ネコとピアノ(後編)
見知らぬ人がご主人の部屋に入って行ったので、不思議に思った肉まん。
どうやらその人はピアノの調律をしに来た人でした。
ピアノがあることは知っていましたが、
今までご主人様はピアノを弾いたことは一度もありませんでした。
ご主人様はどうしてピアノの調律をしようと思ったのか、
疑問に思いました。
「突然弾きたくなった理由があるはず」
そう思った肉まんはご主人様に聞きたくなりました。
「この前、法事に行ったでしょ。きみ子おばさんの家でやったんだ。
たまたまピアノがある部屋に入ったとき、鍵盤フタが開けっ放しになっていて、
鍵盤が出ている状態だったんだ。それで、つい気になって久しぶりに弾いたんだ。
子どものころのようには指が動かなかったけど、楽しかった。
しばらく弾いていると、部屋にきみ子おばさんが入ってきたんだ」
「ピアノの音がしたから誰が弾いているのかと思ったら……」
「勝手に弾いてすみません」
「いいんだよ。昔はよく、ここで弾いていたよね」
「はい。子どものころはよく弾かせてもらいました」
「上手だったもんね」
「子どものころは毎日のように弾いていましたから」
きみ子おばさんは、ご主人様の親戚。今では孫がいるおばあちゃん。
「私が弾いていたピアノを娘が弾き、孫が弾き、今も色々な人に弾いてもらえるのは嬉しいよ。ところで、今も弾いているの? 」
「え……」
「その様子だと、弾いていないみたいだね。また弾いてみたら。ピアノはあるんでしょ?」
「はい」
「子どもの頃みたいに毎日弾かなくたっていいんだよ。あのころはもっと弾けたのになんて思わず、もっと気軽な感じで弾いたら?」
「と言われたからなんだよ」
へ〜え〜。そんな理由があったんだね。
そもそも、ご主人様がピアノを弾けるなんて知らなかった。
ご主人様は忙しくなってピアノの練習ができなくなっちゃって、
弾きたい気持ちはあるけれど、
昔みたいには指が動かないから遠ざかっていたみたいだね。
調律を始めて三時間近く経ったころ
「終わりました〜」
おじさんの声がした。
部屋に行くと、
「調律が終わったので弾いていて見てください」
おじさんが言った。
ご主人様がイスに座り、ピアノを弾いた。
「ピアノの響き、いいですね」
ご主人様は嬉しそうだった。
「また、たくさん弾いて下さいね」
おじさんは帰っていった。
ぼくらはリビングに戻ると、
「ねえ、何か弾いてみてよ」
ぼくはご主人様をキラキラとした目で見つめた。
「何か弾いてみてよって顔をしているね。久しぶりだから少し練習してからでいい?」
「にゃ〜」
いいよと言った。
ご主人様は自分の部屋に行った。すると、ピアノの音色が聞こえてきた。
一時間後。
「きみー。おいで。聞かせてあげるから」
ご主人様がリビングに戻ってきた。
「あっ」
ぼくを見て気づいた。
「スピピ〜。スピピ〜」
ぼくはピアノの音色を聞いて気持ちよくなり、寝てしまっていた。
「また今度ね」
ご主人様はリビングを出た。そしてピアノの音色が聞こえてきた。
《終わり》