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ネコと赤ちゃん4

「肉まん。肉まん」


 眠っていると、ぼくを呼ぶ声が聞こえた。

その声にぼくは聞き覚えがあった。

けれど、眠たかったぼくは起きる気なんてなかった。


すると、


「バシバシっ」


 と叩いてきた。


「痛いにゃん!」


 暴力的だにゃん。いつもの子どもたちですらそんなことはしないのに。


「ダメ。叩いちゃ。痛くて鳴いちゃうでしょ。触るときは優しくしてね」


 聞き覚えのある女性の声がした。


「もしかして……」

「パチッ」


 目を開けると、ぼくを叩いていたのはカナちゃんだった。

カナちゃんは赤ちゃんでまだ小さいけれど、叩く力は強かった。


 そして、さっきの声はリカちゃんだった。

リカちゃんはご主人様のお友だちで、カナちゃんはリカちゃんの子ども。

たまに遊びに来てくれる。


「肉まん。プクプク~」


 プクプクって何?


「きみが太っているって言いたいんだよ」


 ご主人様は言った。


 ひどいにゃん。太っているから仕方ないけど。

まぁ良いように考えればカナちゃんは、

ぼくが太っているネコだということが分かってきたってことだよ。

成長したね。カナちゃん。



 ふと見ると、カナちゃんはテーブルの上を見つめている。

目線の先には、かごの中にみかんが入っている。


「もしかして、みかんを食べたいのかにゃ?」


 ご主人様も気づいたみたいで、


「カナちゃん、みかん好きなの?」


 リカちゃんに聞いた。


「そうなのよ。みかん好きなの。一個食べ始めたらまだ欲しいとねだってくるの」


 どうやらみかんが好きらしい。


「カナちゃん。みかんあげるよ。コッチに来て座って」


 ご主人様はみかんの皮をむきはじめた。カナちゃんは嬉しそうに見ている。


「いいにゃ~。ネコのぼくには欲しがったってくれないにゃん。

赤ちゃんっていいなぁ。うらやましいにゃ~」


 カナちゃんは、ご主人様からみかんを食べされてもらい、満足している様子だった。

ご主人様はみかんを食べさせ終わると、

カナちゃんの飲み物がないことに気づき、お茶を取りに行った。


 カナちゃんは、かごの中のみかんを見ている。

まだ食べたいみたい。あげたいけど、ぼくの手ではむくことはできないにゃん。

自分の肉球をマジマジと見た。やっぱりむずかしそうだにゃ~。


 ふとカナちゃんを見ると、


「んにゃ? おかしい」


 ぼくは違和感に気づいた。

カナちゃんは口をモゴモゴさせている。みかんってそんなに硬い食べ物だったっけ?

もう食べ終わってもいいはず。

それに、みかんを食べていた時よりもモゴモゴしている。ちょっと変だよね。

カナちゃんの口の中に入っているものって、本当にみかんなのかにゃ?


 ご主人様が戻ってきたので、


「ご主人様~。カナちゃん、ちょっと変だよ~」


 ぼくはご主人様に向かって鳴いた。

すると、ご主人様も気づいたみたいで、


「カナちゃん、何食べたの?」


 ご主人様はカナちゃんの口を開いて中を取りだした。

すると、みかんの皮が出てきた。ご主人様がむいた皮をカナちゃんは食べていたのだった。


「カナちゃん。皮は食べちゃダメ。特別にもう一個あげるから。

もうこれで終わりだよ」


 カナちゃんは満足そうな顔をしている。


みかんを食べさせ終えると、このままみかんを置いておくと危ないと判断したらしく、ご主人様はみかんが入っているかごごとキッチンに持っていってしまった。

その方が安全だよね。



ぼくはリカちゃんとカナちゃんといっしょにしばらく遊んだ。

最初は楽しく遊んでいたけれど、眠くなってきたカナちゃんは、


「スー。ス―」


 眠ってしまった。ぼくもつられて、


「スピピ~。スピピ~」


 と眠ってしまった。



 しばらくすると、


「ガブッ」


 ぼくはシッポに違和感があって、ハッと目が覚めた。

カナちゃんはシッポをかじっている。

ぼくは慌てて、


「ブンブンブンブン」


 とシッポを振った。

口からはシッポは離され、


「スー。ス―」


 カナちゃんは何事もなかったかのようにまた眠った。


みかん食べ終わったのに、まだ何か食べたいのかにゃ~。

また眠っているし、ぼくも寝よう。


「スピピ~。スピピ~」


 ぼくは眠った。しばらくすると、


「ギュ~」


 今度は、シッポを握りしめられた。


「痛いにゃん」


 またカナちゃんだった。

起きているときも、寝ているときも目が離せない。

赤ちゃんのうちは、ぼくのシッポをかじるのも握りしめるのも、

やめてくれそうにないにゃん。

ぼくは、カナちゃんの幸せそうな寝顔を見てそう思った。



《終わり》



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