるかもしれない。
「これこそ自業自得にゃん」
まあ、ネコセレブ一缶を盗んだ恨みにはほど遠いけど、今回は特別に多めに見よう。
『ネコセレブ』が食べられたことと、泥棒を退治したことでぼくはすっかりご機嫌になった。
「お腹もふくれたことだし、もうひと眠りしようかにゃ」
ぼくはコタツの中に潜り込んだ。
《終わり》