ネコとお正月10
「あけましておめでとうございます」
玄関から声が聞こえた。
どうやら子どもたちがやってきたらしい。
子どもたちと子どもたちのお母さんがリビングに入ってきた。
んにゃ? 子どもたちのお母さんが発泡スチロールの箱を持っている。
アレってお魚を入れる入れ物だよね。
何のお魚だろう。お正月だからやっぱりタイかなぁ。
それとも、エビ? ブリもいいよね。
けど、今までお正月にお魚を持ってきたことってあったっけ?
今日だってこれらのお魚は用意をしているのだから、
わざわざ持ってくるのって変だにゃん。
「ありがとう」
ご主人様が箱のフタをあけると、カニが入っていた。
「香箱だね」
ご主人様は言った。
「せっかくだからいっしょに食べようと思って……」
※香箱ガニは石川県で獲れるズワイガニのメスのことです。
漁期は11月~12月下旬と短く、希少価値が高いプレミアがついているものもある。
「きっと、カニをむくのがニガテだからご主人様にお願いするために持ってきたんだにゃん。
そうじゃなきゃわざわざ持ってこないよ」
とぼくは心の中で思った。
「ささ。みんな座って。おせちを食べよう。カニはあとでむいてあげるから」
テーブルの上にはおせちが用意されていた。もちろんお刺身も。
「はーい」
子どもたちはうれしそうに返事をした。
今年もお刺身を食べ、他にも色々とおせちのおこぼれを食べたぼくはお腹が膨れたぼくは
「スピピ~スピピ~」
と眠っていた。
すると、
「冷たいにゃん!」
さっき、背中に何かが乗っていた気がする。
重くて冷たかった。あと、硬いものがぼくの身体に当たった気がする。
振り返るとカニたちと目が合った!
「にゃー」
カニが近すぎてぼくはビックリした!!
その姿を見た子どもたちは笑っていた。
子どもたちはカニをぼくの背中に乗せて、どんな反応をするのか試したんだにゃん。
ひどい! 新年早々イタズラして~。今年こそは許さないにゃん!!
ぼくが反撃をしようと飛びかかろうとしたそのとき、
「食べ物で遊んじゃダメ!」
子どもたちのお母さんが注意した。
「そんなことする子はカニ、食べられないよ。全部食べちゃうから!」
子どもたちのお母さんが怒った。
すると子どもたちが、
「家にカニがあるときから毎日食べたいって言ったのに、明日ねって言ってむいてくれなかったのに~」
「今日こそはカニが食べられるって言っていたから楽しみにしていたのに~」
「肉まんの家に来たから食べられるって言っていたのに~」
子どもたちはカニを食べられることをとても楽しみにしていたらしい。
あと、お母さんは本当にカニをむくのニガテなんだね。
やっぱりぼくの予感は当たっていた。
ご主人様がリビングきた。そしてぼくと目が合った。
「カニをむこうとしたら、箱の中に入っていたカニがなくて、どこかに持っていったっけ?
と思って来たのだけど、子どもたちが持って行っちゃったんだね」
カニを拾い上げるとご主人様はリビングに戻った。
それから二時間後、
「お待たせ~」
お盆の上にはカニの甲羅が乗っている。
よく見ると、甲羅にはカニを混ぜたごはんが乗っている。
「おいしそうだにゃ~。ジュルジュル」
思わずよだれが出た。
けど、カニの甲羅は五個。ご主人様と子どもたちのお母さん。
そして子どもたち三人。ぼくの分はなさそうだにゃん。残念。
すると……。
「さっきはごめんね」
一番年下の子どもが近寄ってきた。
「少し、あげるよ」
スプーンにカニごはんを乗せて、ぼくの口元に近づけた。
「本当にくれるの?」
ちょっと待って。いつもこのパターンでぼくはひどい目にあっている。
くれると見せかけ、自分で食べちゃったり、食べ物に何か入れられていたり……。
ぼくは怪しんだ。
けど、一番年下の子なら他の二人と違って、そんなことはしないかもしれない。
ぼくはおそるおそるスプーンに近づいた
「パクリ」
食べた。
「今年もよろしくね。肉まん」
子どもはニッコリしながら言った。
「もう少し、食べる?」
「にゃん!」
今年はよい年になるかもしれない。ぼくはそう思った。
【終わり】