ネコのダンス
いつものようにリビングでくつろいでいると、
「にゃんにゃん~」
テレビから聞いたことがある歌が聞こえてきた。
「あっ! 『にゃんにゃんプリンセス』の時間だにゃん」
ぼくは重いお腹を動かしてテレビの目の前に座った。
『にゃんにゃんプリンセス』とは、ネコのたまひめが主人公のネコアニメで、ダンスが好きなお嬢様ネコのたまひめが、立派なダンサーを夢見て「ダンシングプリンセス」を目指すというアニメ番組。
『にゃんにゃんプリンセス』はとても人気があるから、子どもなら知らない子どもはいないくら人気がある。ぼくも好きで、毎週欠かさず見ている。
その理由は、面白いからだけじゃなくて、エンディングテーマが流れるときにある。
エンディングテーマが流れると、たまひめや他のネコたちが、かわいくシッポをフリフリしたり、招きネコのように腕を動かして踊る。
それを見ていた子どもがまねをしだして踊るのが流行っている。
その姿を見た大人が、
「あれっ」
と思い、試しに踊ったんだって。
そのとき、腰を動かす運動だったからお腹のシェイプアップに効くことに気がついたらしい。
それでたちまち評判になり、子どもたちも大人たちもそして、ネコたちも楽しんで見る番組になった。
毎回登場するネコたちはおしゃれな姿をしている。女の子のネコたちはかわいいドレスやキラキラして豪華なコスチュームを着て踊っている。男の子のネコはカッコいいスーツを着て踊っている。
そんなかわいいネコやカッコイイネコが踊る姿に本物のネコたちも釘づけ。
アニメでは、たまひめと他のネコたちのダンス大会があって、ぼくもマネをして踊っているんだけど、なかなかむずかしい。
お腹が重いせいもあるけれど、やっぱり運動は苦手。
けど、もっと下手なのはご主人様。
「あ、ご主人様が来たにゃん」
ご主人様は、番組が終わる少し前にテレビを見に来る。
エンディングに放送されている『にゃんにゃんダンス』を見るために。
ご主人様も、『にゃんにゃんダンス』に最近はまっている。お腹がぷにぷにしてきたのが気になりだし、なんとかしたいらしい。
「今週は、これでおしまい。また見てにゃんにゃん♪」
たまひめが言った。
毎週このアニメを見ていて思うけど、あっというまに終わっちゃう。楽しいことって時間が経つのが早すぎる。
すると、
「にゃにゃ~ん」
エンディングテーマが流れ、ネコがかわいくダンスを踊り始めた。
『にゃんにゃんダンス』の始まりにゃん。
「にゃんにゃんダンス。にゃんダンス~。かわいくシッポをフリフリ♪」
ぼくもシッポをフリフリさせる。
シッポフリフリは普段からしているからぼくにとってはなんてことはないことだけど、
隣にいるご主人様はには難しいみたい。シッポの代わりに腰をフリフリさせているけど、動きが硬くてまるでロボットみたい。
「にゃにゃん」
この動きには毎回笑ってしまう。
「にゃんにゃんダンス。にゃんダンス~。お手て広げて右も左もぶ~らぶら♪」
この手招きは大変。
普段、ネコはこんな手の動かし方はしないから、何度も続けてやったら結構疲れる。
だから、お店にある置物の招きネコは電気式や電池式なんじゃないかと思う。
ご主人様は腕のふりが小さくて、
「ちょっと、そこの人……」
と呼び止めているような動きに見える。
まるで、おばさんみたい。
「ぷっ」
毎回のこととは言え、ぼくは思わず噴出してしまった。
「にゃんにゃんダンス。にゃんダンス~。右足、左足、ワンツーワンツー♪」
これはネコも難しい。右足を横に動かしてすぐに左足を横に動かす動き。
「にゃにゃにゃにゃん!」
うまく動かせなくて、足が絡まりそう。
けど、隣のご主人様も足はもっと大変そうで、足がギクシャクしている。
「ぼくよりひどいにゃん」
あまりの動きの悪さに声も出なかった。
すると、ご主人様は足がもつれて、ぼくの身体に足が当たった。
「ゲシッ」
「にゃー!」
ぼくは思わず悲鳴を上げた。
これで何度目だろう。ぼくは何度もこんな痛い目にあっている。
「ごめんね~」
ご主人様はぼくに謝った。
まだお腹がジーンと痛い。笑っていたぼくも悪いけど、少しは上達して欲しい。
「来週こそは、ぼくの身体にぶつからないで欲しいにゃ!」
とぼくは心から願った。
《終わり》