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ネコと栗

「にゃー。キレイにゃん」 


 ぼくたちはテレビで放送されている兼六園を見ていた。庭園にはもみじがいっぱいだった。

※兼六園とは石川県にある庭園。四季折々の美しさを楽しめる庭園としても有名。


「夜はライトアップしているから今度、行ったみたいね」

「にゃん!」


 ぼくは賛同した。

 すると


「ピンポーン」


 玄関チャイムの音が鳴った。


「んにゃ~。誰か来たっぽいにゃ~」


 ご主人様はすぐに立ち上がり、玄関に向かって歩いて行った。

 ぼくはネコのおやつCMに夢中で、誰が来たのかなかなんて気にならなければ、

話し声さえ聞こえなかった。

おやつをおいしそうに食べているネコたちが映っていた。

いいにゃ~。ぼくもアレ、食べたいにゃん!!そう思っていたら、


「んにゃ?」


ぼくの後ろに誰かがいることに気がついた。もしかして……。


「やっぱりー」


子どもたちがいることに気がついた。


「肉まんに見せたいものがあるんだ」


そう言うと、子どもはポケットに入れていた手袋をした。

ぼくは何かをくれるんじゃないかとひそかに期待して子どもに近づいた。


「ジジジジ」


子どもは肩掛けバックのチャックを開けた。やっぱり何かくれるのかもしれない。

取り出したものは、茶色くてトゲトゲしたしたものだった。

ウニ? けどウニって黒いトゲトゲの中に入っているんだよね。

丸くてトゲトゲしている見た目は似ているけど、茶色じゃないはずにゃん。

あと、海の中にいるんだよね。バックの中に入れておくって変じゃない?

保冷バックならともかく、アレは普通のバックだよ。

もう一度、子どものバックを見た。やっぱり普通のバックだった。

そんなのに入れていたらウニが傷みそう。じゃぁ何だろう。


「コレは栗が入っているんだよ」


 え? 栗?? 茶色くて皮むいて食べるものだった気がするけど……。


「あっ」


 子どもは手をすべらせ、茶色いトゲトゲを落とした。

それがぼくの手に当たった。


「にゃー!」


 ぼくは鳴いた。


「あっ。ごめんね」

 

 それを見ていたご主人様は笑っていた。他の子どもたちも笑っていた。


「ひどいにゃ~」


 ぼくは恥ずかしくなった。


「はい。コレ。」


 子どもの一人がご主人様に栗がいっぱい入った袋を渡した。

「栗拾いに行ったの。だから持ってきたんだ」

「せっかくだから、栗ごはん作ろうか。せっかくだからきみたちにも手伝ってもらおうかな。待っていてね」


 ご主人様はキッチンに行った。


今回も子どもたちにやられてしまった。

ご主人様にはトゲトゲがない栗。ぼくにはトゲトゲ栗。ひどいにゃん。


「肉まん、大丈夫?」


 トゲトゲ栗を落とした子どもが言った。


「プイッ」


 ぼくはそっぽを向いた。もう痛くないけれど、

みんなに笑われて恥ずかしかったのと、

何かくれるのかと思い近づいたぼくの行動も恥ずかしかった。

がめついネコみたいにゃん。

ぼくはリビングのすみっこに行った。


しばらくすると、ご主人様が戻ってきた。お皿の上には栗が乗っている。


「栗をむくの手伝ってくれるかな。少し熱いから気をつけてね」


 どうやら栗を茹でたみたい。そうすると皮がむきやすくなるんだって。

お料理番組で言っていたにゃん。


あっという間に子どもたちは栗の皮をむき終わった。


「ありがとう。みんな」


 ご主人様は栗を持って再びキッチンに行った。

 やることがなくなった子どもたちはいつもならぼくにちょっかいを

出してくるところなのだけど、機嫌が悪いと思ったのか近づいてくることはなかった。


 子どもたちはアニメを見たりしておとなしく過ごしていた。


 そして、


「ん? おいしそうなにおいがするにゃ」


 ぼくは気がついた。


「できたよ~」


 ご主人様は栗ごはんを運んできてくれた。


「いただきまーす」


 子どもたちはおいしそうに食べている。

 それを遠くで見ているぼくはとてもうらやましかった。ぼくは立ち上がり一歩。

また一歩、栗ごはんに静かに近づいて行った。そして、ぼくはご主人様のすぐ後ろまで来ていた。


「きみー。少しならあげるよ」


 ご主人様は突然、振り返った。


「ギクリッ」


 ぼくはビックリした。何でぼくが後ろにいること分かったのかにゃ。足音が聞こえたの?

それともぼくが近づいていたところ見ていたの??

いや。そんなはずがないにゃん。

いくらぼくは太っているからと言って、

カーペットの上を歩いているのから足音はほとんど聞こえないはずだし、

ご主人様はずっと前を向いていたから背中に目がない限り

ぼくが近づいていたことに気づくはずがない。じゃあどうして。


「食べ物があるところにきみは必ず近づいてきます。おいしいにおいにもきみは近づいてくるから。分かるんです!」


 さすがご主人様だにゃん。ぼくが聞こうとしてことを教えてくれた。


「少しあげるから機嫌直して。さっきはわざと栗を落としたわけじゃないからね」


 ぼくは差し出された栗を食べた。機嫌直して欲しいならもう少し欲しいにゃ!

と思ったけれど、ネコのぼくにくれるようには思えない。

注※ネコに栗をたくさん食べさせてはいけません。


 そう言えばさっき、“見せたいものがあるんだ”

と言っていたよね。本当にただ見せたかっただけなのかもしれない。


「栗はもうあげられないけれど、まだ見せたいものがあるんだって」


 本当に見せたかったものはコレだよ。


「んにゃ? 栗?」


 それは栗のぬいぐるみだった。子どもが茶色いトゲトゲの中を開けると小さな栗が出てきた。

へ~え。よくできたぬいくるみにゃん。これならトゲトゲを触っても痛くないにゃん。


「あっ」


 子どもは手をすべらせ、栗のぬいぐるみを落とした。

それがぼくの頭に当たった。


「ポン。ポン」

「にゃー!」


 ぼくは鳴いた。栗のぬいぐるみを落としたときにトゲトゲから栗が出てきて、

中に入っていた栗とトゲトゲの両方がぼくの頭に降ってきて当たった。


「痛いにゃー!」


 本物じゃなくても頭に何か当たると痛い。

 それを見ていたご主人様は笑っていた。他の子どもたちも笑っていた。

 ぼくは恥ずかしくなって目をそむけた。



《終わり》


 


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