ネコと香水おばさん
「ピンポーン」
玄関チャイムが鳴った。
「んにゃ~。誰か来たっぽいにゃ~」
テレビを見ながらくつろいでいたご主人様はすぐに立ち上がり、
玄関に向かって歩いて行った。
「誰が来たのかにゃ~」
リビングから首を出し廊下を覗くと、
「あ、香水おばさんにゃ!」
ぼくは慌てて、首を引っ込めた。
「来なくてもいいのに……」
ぼくは香水おばさんはニガテ。
香水のにおいがきつくて鼻がツンツンする。
「一目散に退散しなきゃ!」
しかし、ときはすでに遅し……。
「うにゃ。くさい!」
目の前には、ご主人様と香水おばさんが立っていた。
ぼくは思わず、後ずさりした。
けど、香水おばさんは非情にもぼくに手を伸ばし、背中をかきなでた。
「ふ、不覚にゃん。身体が固まってしまって動けなないにゃん」
すっかりビビってしまいぼくは、身動き一つ取れずにいた。
「きっとヘビににらまれたカエルとはこうゆうことを言うにゃん。
ぼくはネコだけど……」
それにして、においがきつい。
ただぼくの毛並みを触っているならまだしも、逆立て欲しいにゃ~。
喜んでいると勘違いしたのか、必要以上にぼくの背中をかきなでる。
この香水おばさんは、キラキラした飾りがたくさん付いた
長い爪をしている。
本人は、オシャレのつもりなのかもしれないけど、
その爪でぼくを触らないで欲しい。
長い爪が当たって痛いから、
ぼくにとっては嫌がらせをされているようにしか感じない。
耳と首と指に大きくてキラキラした石をつけて、
いつも派手は服を着ている。
目がおかしくなりそうなくらい派手な色。
アクセサリーといい洋服といい、ファッションセンスのカケラもない。
ただ目立てばいいってものじゃないと思う。
「ぼくの白い毛並みを見習って欲しいにゃん」
とぼくは言いたい!
ご主人様は、お茶を運んで来てテーブルの上に置いた。
香水おばさんはぼくを放し、ご主人様の前にどかっと座った。
「やっと開放されたにゃん」
ぼくは素早くその場を離れた。
香水おばさんは突然ぼくのおうちにやって来て、
ご主人様に世間話や愚痴を言いに来る。
ここに来てしゃべりまくることが、ストレス発散になっているらしい。
一方的なおしゃべりは二時間くらい続く。
これにはぼくもご主人様も相当、迷惑している。
ご主人様はいつも適当に相槌を打って受け流しているけど、
顔は引きつっている。
「ぼくには、ハッキリと分かるにゃん。あれは確実に嫌がっているにゃん!」
それから延々と一方的に話し続けた。
「スーパーのレジに並んでいたら、自分が並んでいるレジだけが遅かった」
「半額で買ったデザートがおいしくなかった」
「シャツを買いに行ったら、Sサイズ、Mサイズ、Lサイズはあるのに、自分が欲しかったLLサイズはなかった」
などなど、ご主人様にとっても、ぼくにとっても、どうでもいい話をし続けた。
二時間半後、ようやく香水おばさんは帰る支度を始めた。
ご主人様の顔をちらっと見ると、かなりくたびれた顔をしている。
帰り際に香水おばさんは自分のバッグを開けて、包装された袋を取り出し
ご主人様にあげた。
包装紙にはアルファベットが書いてある。ぼくには読めないけど、どうやら外国のお土産みたい。
ご主人様は、
「ありがとうございますお礼を言って、ペコッと頭を下げた。
香水おばさんはジーっとご主人様を見ている。
「うっ! すごい視線だにゃ……。中身を開けて今すぐ見てっと言う視線に違いないにゃん」
ご主人様もその視線を感じたのか、包装紙を取り、
箱の中から中身を取り出した。
すると、ご主人様の動きが止まった。
なになに。そんなにビックリするものなの?
もしかして、趣味の悪い置物かな。
それとも、変な柄のTシャツ?
いやいや、香水おばさんが写っている写真入りペンダントだったりして……。
ぼくはどんなものをもらったのかを確かめようとご主人様が取り出したものを見ると……。
「にゃにゃ! 香水にゃ!!」
香水おばさんご愛用の香水らしい。
なになに。
「自分が気に入っているから、ご主人様にも使って欲しい」
だって。
「迷惑だよ~」
ご主人様もそう言いたかったに違いない。
香水おばさんは満足げに帰って行った……。
ご主人様はその香水をまじまじと見て、深いため息をついた。
そして、ぼくもいっしょに、ため息をついた。
「にゃ……」
《終わり》