ネコと大盛りごはん
ご主人様とテレビを見ていたら、大盛りメニューの特集をしていた。
お店自慢の大盛りメニューの紹介をしているというものらしい。
大きなお皿の上に山盛のごはんが盛り、その上にたっぷりのカレーをかけていた。
それを見たぼくはビックリした。
「食べてみたいけど、カレーはネコにとって刺激が強そうだからダメっぽいにゃん。ネコ用に開発したカレー味のキャットフードなら食べたいにゃん」
とぼくは思っていた。
次のお店では、大きなラーメン鉢に盛られた「ラーメンの大盛り」が紹介された。
「食べてみたいけど、ラーメンの麺をうまく食べられるかにゃ。喉に詰まらせで怖いにゃん」
ラーメンはあまり魅力を感じなかった。
最後のお店では、ジュージューと音をさせながら、大きな鉄板の上に「特大ステーキ」が紹介された。
「おいしそうにゃ~。これは食べたい! けど、鉄板がアツアツそうだから、すぐには食べられないし、ぼくお肉をかみ切れるかにゃ~」
お客さんたちはナイフとフォークを使って食べていたから、
柔らかいお肉には見えなかった。
どれもぼくには食べられそうになかったけど、
おいしそうだったから、
「ジュルジュル」
よだれが出てきた。
最後のお店の紹介のときだけ、グルメリポーターが食べていた。
いかにも大盛り料理が好きそうな、
太った人でニコニコしながら大きな口を開けて食べていた。
「おいしい。おいしいー!」
と言って、大盛りに盛られたお料理をガツガツ食べて、
あっというまに鉄板の上はからになっていた。
「いいにゃ~。ぼくも食べたいにゃん。
『ネコセレブ』の大盛りが食べたいなんてぜいたくは言わないにゃん。キャットフードの大盛りでもぼくは大歓迎にゃ!」
みんなはぼくのことを「太っている」とか、
「食べすぎ」っていうけれど、ご主人様も食いしん坊だから、
ぼくもそうなってしまうのは仕方ない。
だから、
「ぷっくりした体型なのは、ぼくのせいじゃないにゃん!」
と言いたい。
けど……。
おそらく、いや、日ごろの運動不足のせいもあるかも……。
ぼくは、ぷにぷにしたお腹を見た。
「見なかったことにしよう……」
現実から目をそむけることにした。
「グ~」
お腹がすいた。あんなおいしそうなものばかり見たら、
お腹がすくのは当然だよ。
「グ~グ~」
今度はご主人様のお腹が鳴った。
どうやら、ご主人様もお腹がすいたらしい。
ご主人様も、うらやましそうな目でテレビを見ていたから食欲がそそられたっぽい。
番組が終わると、ご主人様は台所に行った。
「ガチャ」
冷蔵庫を開けている音がする。
ご主人様は料理を作ろうとしているっぽい。
このまま待っていたらぼくにも何か分けてくれるかもしれない。
ご主人様はお腹がすいているはずだから、手早くパパッと作れる料理を作るはず。
ぼくは十五分後くらいにはおいしいごはんにありつけるはず。
冷蔵庫の中を覗いてご主人様は「何を作ろうかなぁ」って顔をしていた。
とりあえず、食べ物をテーブルの上に出してみたみたい。
しばらく食べ物とにらめっこして、
「ジャージャージャージャー」
ご主人様は野菜を洗って、
「ザクザクザクザク」
包丁で切っている音がした。
どうやら作るお料理が決まったらしい。
それから五分後には
「ボッ」
と火をつける音がした。
ぼくは何を作っているのか気になってこっそりとキッチンを覗いていた。
どうやらおみそ汁を作っているっぽい。ぼくは食べられないけどね。
おみそ汁が完成したころ、
「ギー」
戸棚を開けた。丼皿を出した。炊飯器を開けてごはんを盛っている。
「何が食べられるのか楽しみにゃん」
作っているものは分らないけど、おいしそうなお魚のおいがさらに食欲をかきたてる。これだけ期待しておいて実は
「ぼくは食べられません!」
なんてことになったらどうしよう~。
「グ~」
ぼくのお腹はまた鳴ってしまった。
ここまで待っているんだから絶対に食べられるはず。
そこまでご主人様はいじわるじゃないもん。
ふと時計を見ると、ぼくが思った通り、冷蔵庫を開けてから十五分くらいが経っていた。
すると、ご主人様が入ってきた。
おぼんを持っていて、その上には、大きな丼とぼくのお皿が乗っている。
「わーい。ぼくも食べれるにゃーん」
ぼくの期待通りになった。
ご主人様は自分用の大きな丼をテーブルの上に置いた。
どんぶりには大盛りのまぐろが盛られていた。
「まぐろ丼にゃ!!」
ごはんが見えないくらいたっぷりまぐろが乗っている。
「コトン」
ぼくの目の前にお皿を置いてくれた。
お皿には、万能ネギもわさびも焼きのりも入っていないシンプルな大盛りのまぐろ丼だった。
なぜ入っていないかと言うと、
ネコにとってはあまりよくない食べものらしい。
特にネギはだめらしい。目の前のまぐろ丼を見ただけで
「ジュルジュル~」
思わずよだれが出てしまう。
「いっただっきま~す」
ぼくは夢中で食べた。
「ムシャムシャ」
おいしいし、大盛りのまぐろ丼が食べられるなんて、嬉しすぎる。
「にゃ~ん」
ぼくは、ご主人様に「ありがとう」と、お礼を言った。
ご主人様もぼくに負けないくらい夢中で食べていて、お互い食べるのに集中していた。
「ごちそう様にゃん」
もうこれ以上食べられない。
お皿に盛られたまぐろ丼を全て平らげ、お腹がいっぱいで動けなくなっていた。ご主人様も全て食べきってしまったみたい。
まるで、一年分くらいのまぐろを一気に食べた気がするくらい、
たくさん食べた。
ご主人様の方を見ると、ご主人様もそんな感じだった。
食べきってすっかりお腹がいっぱいになったぼくらは、横になって眠った。
「スピピ~。スピピ~」
お腹を満たして大満足しているぼくは、いつも以上によく眠れた。
それから一時間後、
「う~。苦しいにゃん」
ぼくはあまりに苦しさに目が覚めた。
もしかして、食べすぎ?
隣で寝ていたご主人様も苦しそうにしていて、トイレに駆け込んで行った。
『腹八分目』にとどめておくというのはこうゆうときの為の言葉なのかもしれない。
「人も、ネコも。同じにゃん。食べすぎには注意しないといけないにゃん」
そのことを、ぼくもご主人様も身にしみて感じた一日だった。
《終わり》