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ネコとクッキー(後編)

「んにゃ?」

ぼくは、おいしそうなにおいで目が覚めた。

においに誘われて、キッチンへ行くと、

ご主人様がエプロン姿で立っている。

ぼくがそばにいることに気がついたご主人様が話しかけてきた。


 なになに。

「きみ用のクッキーを作ったから、おやつの時間に食べさせてあげるよ」

だって。

「ぼくのために作ってくれたの? うれしいにゃ!」

 ご主人様はお料理が得意だからたまにぼくにもごはんやお菓子を作ってくれる。

 ネコが人間の食べるものを食べるのはよくないから、わざわざ作ってもくれる。

「それならおやつの時間まで眠って待っているにゃん」

 と言うことで、

「スピピ~。スピピ~」

 ぼくは寝て待つことにした。


 やがて時計の針が三時を指したころ、パッと目が覚めた。

「おやつの時間だにゃん」

 リビングで待っていると、透明な袋の中にクッキーが入っていた。

あれ? この形のクッキーって……。

なになに。

「これは、きみ用のおみくじクッキーだよ。このクッキーを一つ取って、このお皿に置いて」

だって。

 ご主人様はネコ用のおみくじクッキーを作ってくれたんだ~。

ぼくは一つ掴み、ズリズリと引きずってお皿の上に置いた。

ぼくがかじった。

「パキン」

 とかたそうな音を立てた。

すると、クッキーの中から紙が出てきた。

紙は小さく折りたたまれていたけど、ぼくの口の中には入らない大きさではないから、

安心してかじれる。

 ご主人様はその紙をひらっているあいだ、クッキーを食べた。

この前、ご主人様が持ってきたおみくじクッキーは、人間用のおみくじクッキーだったから、食べることができなかった。

だから、今日は食べることができてうれしい。

「パクッ」

 クッキーはとてもおいしかった。

ぼくは食べ終わると、おみくじの結果が気に入になった。

ご主人様は、おみくじの紙を開いて見ている。

「結果は何?」

 ぼくはご主人様に近づくと、

ご主人様は紙を見せてくれた。

すると、「凶」と書いてあった。

「やだ~。そんなの~」

 ぼくは、もう一個おみくじクッキーを食べたくなった。

理由はもちろん、大吉を引きたいから。

「もう一個ちょうだい!」

ぼくはご主人様にねだった。


 しかし、結果はこうだった。

なになに。

「だめです。お菓子は一日一個まで。そう決まっています。

もう一個食べたらまた欲しくなるでしょ。だからダメなんです」

だって。

「え~。やだ~。そんなことを言わないで、もう一個ちょうだい!」

ぼくと目で訴えた。

すると、

「ダメです。きみは太っているから、もう一個食べさせるわけにはいきません」

だって。

「そんな~。どうすればいいにゃん」

 凶を引いたぼくは今日一日、落ち込んじゃうよ。

「どうすればいいのかにゃ~。ぼくは今、大吉を引きたいにゃ!」

そこでぼくは考えた。

こっそり食べればいいよ。ご主人様もお菓子を食べる時間だから、

そのうちお菓子をキッチンに行って取りに行くはず。


 すると、予想通り、ご主人様は席を立って、廊下に行った。

これはチャーンス。もう一個食べる!

ぼくはこっそり袋に近づき、静かに袋に手を突っ込んだ。そのときだった。

突然、首根っこを捕まれた。

振り向くとご主人様だった。

きっと、ご主人様は、自分が目を離した隙にクッキーを食べようとするに

違いないと思ったらしく、わざと席を立ってぼくの様子をうかがっていたみたい。

こっそりやったのに、ぼくの努力は何の効果はなく、むしろバレて、

ご主人様に怒られた。


がっかりしいたぼくにご主人様は声をかけてくれた。

なになに。

「君はもしかしたら運がいいのかもね。最初から凶を引き当てるなんて。

大吉を引き当てるのもむずかしいけど、凶を引き当てるのも大したものだよ」

だって。

「これってほめられていないっぽいにゃん」

ご主人様はこうも言った。

「これは何かの警告かもしれないよ。もっと努力しないとダメってことなんじゃないのかな。君に必要なことでがんばったら、大吉を引くことができるよ」

だって。


 ネコの努力ってどんな努力だろう。

遊び終わったおもちゃを、ご主人様に言われる前にお片づけすることかなぁ。

それとも、大きな犬を怖がらないようになること?

ぼくが悩んでいたら、


なになに。

「とりあえず、当面の努力はダイエットだよ」

ご主人様はそう言った。

ぼくはお腹を見た。ぷっくりと膨らんだこのお腹を引っこめるには

確かに努力が必要。


「そもそも、ご主人様がぼくのために作ってくれている

おみくじクッキーなら、ぼくをガッカリさせないように

すべて大吉を入れてくれればいいんじゃないのかにゃ?」

とぼくは思った。

 

どうして、凶なんか入れたんだろう……。

悪い結果を引き当てたら、ぼくがまた引きたがるのを分かっているはずなのに。


もしかして、ぼくはある意味運がよくて、

凶は一個だけで、それ以外は大吉だったのかも?

あるいは、凶が一個。あとは吉とか末吉とかをバランスよく入れて、

一個だけ大吉を入れたのかもしれない。

それともおみくじクッキーの中は全て凶? まっさか~。


んっ?

「君に必要なことでがんばったら、大吉を引くことができるよ」

なんて言われたら、がんばらないかぎり、大吉は引けないってことでしょ?


チラリ。

ご主人様を見た。もしかして……。


すると、ご主人様はこう答えた。

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。努力すればいいんだよ

そのときはいつ引いても大吉だよ~」

だって。


「それならやせるまで結果は同じ! おみくじの中身はすべて凶にゃん

中身が分かっているならおみくじクッキーはいらないにゃん!」

 あやうく、ぼくをダイエットさせようとするご主人様の

計画にハマッてしまうところだった!!

そもそも、占いの結果の良い悪いですべてが決まるわけではないはずだから、

ぼくは、ぼくらしくするのが一番!

そう思うと、さっきまでのいやな気持ちがなくなって、

「スピピ~。スピピ~」

安心したぼくは眠った。

「ぼくの心の中ではいつも大吉にゃん。明日もよいことがありますように」

ぼくはそう願った。



《終わり》


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