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ネコとお酒

 ぼくが大好きなネコアニメを見ていると、

ご主人様がキャットフードを運んできてくれた。

ご主人様もこれからごはんを食べるっぽいみたいで、

リビングのテーブルの上にご主人様は自分が食べるごはんを運んでいる。

 もうちょっとでネコアニメを見終わるし、そのころにはご主人様が食べる準備ができるだろうから、それまで食べるのを待つことにした。

 ぼくが思った通り、ネコアニメが終わったころご主人様はテーブルの前に座った。

「いっただきまーす」

 お腹をすかせていたぼくは、早速食べ始めた。

しばらく食べていると、

ご主人様は突然スクッと立ち上がり、部屋を出て台所に向かった。

「いつものアレをとりに行ったのかにゃ?」

 ご主人様は大きな瓶とぐいのみを持ってリビングに戻ってきた。

やっぱり、アレを持って来た。


「いつも思うのだけど、あの大きな瓶って何が入っているのだろう……。

お水っぽい感じなのだけど、お水じゃないみたいにゃん」

 毎年冬になるとご主人様はほぼ毎晩、大きな瓶からお水っぽいものを「ぐいのみ」と言う小さくてまるくて深いうつわに注いで飲んでいる。

 しばらくすると顔が赤くなって機嫌もよくなる。そして最後に寝ちゃう。

「気になるにゃ……」

 ぼくもどうしてもアレを飲んでみたい。

きっとおいしいに違いないもん。

 でも、どうやったら飲めるかなぁ。

大きな瓶にはいつもかたそうな栓がしてあるから、ぼくの力では開けられない。

 しかも、ぼくの肉球では開けることはできないと思う。

それに、ご主人様のグラスに近寄って手を伸ばしたらこっぴどく怒られそうだし……。

「どうしたらいいかにゃ~。ぼくも一口いや、ひとなめさせて欲しい。

だからぼくはあきらめないでやれることはやってみるにゃん!」

 そんな決意をしていると、


「ピンポーン」

 玄関チャイムが鳴った。

「んにゃ~。誰か来たっぽいにゃ~」

 ぐいのみに注いでいた手を止めてご主人様はさっと立って、

玄関に行った。

誰が来たのか気になって。リビングから首を出し、廊下を覗くと、玄関には見知らぬ男の人がいて何か話している。

あの様子を見る限り、あの人はセールスの営業員。

重そうなカバンからパンフレットを広げ、身振り手振り大げさに、話しこんでいる。

ご主人様は、この手の人に弱い。困った顔をしながら話を聞いている。

本当は、

「絶対に買いたくないから早く帰って欲しい」と思っているはず。

 けど、ご主人様の性格からすると、

なかなか言いづらくてスパッと断るのができない。

ご主人様はいつもそう。近所のおばさんに会うたびに毎回同じ話を聞かされていても、

誰かに興味がない話を一方的に話されてもずっと聞いている。

 ご主人様の心の声は、

「もうお話は結構です。お帰り下さい」

 と言っているはず。

 

 誰が来たのか分かったぼくは、首を引っこめて元の位置に戻りテーブルの上を見たとき、大きな瓶の栓が開いたままになっているのに気がついた。ご主人様はさっきまで、ぐいのみに注いでとしていたことをすっかり忘れていた。

「今がチャーンス。この機会を逃すわけにはいかないにゃん」

ぼくは、さっとテーブルの上に飛び乗り、並々と注がれたぐいのみの前にやって来た。

「さぁどんな味がするのかにゃん」

 ぼくは、ぐいのみの中に入っているお水っぽいものを舐めた。

「不思議な味にゃん」

 よく分らないけど、また欲しくなり舐めた。

「やめられない感じにゃ!」

 ぼくはすっかり気に入ってしまい、その後も舐め続けた。

すっかり量が減ってしまい、舌が届かない深さになるまで舐めてしまった。

「どうしたらいいかにゃ~」

 ふとテーブルを見たら

「あっ。そうだ! お皿に移して飲んだらいいにゃん」

 ぼくはぐいのみを近くにあったお皿に倒した。

お水みたいなものはお皿の上にこぼれた。

「うまくいったにゃん」

 舐めやすくなったせいもあり、ペロペロとひたすら舐め続け、

あっという間になくなってしまった。

 大きな瓶にはこう書いてあった。「日本酒」と。

でもぼくにはこれが何なのか分らなかった。


 そして、飲んだ結果、こうなった。

「ご機嫌にゃん。何だか気分がよくなってきたにゃん」

 すると……。


「辺りがくるくるしてきたにゃん……。目が回るにゃ~」

身体がフラフラしてきて、とても眠くなってきた。

「バタン」

 とうとうテーブルから落ちてしまった。

「痛いにゃ……。けど、眠いにゃ……」


 その後、ご主人様がリビングに戻ってきて、

倒れているぐいのみを見て、何があったのか分かったみたい。

慌ててぼくを起こしたのだけど、

ぼくは眠気に逆らえず起きることができなかった。


思えばご主人様もそうだった。

ご主人様は、あのお水を飲むといつも布団もかけずに寝ちゃうから、

ぼくは必死で起こすのだけど、全然起きてくれない。

ご主人様もきっと眠気に逆らえず起きることができなかったに違いない。


 それにしてとても、不思議な水だった。

フラフラして気持ちよくなり、目が回って眠くなる……。

眠くて眠くて仕方ないけど、気分はとても最高~。


「きっと、ネコセレブに負けずとも劣らない最高級の飲み物だよ。また欲しいにゃん」

ぼくはそんなことを考えながら、心地よい眠りについていた。

翌日、強い頭痛と吐き気におそわれるとも知らず……。

「スピピ~。スピピ~。とても幸せにゃ……」



《終わり》







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