ネコの家出(前編)
今日は、雲がなくてよいお天気。
お外に出て、お庭でお空を眺めていた。
すると、
「肉まん!」
ぼくのことを呼んだ声がしたから、お庭を見てみると、ミーコがいた。
「あっ。ミーコ」
ミーコがぼくに近づいてきた。けど、何だかミーコの様子がおかしい。怒っているみたい。
けど、ぼくはミーコを怒らせることをした覚えがなかった。
もしかして、かなり前にミーコを怒らせるようなことをしたから
それを突然思い出して、ぼくに何か言いに来たのかも。
それとも、何かの勘違いでミーコが誤解をして怒っているのかも。
ん~。ちょっと考えてみたけど、思いつかない。
怒らせた覚えはなくても、怒っているということもあるかもしれないから、
聞いてみることにした。
「どうしの?」
「私、もうあのおうちには帰らない。だから、しばらく肉まんのおうちにいさせてちょうだい!」
ミーコは怒りながら言った。
「えっ? 本当に??」
どうやら、ミーコは自分のおうちで何かあったらしい。
「肉まん、聞いてよ! 私のご主人様ったら、「モモ」のことばかりかわいがって、私の相手をしてくれないの。だから出てきたの!」
ミーコはカンカンに怒っていた。
「モモってあのモモちゃんだよね?」
モモとはミーコのご主人様の娘で、最近生まれた赤ちゃん。
ミーコのご主人様は、モモちゃんを育てるのにいっぱいいっぱいでミーコの面倒を見るのが少しおろそかになったのかもしれない。
ミーコの気持ちは分からないでもないけれど、ミーコにだって悪い所はある。
気まぐれだったり、ワガママなところがあるから、気分が乗らないときに、
ミーコのご主人様が遊んであげようとすると、どこかに行っちゃう。
それなのに、ミーコが遊んで欲しいときに、ミーコのご主人様が寝ていると、
顔の上に乗って無理やり起こすらしい。
「あっ。こんなこともあったにゃん」
ミーコがいつも食べている外国からお取りよせの
高級キャットフードの買い置き分がなくなってしまったことが
あったんだって。
そのときには代わりにミーコのご主人様は別の高級キャットフードをあげたら、
「いつも食べている高級キャットフードじゃないと食べないわ」
とプイっとして、食べなかったんだって。
ミーコのワガママでミーコのご主人様を困らせてばかりいる。
「それって仕方ないんじゃないの? だって、まだ赤ちゃんなのだから、モモちゃんにはミーコのご主人様がそばにいないと困るじゃない」
「ご主人様は私のものなの。モモのものじゃないの!!」
ミーコは、モモちゃんに嫉妬している。
「今は、モモちゃんは一番手がかかる時期だから、それが終わればまた遊んでもらえるにゃん。だから今は我慢にゃん」
人間の子どもって赤ちゃんのころがとても手がかかるらしい。
「いや! 私が遊んで欲しいときに遊んで欲しいの!!」
ミーコは言った。
「それは無理だよ~。モモちゃんがもうちょっと大きくなったら、ミーコのご主人様の負担が減るから、それまで待ってるにゃん」
きっと、もう少し経てば、モモちゃんも落ち着いてくるはず。
「いやよ。なんで、モモに合わせなきゃいけないのよ。この私が!」
ミーコは自分の考えを曲げなかった。
「ミーコ~」
ぼくはすっかり困ってしまった。
夕方になり、少し寒くなってきた。そろそろぼくはおうちに入ろうと思ったけど、ミーコはどうする気なのかなぁ。
「寒いから、おうちに入れて!」
ミーコが言ってきた。
きっと、ぼくのおうちに居座る気だよ。
断ったらものすごく怒られそうだから、とりあえず、入れてあげるしかなかった。
「いいけど、ミーコはおうちに帰らないとダメだよ」
「私は、ぜーったいに帰らないから!!」
そう言うと、ズカズカと窓からぼくのおうちに入って行った。
たまにぼくのおうちに他のネコを入れてあげることはあるけれど、
それは昼間の時間帯だけ。
今みたいに夕方から入れることはほとんどない。
だって、その時間はみんなそれぞれのおうちに帰るからね。
そして、日が暮れて夜になった。
「ガチャ」
ドアが開く音がした。
「ご主人様が帰ってきたにゃん」
ぼくはご主人様をお迎えに行った。
リビングに入ると、ご主人様はぼくのネズミのおもちゃで遊んでいるミーコを見つけた。
ミーコはご主人様に「にゃー」と挨拶をすると、
またぼくのネズミのおもちゃで遊び始めた。
ご主人様は「もしかして……」って顔をした。
こんな遅い時間に他のネコが、ぼくのおうちにいることないから、
家出したのかもしれないと思ったみたい。
ご主人様は、こうゆうときの勘は鋭い。
しばらくすると、遊ぶのを止めて、
「肉まん、お腹すいたわ。何か食べたい」
ミーコはお腹がすいたらしい。
「グ~」
ミーコのお腹の音が聞こえた。普段ならありえない。
もしかして、今日はまだ何も食べていないのかもしれない。
けど、ミーコはぼくと違うものを食べているから、食べれるのかなぁ。
せめて、たまにしか食べさせてもらえない高級キャットフードの
『ネコセレブ』があればよかったけど、この前、食べてしまった。
「そろそろごはんの時間だと思うけど、ミーコが普段食べているような外国製の高級キャットフードはないよ。普通のキャットフードしかないにゃん」
ただの高級キャットフードじゃなくて、
外国からお取り寄せているものなんてあるわけがない。
「それでいいわ」
と言った。
「えっ」
ぼくはビックリしていた。
いつも、「お取り寄せしている外国製の高級キャットフードじゃないと食べないわ」と言って、こだわっていたのに~。
この際、ぜいたくなんて言っていられないと思ったみたいで、
文句を言わなかったのかもしれない。
すると、グットタイミングでご主人様は、
ぼくとミーコの分のキャットフードを持ってきてくれた。
ご主人様もミーコの機嫌をうかがっている。食べてくれるか心配みたい。
近所に住んでいることもあって、ぼくのご主人様とミーコのご主人様は仲がいい。
だからミーコが普段、食べているキャットフードのことも知っているし、
それ以外のキャットフードを食べないことも知っている。
ぼくたちはそれぞれの目の前にお皿が置かれると、
「いっただっきまーす」
すごい勢いでミーコは食べ始めた。
「ムシャムシャムシャムシャ」
よっぽどお腹がすいていたのか、
その姿を見たぼくもご主人様もその食べっぷりにビックリした。
お嬢様ネコのはずなのだけど、とてもそんな風には見えなかった。
《続く》