ネコとたわし
「スピピ~。スピピ~」
ぼくはいつものように、気持ちよく眠っていたら、
「んにゃ?」
リビングから話し声が聞こえてきて目が覚めた。
どうやらご主人様のお客さんが来ているらしい。
気になったぼくは、ご主人様のお部屋を出て、挨拶がてら顔を見せることにした。
リビングに行こうと廊下を出たら、主人様もちょうどリビングから出てきた所だった。
ご主人様を見た途端、
「グ~」
ぼくのお腹がタイミング鳴った。
「お腹がすいたにゃん」
ぼくは起きてすくごはんを食べるから、お腹が鳴るのは当然だった。
すると、
「こっちへおいで」とぼくを手まねきしている。
「もしかしたら、ごはんを用意しているのかも!」
ぼくは急いでリビングに入った。
リビングを見ると、ぼくの特等席であるストーブの前には、
ぼくがごはんを食べるときようのお皿が置いてあった。
もちろん。中を確かめるとごはんが入っていた。
「パクパクパクパク」
お腹がすいていたせいもあって、早速食べた。
「んにゃ? これはいつものキャットフードじゃないにゃん。
高級キャットフード『ネコセレブ』にゃん。けど、『ネコセレブ』の味に似ているのだけど、もっとおいしいにゃん!!」
ぼくはふと、ご主人様見た。
その隣にはネコセレブの缶が置いてある。
よく見ると、ただの『ネコセレブ』ではなく、
『ゴールデンネコセレブ』と書いてある。
『ゴールデンネコセレブ』とは、新商品のネコセレブのさらに高級版のキャットフード。
最近、テレビCMで見て、とてもおいしそうだったから、ぼくはコレを食べたいと思っていた。
「まさかコレが食べられるなんてうれしいにゃん」
ぼくは夢中で食べた。
「ふ~。お腹いっぱいにゃん」
お腹がいっぱいになってふと気がついた。
「何で『ゴールデンネコセレブ』がおうちにあるのだろう?」
カレンダーを見たけど、今日は三日。ご主人様のお給料日でもないのに……。
そもそも、『ネコセレブ』だってかなりの高級品。
『ネコセレブ』を食べることができるのは特別なときだけ。
ご主人様のお給料日とか、何かぼくがいいことをしたときだけ。
それなのに何でもない今日、『ネコセレブ』よりも高級な『ゴールデンネコセレブ』が食べられるなんて不思議に思った。
もしかして、日ごろのぼくがいい子にしていたからくれたのかも。
それとも、今日は何かの記念日でそのお祝いのおこぼれとしてぼくにくれたのかも。
いやいや、ご主人様がお買いものに行ったときに、おまけでお店の人がくれたのかもしれない。
ぼくはご主人様に聞いてみることにした。
そのとき、ぼくの後ろに気配を感じた。
ぼくが振り向くと、ヒゲを生やした男の人がぼくを捕まえ、
抱きかかえた。
「にゃん!? な、何をするにゃん!!」
ぼくはそのまま抱きかかえられ、
ひげを生やした男の人に顔をスリスリされた。
「痛いにゃん。やめてにゃん。ひげでぼくをスリスリしないでにゃん!」
このひげは、まるでたわしのようにかたかった。
ぼくは気に入られてしまったらしく、ずーっとスリスリされ続けられた。
「ジョリジョリジョリジョリ」
ひげたわしがぼくのほっぺたに当たる。
「痛い。痛いにゃ~」
ぼくは、大声で鳴いたけど、逆に喜んでいると思われたのか、
ひげたわしのスリスリは止まらない……。
「やめてにゃ~。離してにゃ~」
必死の抵抗もむなしく、スリスリを続ける。
そんなぼくに気づいたご主人様が、
やんわりとひげたわしをたしなめ、開放してくれた。
「助かったにゃ~。ありがとうご主人様」
さすがご主人様。ぼくが困っていることに気づいてくれた。
どうやら、この男の人が『ゴールデンネコセレブ』を持ってきてくれたらしい。
ネコを飼いたいのだけど、住んでいるマンションはペットが禁止みたいで、飼うことができないんだって。
だから、ぼくの顔を見に来たらしい。
で、お土産に『ゴールデンネコセレブ』を持ってきてくれたんだって。
「来るのはいいけど、ヒゲたわしでこするのはやめて欲しいにゃ……」
『ゴールデンネコセレブ』を持って来たとしても、ヒゲでこすられちゃ割に合わない。
「どのくらいならいいかにゃ~『ゴールデンネコセレブ』が二缶? 三缶? 五缶? う~ん……。十缶だったら大目に見るにゃん♪」
今度は、『ゴールデンネコセレブ』をいっぱい持っておうちに来てね。
ぼくは『ゴールデンネコセレブ』を食べれることを
想像してニヤニヤしていた。
その様子を見ていたご主人様は、
「この子は何かよからぬことを考えているんじゃないか」
って顔をしていた。
《終わり》