ネコとかぶと
「ガタン。ゴトン」
ぼくは物音で目が覚めた。
ふと見ると、ご主人様がたくさんのほこりがかぶっている箱から
何かを取り出している。
近づいてみると立派なかぶとだった。そおっと箱から出して、棚の上に飾った。
そう言えば、
「明日は子どもたちが来るから、五月人形のかぶとを出さないと!」
と言っていたけど、かぶとを出し忘れていたみたいだから、
慌てて出しているだろうね。
カレンダーを見たら、今日は5月5日の子供の日。
端午の節供をお祝いするからかぶとを出しているらしい。
端午の節供って、男の子のお祝い行事なんだって。
何でかぶとを飾るかと言うと、かぶとは戦いの中で自分の身を守るものだから、
「交通事故とか病気から子どもを守ってくれるように」
と願いを込めて飾るものらしく、厄除けみたいなものだってご主人様は言っていた。
立派そうだけど重そう。だからぼくはかぶりたくない。
昔の人は、かぶとだけじゃなくて鎧も着て戦っていたから大変だったんじゃないのかなぁ。
肩こりになりそうだし、かけっこしたら負けちゃいそう。
ぼくは今のままがいい。何かをかぶりたくないし、着たくもない。
「まっ。ネコのぼくが、身に着けることはないだろうけどね」
そんなことを思っていたら、
「ピンポーン」
玄関チャイムが鳴った。
「んにゃ~。誰か来たっぽいにゃ~」
かぶとを出し終えてホッとしていたご主人様は、玄関に向かって歩いて行った。
やはり子どもたちだったみたいで、ご主人様が玄関のドアを開けた途端、子どもたちの声がした。
リビングに入ってきた子どもたちは、新聞紙で作った細長い刀みたいなものを持っている。
もしかして、これで遊ぶのかな。
すると、その刀で「チャンバラごっこ」を始めた。
さらに騒がしくなったけど、ぼくに危害をくわえないなら我慢できる。
面白そうだからぼくは遊んでいる子どもたちを見ていた。
しばらく遊んでいたけど、棚の上に飾ってあるかぶとが気になったみたいで、遊んでいる手を止めて、子どもたちはかぶとの周りに集まった。
「このかぶとをかぶってみたい」
だって。
そう言ってかぶとを持ち上げ、かぶろうとしたけど、かぶとが小さすぎてかぶれなかったみたい。
「にゃにゃ。おかしいにゃん。だって、子どもがぶるものじゃなくて、
お飾り用なんだから、かぶれるわけがないにゃん。ご主人様に見つかったら怒られちゃうから早く元の場所に戻さないとダメだにゃん」
と思っていた。
子どもたちはかぶとに夢中で、ぼくに見向きもしなかった。いつもならぼくにちょっかいを出してくるのに。
その様子を見て安心したせいか眠くなってきた。
「スピピ~。スピピ~」
ぼくは眠った。
しばらくすると、
「んにゃ? 頭が重い」
頭が重くて目が覚めた。どうやらぼくの頭の上には何かかぶせられているみらい。
しかも、目を開けても全く見えないくらいスッポリと。
「どうなっているのかにゃ?」
ぼくにはわけが分らなかった。分っていることは、
ぼくの頭の上に何かがかぶせられていることだけ。
首を一生懸命に振って、頭の上のものを落とそうとしても、重くて振ることはできなかった。
こんなに重いと、ぼくの力では頭の上に乗っているは取ることができないっぽい。
あと気づいたことは、頭を動かすとカチカチと音がする。
何かカチカチとするものが乗せられているっぽい。
それから、頭の上に乗せられているものにはひもがついていて、そのひもとぼくの首を結んでいるみたい。だから簡単には取れないっぽい。
「一体、ぼくの頭の上にかぶせられているものは何かにゃ?」
帽子にしては重いし、バケツにしてはこんなカチカチする音はしないはず。
「にゃ~。何だか分らないけど、おかしいことになっていにゃ~。ご主人様~。
助けてにゃ~」
ぼくは鳴きながら、ご主人様を探しに行こうとした。
しかし、身体が重くて思い通りには歩けずヨロヨロとしながら動いたけど、
「ゴツン」
何かにぶつかったみたい。
「痛いにゃ~」
もちろん。前が見えないから、何にぶつかったのかも分らない。
「どうしてこうなっちゃったの?」
ぼくはヨロヨロしながら鳴き続けた。
すると、首に結ばれたひもがほどかれ、
「スポンッ」
突然、頭が軽くなった。上を見上げると、ご主人様がいた。
「ありがとう。ご主人様~」
ぼくがあんまりにも鳴いていたから、何かあったのかと思ってぼくの様子を見に来たのかもしれない。
それにしてもあの重かったのは何だったんだろう。ふと見ると、
「あっ! かぶとにゃん」
子どもたちが、かぶろうとしたけど小さくてかぶれなかったかぶとだった。
コツコツ音がしていたのはかぶとの飾りの部分で、かぶとだからひもがついていたんだね。
「これなら納得にゃ!」
ってそうじゃなくて、ぼくにかぶとをかぶせたのは、子どもたちの仕業に違いない!
ぼくは子どもたちに目を向けた。
いつもは子どもたちと何かあるとご主人様に怒られているぼくだけど、
今回はどう見ても子どもたちに非があると判断したらしく、子どもたちに注意をしている。
その様子を見て、ぼくはニンマリと笑った。
「ベーだにゃん」
ぼくは舌を出した。
すると、ご主人様は出て行ってしまった。
戻って来たときには新聞紙を持っている。
「何か作るのかな?」
と思いながら見ていると、
どうやら新聞紙を使ってかぶとを作るらしい。
子どもたちはご主人様に習いながら折っていて
かぶとはみごとに完成した。これなら子どもたちもかぶとをかぶることができる。
子どもたちは喜びながらかぶりまたチャンバラごっこをしだした。
これでしばらくは大丈夫。安心して眠れる。
「スピピ~。スピピ~」
ぼくは眠った。
すると、
「ポーン」
突然、ぼくの頭に何かが当たった。
「痛いにゃ!」
ふと見ると、新聞紙で作った刀が落ちていた。
どうやら、チャンバラごっこをして勢い余って飛んできたてしまったらしい。
「にゃ~!!」
わざとじゃないとは言え、ひどい。
子どもたちは笑っている。しかも。ご主人様まで~。
これじゃぁぼくがおマヌケみたいに見えるじゃない。
すると、子どもの一人がぼくに新聞紙で作ったかぶとをかぶせてくれた。
これなら軽くて大丈夫だと思ったみたい。
でも、ブカブカで前が見えなかった。
「ご主人様~。助けて~」
フラフラしながら助けを求めたら……。
「ゴツンッ」
ぼくは壁にぶつかってしまった。
これを見た、子どもたちもご主人様も大笑いしている。
「ひどい! みんなそろって!! これじゃぁ厄除けどころか厄病神に取りつかれちゃったみたいにゃん」
かぶとはもういやだにゃ~。
《終わり》