ネコとかくれんぼ(後編)
「にゃ、にゃん! あれはミーコの悲鳴にゃん!!」
草むらに隠れていたぼくはビックリして飛び出し、
ミーコがいる木の下に向かった。
「おい、肉まん!」
後ろからハリーが声を掛けてきた。
「ハリー! ハリーもミーコの悲鳴を聞いた?」
「あぁ。きっと何かあったに違いない!!」
ぼくたちは走ってミーコの元へ向かった。
ミーコがいる木の下の近くには、クロキョロがいた。
「クロキョロー!」
とぼくが叫ぶと、クロキョロはガタガタと震えていた。
「んにゃ? クロキョロの様子が変だにゃん。ミーコを見ると、かなり怯えている。何が起こったのかにゃ?」
ミーコの目線の先を見ると……
「ク、クマにゃん! クマがいるにゃん! 何でこんなところにクマがいるの? だって、ここは森の入り口近くだよ。クマがいるのって森の奥って話だったじゃない」
ぼくは慌てた。
「あたたかくなったからクマは冬眠から復活して、食糧でも取りに来たんじゃないか?」
そう言えば、最近はクマがエサをもとめて
山を降りてくるというニュースを見たことがある。
もしかしてエサを探している最中だったのかもしれない。
そんなときに出会うなんてぼくらはタイミング悪過ぎだよ。
怖くてたまらない。クマが近くにいるなんて……。
ぼくは恐怖のあまり固まってしまった。
クマを見るたびにどんどん怖さが増していく。
「ど、どうしよう、ハリー……。このままだとミーコが食べられちゃうかもしれないにゃん」
「どうするって……」
そうぼくに聞かれても「そんなこと、聞かないで」って顔をしている。 ハリーも怯えているみたい。
「こうなったら……」
ハリーは何かひらめいたらしい。
「おい。クマ! 肉まんを食べていいからミーコは逃がして欲しい!」
ハリーはそう言った。
「えっ!」
ぼくは自分の耳を疑った!!
「ハリーひどいにゃ~。ぼくを生贄にしないでにゃ~」
ぼくはハリーに怒った。
すると。
「ミーコを逃がす為には仕方ないんだ。きっと、あのクマはエサを探しているはず。きっと、エサがあれば満足すると思うんだ。だから肉まん頼むよ!」
「頼むって言われても……。そんな、ひどいにゃん!!」
「おいしそうな名前をしているお前にピッタリな役だよ!!」
ハリーは悪びれるそぶりもなく言った。
「そんな理由で生贄にしないでにゃ~」
ぼくは悲しくなった。
「だったら、ミーコを生贄するにゃん。本とかテレビでは生贄になるのっていつも女の人が多いでしょ。ミーコにピッタリにゃん!」
「なんでそうなるのよ~。肉まんのバカ!」
そんなことをよそに、クマはミーコにゆっくりと近づいていく。
「来ないで~!!」
ミーコは叫んだ。
そのとき、クマの手がミーコの目の前に!
ミーコはクマに食べられてしまうと思い、目をつぶった。
「コロン……」
クマの手から何かが落ちた。
ミーコは目を開けて落ちたものを確かめた。
「りんご……!?」
そして、クマはくるりと振り向き、森へ帰って行った。
クマが去った後、ぼくたちはミーコの元に駆け寄った。
「もしかして、ミーコにりんごをあげたかっただけなんじゃないのか?」
ハリーは落ち着きを取り戻してそう言った。
「そうだよ。ミーコにあげたかったんだにゃんよ」
クロキョロは目をキョロキョロさせてそう言った。
「なーんだぁ。そうだったんだぁ」
ミーコはホッとした様子だった。
「これで事件解決だにゃん!」
危うくぼくは生贄にされるところだった。これで安心安心。
「何が事件解決よ!」
ミーコはぼくを見てギロリとにらんだ。
「にゃ、にゃん! ミーコ、怒っているにゃ!」
ぼくには何でミーコが怒っているのか分らなかった。
「ちょっと肉まん! 私をクマに食べさせようとしたでしょ!」
ミーコは強い口調で言った。
「だって、ハリーだってぼくのことを生贄にしようとしたじゃない!」
ぼくは自分の言い分を主張した。
「それはそれだ!」
ハリーは言った。
「えー。それはそれって……。そんな言い訳が通じると思っているの?」
ぼくは納得がいかなかった。
「とにかく、肉まんはひどいにゃんよ!」
クロキョロもぼくを責めた。
「クロキョロまで~」
気がつくと、ぼくは、ハリー、ミーコ、クロキョロの三匹に取り囲まれた。
「み、みんな、お、落ち着いてにゃん!」
ぼくはオロオロした。
「覚悟はいいわよね。肉まん!」
ミーコが言った。
「にゃ、にゃん! 逃げるにゃん!!」
「待ちなさい!」
ぼくはすぐに捕まりミーコに引っかかれ、パカスカ叩かれた。
「痛いにゃん! 痛いにゃん!」
ぼくは叩かれながらご主人様が以前、言っていたことを思い出した。
「女性を怒らせるとひどい目合う」まさか実感するとは思わなかった。
「もう女性を怒らせるのはこりごりにゃ~」
森の中でぼくの声だけが響いていた。
《終わり》