ネコとお化け
夕ごはんを食べ終えご主人様とテレビを見ていたいら、
『お化け屋敷特集』というのを放送していた。
「何だか怖そうだにゃ~」
と思いつつ、どんなお化けが出てくるのか気になってしまい、見ることにした。
お化け屋敷の建物には、血を流れていて痛そうな顔をした女の人や、怖そうな男の人の絵が描いてあって、不気味だった。
それに比べて、テレビレポーターの女の人は元気いっぱいで、
「これからお化け屋敷に入って、どのくらい怖いのかをリポートしてきまーす」
と張り切って一人でお化け屋敷へ入って行った。
中は真っ暗でしばらく歩いて行くと、
「ワッ!」
突然、怖い声をあげて一本足で目が一つしかない傘のお化けが出てきた。
「にゃ!」
ぼくはビックリて声をあげた。
傘のお化けはすぐにピョンピョンと飛びはねてどこかに行ってしまった。
「にゃにゃ。ぼくとしたことが不覚にも、早々にビックリするなんて。だって、突然だっ
たから仕方ないにゃ!
そう言い聞かせて見ていた。
テレビリポーターが歩いて行くと目の前にはドアがあって、
「ギィ~」
とゆっくりとドア開けた。部屋には人影が見えて近づいて見ると、
「う~ら~め~し~や~」
青白い顔をしていて頭から血を流している白い着物を着た髪の毛の長い女の人が出てきた。
「怖いにゃ~!」
またもやぼくは声をあげ、すっかりビビってしまった。
だって、あんな顔の女の人が出てきたら怖いに決まっている。
テレビリポーターも、
「ギャ~」
と悲鳴をあげて走って行った。
「あの人も怖いなら ぼくも怖くなってしまうのは当然にゃん」
そう思うことにした。
部屋を通り抜けて廊下に出たけれど、
明かりはわずかなロウソクの火しかなくてほぼ真っ暗。
テレビリポーターは手探りで進んで行った。
しばらく歩いていると、目の先には明りが見えてきた。そのまま明るい方向へ歩いて行くと、
「あっ。子どもがいるにゃん」
ぼくは子どもがいることに気がついた。テレビリポーターがその子どもに近づき子どもが振り向くと、その子どもには、目も鼻も口もなかった。
「のっぺらぼうにゃ~」
ぼくは思わず固まった。子どものお化けもとても怖い。
ぼくはここでも子どもの怖さを知ったことになった。
一方、テレビレポーターは、
「ギャァ~」
とさっきより大きな悲鳴をあげてその部屋を出た。
廊下に出て矢印の方向へ歩いていると、
「ゴトンッ」
と音がしたからテレビリポーターが振り向くと、骨が落ちていた。
すると、どんどん上から骨が落ちてきて、レポーターの頭にその骨が当たった。
「ギャァ~~!」
大慌てで走り抜けた。
お化け屋敷の仕掛けに、ぼくもテレビリポーターもビックリされっぱなしだった。
それからしばらくは、お化けは出てこなかった。
ぼくはすっかり気がゆるんで、
「もう、お化けは出てこないかも。きっと出口が近いのかも」
と安心しきっていた。
しかし、それは甘かった。
「プシュー」
突然、白い煙が出てきて、ちょうちんお化けが登場して、
「ケタケタケタケタ」
と面白そうに笑っていたり、お墓の中から火の玉と共に、
一つ目小僧が出てきて、ニヤニヤしながらこっちを見ていた。
これだけでは終わらず、鎖に繋がれて血を流していて、いかにも痛そうな男の人が見えたと思ったら突然、
「ハハハハハッ」
と不気味な笑い声を出し、最後の追い込みとばかりに連続でお化けたちが、おどかしてきた。
「ギャー。ギャー」
ぼくもレポーターも悲鳴をあげっぱなしだった。
そして、うっすら明かりが見えてレポーターは走り出し、お化け屋敷を出た。
最初は張り切っていたテレビリポーターも、お化け屋敷を出たころにはゲッソリしていて、
「とても怖かったです。もう二度と行きたくありません!」
と言っていた。
ぼくもとても怖かった。
チラリとご主人様を見たけど、まったく怖がっていなかった。
テレビを見ている間、悲鳴をあげたり、
一言もしゃべることはなかった。さすがご主人様。
「きみー。ビビリっぱなしだね~。相変わらず」
ご主人様はニヤニヤしながら言った。
やっぱりぼくのビビリっぷりを見ていた。
「にゃ~」
情けないにゃん。
ご主人様はテレビを消した。どうやら寝るみたい。ぼくも寝ることにした。
「おやすみなさい」
ぼくはいつものように、ご主人様の部屋でまるまって眠った。
「スピピ~。スピピ~」
最初は気持ちよく眠っていたけれど、
しばらくたつと、
「眠れないにゃん……」
いつもなら何時間でも、朝でも昼でも夜でも眠れるぼくが、
まったく眠りにつくことができなかった。
「あのお化け屋敷のせいにゃん! ぼくは怖くなって眠れなくなってしまったにゃ」
それでも目をつぶって眠ろうとするのだけど、眠れなかった。
すると、
「ガタン」
突然音がした。
「何? もしかしてお化け?」
ぼくは気になってしまい、廊下に出た。
するとすぐに、
「パっ」
と電気がつくと、白い三角巾をして白い着物姿のボサボサの長い髪の人が立っていた。
「お化けにゃ!」
と叫びそうになったけれど、驚きすぎて声がでなかった。
しかも、腰を抜かして動けなくなってしまった。逃げたくても逃げられない。
このままではお化けと目があってしまう。近づいてきたらどうしよう!
「んにゃ?」
ぼくは、『あること』に気がついてしまった。
それは……。
「ご主人様にゃ!」
お化けだと思っていたけれど、ご主人様だった。
そういえば明日、仮装パーティーに行くって話をしていた。
だから参考のために、お化け屋敷特集を見ていたのかもしれない。
すっかり忘れていたけれど、さっきご主人様はトイレに起きてそのまま戻って来なかった。
たぶん、当日着る衣装が気になって着てみたのだと思う。
廊下に出て少し歩いたり、身体を動かしてどんな風なのか確かめてみたっぽい。
でも、夜中に準備しないでもっと早い時間にしてにゃん。
これじゃぁぼくはただのおマヌケじゃない。
「今日は怖い思いをしたから、ご主人様といっしょに寝るにゃ!」
ぼくはご主人様のお部屋に戻り、ご主人様のお布団に潜り込んだ。
「おやすみなさい」
ホッとしたぼくは、
「スピピ~。スピピ~」
いつものように、気持ちよく眠りについた。
それから少し経ったころ、
「ギィ~」
と鈍い音がした。ご主人様以外の人が入ってきたのも知らずに。
《終わり》