ネコと赤ちゃん
「ニャムニャム。スピピ~スピピ~」
いつものように、ぼくが気持ちよく眠っていると、
「ピンポーン」
ぼくは、玄関チャムの音が鳴って目が覚めた。
「んにゃ~。誰か来たっぽいにゃ~」
テレビを見ていたご主人様は立ち上がり、玄関へ向かっていった。
「ガチャ」
と玄関の開く音がして、話し声が聞こえてきた。
声から察すると、どうやら訪問者は女の人らしい。
しばらくすると、ぼくがいるリビングにご主人様とその女の人が入ってきた。
腕には赤ちゃんを抱えている。
「あ、この女の人、ご主人様のお友達のリカちゃんだにゃん」
ぼくには見覚えがあった。
以前、よくうちに遊びに来ていた。
そう言えば、最後にリカちゃんがおうちに来たときは、
お腹がずいぶんと大きかった。
きっと、あの赤ちゃんはリカちゃんのお腹にいた子に違いない。
赤ちゃんは、スヤスヤと眠っていた。
どうやら女の子っぽい。とてもかわいい。
寝ている顔はまるで天使みたい。
ぼくをいじめる子どもたちとまるで違う。
「あの子どもたちも、この赤ちゃんみたいにいつも寝ていてくれれば大人しくていいのにね~」
赤ちゃんの寝顔を見ながらそう思った。
「赤ちゃんならぼくに危害を加えることはしないだろうし、
寝ているから安心にゃん」
ぼくはそう思った。
きっとご主人様もリカちゃんもリビングでお話をするだろうから、ぼくは隣のお部屋に行ってお昼寝の続きをすることにした。
「ムニャ、ムニャ……」
ぼくは気持ちよく眠っていたら……。
「ガブッ」
ぼくはシッポに違和感を感じ、ハッと目が覚めた。
シッポを誰かにかじられたっぽい。
けど誰? ネズミかにゃ? それともお化け?
いや、かなり痛かったから人間かもしれない!
けど、それなら誰なんだろう。ご主人様もリカちゃんだって
ぼくのシッポなんてかじったりしないはず。
「にゃ!もしかして……」
後ろを振り向くと、赤ちゃんがぼくのシッポを口にくわえていた。
「やめてにゃ~。放してにゃ~。
ぼくのシッポはおしゃぶりじゃないにゃん。シッポは神経が通っているから、鈍いぼくだって敏感にゃん!!」
と叫んだけど、 周りを見渡すと、ご主人様もリカちゃんもいない。
赤ちゃんが寝ているから安心して、
ぼくがいる隣の部屋に置いて、リビングでお話をしているっぽい。
寝ているからと言って、赤ちゃんから目を離しちゃダメだよ!
赤ちゃんは何をするか分からないのだから……。
現に今、ぼくはとても痛い目にあっているし!
「ガブッ」
赤ちゃんはまたぼくのシッポをかじった。
「痛いにゃ~」
ぼくはあまりの痛さに悲鳴を上げ、赤ちゃんの目を見て、
「シャー!!」
と威嚇した。赤ちゃんは不穏な空気を感じたのか、シッポから口を離した。
「あ~。よかったにゃん!」
ぼくがホッとしたのも束の間、
「ギュ~」
今度は、ぼくのシッポを握りしめた。
「にゃ~。シッポは握っちゃだめにゃ~」
ぼくはシッポを勢いよく動かした。
すると、赤ちゃんの手からシッポがスルっとすり抜けた。
しかし、動いたシッポが面白かったのか、ぼくのシッポを執ように掴んでくる。
「離してにゃ~」
ぼくはもう一度シッポをフリフリしようとしたら、
今度は赤ちゃんがぼくのシッポを左右にブンブン振った。
「痛いにゃ~」
ぼくのシッポはすっかり赤ちゃんの遊び道具になってしまっていた。
赤ちゃんはよほど気に入ったのか、ニコニコしながらシッポを掴んで
ブンブンとシッポを上下に振りだしだ。
「痛いにゃ~。シッポで遊ばないでにゃー」
ぼくがこんなに痛がっているのに、
赤ちゃんはそんな様子を気にすることなく、ご機嫌そのものだ。
ぼくはあまりの痛さに頭が朦朧としてきた。
そんなときに間一髪、ご主人様が部屋に入ってきて、
赤ちゃんが手に掴んでいるシッポを離した。
どうやら、ぼくの悲鳴を聞いて駆けつけてくれたらしい。
赤ちゃんは無理やりシッポを手から引き離されたから嫌そうな顔をしたけど、ご主人様ネコのぬいぐるみを渡すと、
「キャッキャキャッキャ」
言いながらよろこんで握っていた。
せめてシッポは優しく触る程度にとどめて欲しい。
赤ちゃんとは言え、子どもはやっぱり天敵!そのうち小悪魔。
いや、悪魔になるかも!!
今のうちに何か手を打っておかないと……。
「フニャ~」
何だか眠くなってきた。
赤ちゃんのお世話をしていたから疲れたし、もうひと眠りすることにした。
今はご主人様がいるから赤ちゃんがぼくに危害を加えることはないだろうし……。
だから考えるのは、明日だっていい。いや、明後日でもいいかも。
そう思いながらさっき痛い目にあったことをすっかり忘れ、
再び夢の中へ……。
「スピピ~。スピピ~」
ぼくは眠った。
しばらくすると、
「ガブッ」
「にゃにゃ!? 痛いにゃ~!!」
痛かったシッポを見ると、
赤ちゃんにまたシッポをかじられたっぽい……。
「あっ。ご主人様がいなくなっている!」
きっと、赤ちゃんが眠っちゃったからまたリビングに戻ったに違いない。
やはり、早急にこの小悪魔を何とかしないといけない。
「どんなに小さくても、子どもは子ども!
やっぱり大嫌いにゃ~!!」
《終わり》