ネコとおかゆ
「ただいま~」
玄関からご主人様の声がした。どうやらお仕事から帰ってきたらしい。
いつもなら玄関までお向かいに行くけれど、今日は寒いからホットカーペットから動けずにいた。
リビングに入ってきたご主人様はお買い物バッグを持っている。
「何を買ってきたの? もしかして、ぼくのために新しいおやつも買ってきてくれたのかにゃ?」
期待しながらご主人様に近づくと、
「きみのおやつは買っていません。まだあるでしょ!」
どうやらぼくの顔を見ただけで言いたいことが分かってしまうご主人様はすごい。けれど、今度はおやつ(ネコ用)を買ってきてね。とひそかに期待することにした。
ご主人様はテーブルの上に買ってきたものを広げている。お肉、牛乳、卵。見たことがあるものが並べられていた。
「?」
見慣れないものがあった。それはプラスチックパックに入っていて中には緑色と白いものが入っている。
パッとみた感じは野菜のセット。アレ? かぶと大根っぽいのが入っているけれど、よく見るとほぼ草っぽい。
ぼくはあんまり見たことないものばかりだにゃ。
「コレってなんだろう?」
ぼくは気になってご主人様に近づいた。
「七草って言うんだよ。セリ・ナズナ・ゴギョウ・ハコベラ・ホトケノザ・スズナ・スズシロがこのパックの中に入っている。ちなみに、スズナはかぶ、スズシロは大根のことだから」
ご主人様はそう言った。
で、コレをどうするの。どう調理するのかにゃ?
「おかゆにして食べるんだよ」
おかゆ?
「七草がゆは1月7日に食べる習慣があって、邪気を払いとして食べられていたんだ。
お正月のごちそう料理で疲れた胃を休めて調子を整えるという効果もあるんだよ」
へ~え~。じゃぁ七草がゆにして食べるんだね。
お正月は食べてばかりいて少しも動かなかったご主人様にはちょうどよい食べ物だにゃん。
ふとご主人様を見ると、明らかにお腹周りが大きくなった気がする。
「お腹見ないでよ。分かっているんだから!」
にゃにゃ。ご主人様にぼくの言いたいことがバレたみたいだけど、これが現実だにゃん。
それからしばらくして、
「きみ~。ごはんできたよ」
リビングでテレビを見ていたぼくはご主人様の声に反応して近づいた。
「コトン」
ぼくの目の前にいつものキャットフードが入ったお皿を置いてくれた。
そして、ご主人様は重そうな土鍋を持ってきた。
カセットコンロに火をつけるとその上に鍋を置いた。
すぐにグツグツと音がして、土鍋のふたを開けると、ボワンと白い煙が見えた。
「もしかしてこれが七草がゆ?」
気になって近づくと、緑と白色のシンプルなおかゆが見えた。身体にはよさそう。
ご主人様はお玉でおかゆをすくい、お椀に入れてパクパク食べていた。
何度もすくって食べているところを見るとおいしいみたい。
ぼくはおかゆには興味ないからおいしそうに食べているところを見ても、欲しいとは思わなかった。
目の前のキャットフードで十分。
ぼくはごはんを食べ終え、んにゃ? もしかして……。
あることが頭の中をよぎりテーブルに近づくと
「にゃ!」
土鍋の中はカラになっていた。たしか土鍋には一人前以上の量のおかゆがあったはず。
いくら身体によいものでも食べすぎはだめだにゃ~。
ぼくはご主人様を見た。
「きみー。もしかして、おかゆをあげなかったことひがんでいるんでしょ!」
違うにゃ。ぼくはご主人様のことを心配して……。
「ポンポン」
ご主人様はぼくの頭を触り、
「人間の食べているものを食べたくなる気持ちは分かるけれど、コレはあげられないからね」
だから違うにゃ~。そうじゃなくて~。
そうとは気づかず、ぼくに背を向け土鍋を持ってキッチンに行った。どうやら後片付けをするみたい。
ご主人様にとって都合の悪いことは伝わらないみたいだにゃ~。
《終わり》