ネコとピアノ(前編)
リビングでご主人様といっしょにテレビを見ていると、
「ピンポーン」
ブザーが鳴った。
「んにゃ~。誰かが来たっぽいにゃ~」
ご主人様が出迎えに行った。
誰が来たのか気になってリビングから首を出してみると、
大きなバッグを持ったおじさんがいた。
ぼくは初めて見る人だった。
「どうぞ、入ってください」
ご主人様がそう言うと家の中に入ってきた。
そしてリビングを通り過ぎ、ご主人様の部屋に行ってしまった。
お客さんじゃないの?見知らぬ人がご主人様の部屋に行くなんて今まで見たことがなかった。
ぼくも部屋に行った。
大きなバッグが関係あるのかな。あの中に壊れたものを直す道具が入っているのかも。
けど、ものが壊れたなんて話はしていなかったし、雨漏りだってしていない。
それにしてもあのバッグ、ぼくが入れそうな大きさだにゃん。
「んにゃ?」
まさか、ぼくを連れて行くためのバッグだったりして。
おじさんはぼくを見て、ニコニコしている。
「ビクッ」
もしかして、ぼくを……。
「白くてふわふわでかわいいですね」
と言った。
やっぱり連れて行く気なんじゃない?ぼくは怖くてたまらなかった。
「きみ、よかったね。褒められているんだよ」
ぼくは、急いでご主人様の足元に隠れた。
「きみが人見知りするなんて珍しいね。もしかして、照れているの?」
違うにゃ!怖いの。
「もしかして、ご主人様が日頃のぼくのおこないを見てあのおじさんを連れてきたのかも。それならぼく、今日からいい子にするからこのお家に置いてにゃ〜」
ぼくは心の中で叫んだ。
すると、おじさんはバックを開けた。
「やっぱりぼくをあの中に入れるつもりだにゃん!」
さらに恐怖は増すばかり。ドキドキが止まらない。
「ゴクリ」
緊張して息を飲んだ。
すると、おじさんはバッグの中からメガネとタイマーみたいなものを取り出した。
「ピアノ、開けますね」
おじさんはピアノのフタを開けた。
「アレ? 」
単純に使うものを取り出しただけ?
おじさんはピアノを弾いた。
「ピッチはいつもどうしていましたか?」
「調律の方にお任せしていました」
「そうでしたか」
おじさんは高い音から低い音までスラスラ弾いた。
タイマーみたいなもので、確認している。どうやら、音を測っているみたい。
「音、だいぶ狂っていますか?」
「そうですね〜。低音は結構違っています。最後に調律したのはいつですか?」
「覚えていないです」
おじさんはピアノの中に入っていた紙を取り出した。
「点検カードを見ると、最後に点検したのは10年前ですね」
「そんなに前なんですかぁ」
ご主人様は恥ずかしそうだった。
「なーんだ。ぼくは連れて行かないんだね。それなら安心!」
ぼくはおじさんのところに行った。
すると、おじさんと目が合った。
「おじさんが調律したら、ご主人様にピアノを弾いてもらってね」
おじさんはニコニコしながらそう言った。
「では、調律を始めますね」
「お願いします」
ぼくたちは部屋を出た。
ぼくたちはリビングに戻るとピアノの音が聞こえてきた。
ところで、ご主人様はどうしてピアノの調律をしようと思ったのかにゃ。
突然弾きたくなった理由があるはず。ぼくはご主人様を見た。
「なに?どうして今までピアノを弾いていなかったのに
調律しようと思ったのって顔をしているね」
相変わらず、ご主人様はぼくの気持ちを言い当てた。
《続く》