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ネコとぶどうの木

「ピンポーン」


 玄関チャイムの音が鳴った。


「んにゃ~。誰かが来たっぽいにゃ~」


 リビングで本を読んでいたご主人様はすぐに立ち上がり、玄関に向かって歩いて行った。

誰が来たのかとリビングから首を出し、廊下をのぞくと、玄関には宅急便のお兄さんがいた。


「あっ。いつもの宅急便のお兄さんだにゃん」


お兄さんは荷物を玄関先に置いて、宅急便のお兄さんは次のおうちへ行った。


ご主人様はお兄さんが持ってきてくれた荷物をリビングに運んできた。

ダンボール箱に貼ってある宛名を見ると、“森下りん”と書いてある。

どうやら、りんちゃんが送ってくれたみたい。りんちゃんは、ご主人様の昔からのお友たちでずっと仲良くしていたのだけど、お仕事の都合で、今は東京に住んでいる。

ぼくにも、優しくしてくれるからりんちゃんのことは大好き。

たまにりんちゃんは今日みたいに、石川県に住んでいるぼくらに宅急便を送ってくれる。

ご主人様は荷物が入っているダンボールを開けると、一枚の手紙を取り出した。

手紙は、ぼくに聞こえるようにご主人様が読んでくれた。


『こんにちは。お元気でしたか? りんは元気です。

東京の「浅草」に行ってきたので、お土産を送ります。

ぜひ、肉まんちゃんにもこのお土産を見せてあげて下さい。

おいしそうだからと言ってくれぐれも食べさせないようにしてくださいね。

りんより。』


 ご主人様は手紙を読み終えた。

「ぼくに見せてはいいけれど、食べちゃいけないものなの?

ネコは食べちゃいけないものってことなのかにゃ??」


ぼくは気になった。


 ご主人様は箱の中からりんちゃんのお土産を取り出した。

すると、お寿司のにぎりが出てきた。


「ミニチュアのお寿司だにゃ~」


 トロにイクラ。えんがわもある。


「おいしそうにゃん。ジュルジュル~」


 思わずよだれが出てきた。近づいて見ると、


「あれ?」


 ぼくはあることに気がついた。


「コレって、おもちゃじゃないのかにゃ?」


 ぼくはご主人様に教えてもらおうと見つめた。


「これは食品サンプルって言って、飲食店の店前やお店の内に陳列される料理の模型だよ。

よくできているでしょ~」


 と言った。


「じゃぁ本物の食べ物じゃないんだね。ちょっとガッカリしたけど、本物ソックリだから見ているだけでも面白いにゃ~」


 だからりんちゃんはぼくに食べさせないようにしてねってお手紙に書いたんだね。

 他にもミニチュア食品サンプルのお土産はあって、フォークが宙に浮いたスパゲティー。エビの天ぷらが乗ったうどん。霜降りが程よく入ってきれいに焼き目が入ったステーキ肉。

 どれもおいしそう。


「ジュルジュル~」


 食べられないとはいえ、ついついよだれが……。


その様子を見かねたご主人様はこう言った。


「食品サンプルをきみに見せておくのは毒だね」

 

確かにそうかもしれない。

んにゃ? ご主人様はぼくに話しかけてきた。


「これから『ぶどうの木』に行くけどきみも行く?」 


だって。

りんちゃんにお土産を送ってきてくれたから、何かを送ってあげようと思ったらしい。

もちろん。行きたい!


「にゃ~」

 

とシッポをフリフリして返事をした。


 10分後、ぼくらは車に乗って出かけた。

『ぶどうの木』とは、ぶどうがたくさんなっているぶどう園のこと。

昔はぶどうしかなかったんだけど、そのうちレストランができて、

ケーキや焼き菓子などを作っている洋菓子屋さんもできた。

今では結婚式も挙げられるらしい。


「ぶどうの木って色々な意味で大きくなったみたいにゃ~」

 

とぼくは感心していた。

 そうこうしているうちに


「着いたよ」


 ご主人様は言った。

 駐車場に車を停めて、車のドアを開けてぼくを降ろし、


「あんまり遠くに行かないでね」

 

と言った。

 遠くには、ぶどう畑が見えるけど、そこへ行ったら、ご主人様に怒られそうだから

ご主人様の近くにいることにした。


ぼくは『ぶどうの木』に来たのは久しぶりだったけど、

駐車場にもいっぱい車が停まっているし、ぼくの周りにもお客さんはたくさんいる。

『ぶどうの木』は相変わらず流行っているらしい。


「ポン!」

「痛いっ」


 ぼくの頭に何かが落ちた。


「何かにゃ?」


 ぼくは気になった

 石にしては軽いから石ではないみたい。

 上から降って来るものと言えば、鳥のフンだけど、もし落ちてもポンって音はしないはず。


「う~ん。ぼくには何が頭に落ちたのか分らなかった」

「ポン!」

「痛いっ」


 またぼくの頭に落ちてきた。まるいものっぽいけど……。

 そのとき、ご主人様と目があった。するとご主人様はぼくを見て笑った。


「にゃっ! 笑うなんてひどいにゃ~」


 ぼくは何で笑われているのか分らなかった。

 もしかしてぼくの頭の上に何かついているの?

 ご主人様はぼくを持ち上げ、車のサイドミラーにぼくを近づけた。


「にゃ~。ぼくの頭が赤むらさき色になっているにゃ~。もしかして、頭に何かが落ちた

ときに血が出たのかも!!」


 ぼくはビックリした。

けど、ぼくはすぐに疑問に思った。


「ネコの血って赤むらさき色だったっけ?」


しばらくぼくは自分の血を見ていないけど、赤い色だったはず。


「もしかして、何か変な病気にでもなっちゃったの?」


ぼくは心配になった。

ん? ちょっと待って。さっき、ご主人様は笑っていたよね。もし異変があったら

この色を見て笑ったりせずにご主人様もビックリするはず。

ってことは何か赤むらさき色のものがぼくの頭に落ちた?

 

ご主人様はゆっくりと降ろし、ぼくは地面を見た。

すると、赤むらさき色のぶどうが転がっていた。


「これだにゃ~!」


 ぼくは気がついた。


「ぶどうがぼくの頭に落ちたにゃ~」


 頭に落ちたものの正体はぶどうだった。地面を見たらそこらじゅうに赤むらさき色の

シミがあって上を見上げると、ぶどうがぶら下がっていた。

看板には「ぶどうが落下するので注意」と書いてある。

ご主人様はぼくの頭をハンカチで拭きながらそう言った。


 それから、ぼくはご主人様とぶどうの直売所に行った。


「どのぶどうがいいか選んでいいよ」


ご主人様は言った。

どうやらぼくに選ばせてくれるらしい。直売所に着くとぼくを持ち上げた。

見えやすいようにわざわざ持ち上げてくれたみたい。

ぼくの重さは大きな米袋一袋分に相当するらしいから、ぼくを持っているのは大変なはず。

このときばかりはごめんねと思う。


ぶどうを見て食べたくなっても我慢しないと……と思いながら

ぶどうを見た。むらさき色、みどり色、黒っぽい色などたくさんあった。


「あれは実が大きくておいしそうだにゃ~。せっかくだから変った色がいいかもにゃ~」


 と迷ったけど、ぼくは決めた。


「あの赤むらさき色で実が大きいのにするにゃん!」


 このぶどうは、さっきぼくの頭の上に落ちたぶどう。きっと縁があるんだよ。 

ぼくはぶどうの前でにゃんにゃん鳴いて、ご主人様に伝えた。

ご主人様はすぐに気づいて、


「きみ、お目が高いよ~」


 と言った

 どうやらぼくが選んだぶどうは高級ぶどうだったらしい。

欲しいぶどうが決まると、ぼくを地面に降ろした。


直売所ではそのまま宅配してくれるらしく、ご主人様はりんちゃんがいる

東京の住所を書いていた。

そして、駐車場に戻った。


「りんちゃん。ぶどう喜んでくれるといいにゃ~」


 と思っていた。

 ご主人様はぼくをだっこして車に乗せようとしたそのとき、


「ポン!」

「痛いっ」


 また頭にぶどうが当たったらしい。


「きみはぶどうに相当好かれているんだね」


そう言った。


「これって好かれているの?」

 

ぼくは疑問に思った。


「行きと帰り、ぼくはぶどうに当たっているから、歓迎のお出迎えとありがとうのお見送りってこと?」


 もしかしたら、ぶどうって変わった挨拶をする果物なのかもしれない。

 そうじゃなきゃぼくに対する嫌がらせだよ。


「バイバイ。ぶどうさん。また来るにゃ~」

 ぼくは車の窓ガラス越しにぶどうの木を見つめた。


「バンッ」


 ご主人様は車のドアを閉めて車にエンジンをかけ『ぶどうの木』を後にした。


 それからしばらくして、ぶどうの木からこんな声が聞こえた。


「あのネコ、わたしたちのこと狙っていたんじゃない? 追っ払えてよかったわね」

「本当。そうだよ!」

「早く帰って欲しくてぶどうを落としたのに、なかなか帰ってくれなかったから心配しちゃった」


 ぶどうたちはそれぞれに言った。



※このお話に出てきたお店は石川県にある、「ぶどうの木」を元にしたお話です。

2022年5月10より「ぶどうの木」は屋号名・店舗名 変更になり、「ぶどうの森」になります。


《終わり》


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