表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/143

ネコとおかゆ

「ただいま~」


玄関からご主人様の声がした。どうやらお仕事から帰ってきたらしい。

いつもなら玄関までお向かいに行くけれど、今日は寒いからホットカーペットから動けずにいた。


リビングに入ってきたご主人様はお買い物バッグを持っている。


「何を買ってきたの? もしかして、ぼくのために新しいおやつも買ってきてくれたのかにゃ?」


 期待しながらご主人様に近づくと、


「きみのおやつは買っていません。まだあるでしょ!」


 どうやらぼくの顔を見ただけで言いたいことが分かってしまうご主人様はすごい。けれど、今度はおやつ(ネコ用)を買ってきてね。とひそかに期待することにした。


ご主人様はテーブルの上に買ってきたものを広げている。お肉、牛乳、卵。見たことがあるものが並べられていた。


「?」


 見慣れないものがあった。それはプラスチックパックに入っていて中には緑色と白いものが入っている。

パッとみた感じは野菜のセット。アレ? かぶと大根っぽいのが入っているけれど、よく見るとほぼ草っぽい。 

ぼくはあんまり見たことないものばかりだにゃ。

 

「コレってなんだろう?」


ぼくは気になってご主人様に近づいた。



「七草って言うんだよ。セリ・ナズナ・ゴギョウ・ハコベラ・ホトケノザ・スズナ・スズシロがこのパックの中に入っている。ちなみに、スズナはかぶ、スズシロは大根のことだから」


 ご主人様はそう言った。

 

 で、コレをどうするの。どう調理するのかにゃ?


「おかゆにして食べるんだよ」


 おかゆ?


「七草がゆは1月7日に食べる習慣があって、邪気を払いとして食べられていたんだ。

お正月のごちそう料理で疲れた胃を休めて調子を整えるという効果もあるんだよ」


 へ~え~。じゃぁ七草がゆにして食べるんだね。

お正月は食べてばかりいて少しも動かなかったご主人様にはちょうどよい食べ物だにゃん。


 ふとご主人様を見ると、明らかにお腹周りが大きくなった気がする。


「お腹見ないでよ。分かっているんだから!」


 にゃにゃ。ご主人様にぼくの言いたいことがバレたみたいだけど、これが現実だにゃん。



 それからしばらくして、


「きみ~。ごはんできたよ」


 リビングでテレビを見ていたぼくはご主人様の声に反応して近づいた。


「コトン」


 ぼくの目の前にいつものキャットフードが入ったお皿を置いてくれた。

そして、ご主人様は重そうな土鍋を持ってきた。

カセットコンロに火をつけるとその上に鍋を置いた。

すぐにグツグツと音がして、土鍋のふたを開けると、ボワンと白い煙が見えた。


「もしかしてこれが七草がゆ?」


 気になって近づくと、緑と白色のシンプルなおかゆが見えた。身体にはよさそう。

ご主人様はお玉でおかゆをすくい、お椀に入れてパクパク食べていた。

何度もすくって食べているところを見るとおいしいみたい。

ぼくはおかゆには興味ないからおいしそうに食べているところを見ても、欲しいとは思わなかった。

目の前のキャットフードで十分。


 ぼくはごはんを食べ終え、んにゃ? もしかして……。

あることが頭の中をよぎりテーブルに近づくと


「にゃ!」


 土鍋の中はカラになっていた。たしか土鍋には一人前以上の量のおかゆがあったはず。

いくら身体によいものでも食べすぎはだめだにゃ~。

ぼくはご主人様を見た。


「きみー。もしかして、おかゆをあげなかったことひがんでいるんでしょ!」


 違うにゃ。ぼくはご主人様のことを心配して……。


「ポンポン」


 ご主人様はぼくの頭を触り、


「人間の食べているものを食べたくなる気持ちは分かるけれど、コレはあげられないからね」


 だから違うにゃ~。そうじゃなくて~。

 

 そうとは気づかず、ぼくに背を向け土鍋を持ってキッチンに行った。どうやら後片付けをするみたい。

 ご主人様にとって都合の悪いことは伝わらないみたいだにゃ~。



《終わり》




 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ