ネコともみじ
「スピピ~。スピピ~」
ぼくはいつものように眠っていたら、
「きみー。お出かけするよ。起きて」
ご主人様がぼくを起こした。
「どこへ行くのかにゃ?」
なになに。
「今日はお出かけして秋を楽しみにもみじを行こうよ」
だって。
「今日は日曜日だよ。だから、外には人がいっぱいいるでしょ? ぼく、
人込みいやにゃん」
ぼくは気が乗らなかったからそっぽを向いた。
その態度が気に入らなかったのか、
「どうせきみは車に乗って、目的地に着くまで寝ているだけでしょ。ほらおいで!」
「ガシッ」
ぼくの身体は宙に浮いた。
「えっ。なになに?」
ご主人様はぼくを捕まえ持ち上げていた。
「分かったにゃん。行くにゃ~ん」
こうしてぼくは強制的に車に乗せられた。
金沢市内は予想通り混んでいた。暖かい日差しがちょうどよくぼくに当たっていたせいもあって、ぼくはご主人様の言う通り隣で
「スピピ~。スピピ~」
と眠っていた。
車が止まるとぼくは目が覚めた。
「着いたよ」
ご主人様がそう言うと、ぼくは降りた。
ぼくたちの目の前には立派なお屋敷があった。
「ここは寺島蔵人邸だよ。江戸時代の武家屋敷で、
寺島家に伝わる掛け軸やお茶碗があるんだよ。お座敷やお茶の間もあるんだよ」
ご主人様は言った。
当然ながらぼくはこの武家屋敷の中に入ることはできないから展示品を見ることはできない。
だってネコだし。もし入ることできても、掛け軸もお茶碗も興味ないにゃん。
お座敷もお茶の間だってぼくにはよさが理解できない。
どうしてここに連れてきたのかにゃぁ……。
なになに
「大丈夫。きみに見せたいのはコッチだよ」
ぼくはご主人様についていくと、そこにはもみじがたくさん咲いていた。
「にゃー。キレイにゃん」
なになに
「これは“どうだんつつじ”っていうんだよ。大きいでしょ。三百年以上もここにあるんだよ」
だって。
もみじなのにつつじという名前も気になったけど、もっと気になったのは、
赤や黄色のもみじがたくさん落ちていて、
まるで、もみじがじゅうたんになっていた。
「ゴロゴロ~」
もみじのじゅうたんに転がってみた。
しかし、
「痛いにゃん!」
もみじに隠れて見えなかったけど、風が吹くと、石畳とじゃりが見えた。
「この上にゴロゴロするなんて痛いに決まっているにゃん」
見た目はじゅうたんだけど、やっぱりもみじ。
“じゅうたんみたい”と“じゅうたん”の違いは大きかった。
「きみならやると思ったよ」
ご主人は呆れた声で言った。
「ポンポン」
と軽くなでてぼくの身体の汚れを落としてくれた。
ご主人様は次の場所に連れて行ってくれた。
車が止まり、外を眺めると、ここはぼくでもわかる場所だった。
「兼六園にゃん」
日本だけじゃなくて外国でも有名な庭園らしい。
「うわ~。もみじがキレイにゃん」
赤いもみじが木を埋めつくしていた。
もみじの後ろにある松の木が緑色だから、
赤と緑の組み合わせがさらにステキさせているにゃん。
ぼくはうっとりしながら見ていた。
「さぁ。秋を楽しんだから、ごはん食べに行こうか」
ご主人様の目はさっきよりも輝いていた。
「えっ。もう行くの? ぼくはまだ見たい。もうちょっと見て行こうよ」
と思っていたのに、ご主人様は行ってしまった。
「待って~」
ぼくは追いかけた。
「秋と言えば、食欲の秋だよね。せっかくだから秋グルメを食べたいよね。
金沢カレーかなぁそれともハントンライス。久しぶりにとり野菜なべを食べに行くのもいいかなぁ」
ご主人様は食べることで頭がいっぱいみたいにゃん。
「それって、秋じゃなくても食べられる金沢グルメにゃん」
ぼくはそう思った。
「にゃ! もしかして、ご主人様はもみじを見に行きたかったんじゃなくて、
ごはんを食べに行きたくて出かけたのかも。もみじはついでに見に行ったっぽい。
で、ぼくをおまけに連れて行った。その可能性は高いにゃん。
ご主人様は寂しがりやだから、一人で行くよりも、もう一匹連れて行こうと思ったんじゃないかな。
ぼくも人のことは言えないけれど、寂しがり屋だし、食べるのは大好きにゃ!
「もし食べに行くなら、ぼくも食べられるものにしてにゃ! ノドグロが食べたいなんて贅沢は言わないにゃん。ブリやサンマでいいにゃ!」
ぼくご主人様を追いかけながら叫んだ。秋はといえば、紅葉の秋ではなく、食欲の秋にゃん。
《終わり》