ネコとウサギ3(後編)
肉まんがお昼寝をしていると、うさぎのみうに起こされます。
どうやら、肉まんのご主人様と、
みうのご主人様のあいちゃんがお昼ごはんを一緒に食べようと
約束をしていて、みうも連れてきていたのです。
お昼ごはんに食べる約束をしていたのに、あいちゃんはお弁当を
買い忘れてしまい、お買い物に出かけていたことを知ります。
ドジなあいちゃんならありそうなことだと思っていたのですが、
お寿司の出前が届いたのです。
「あれ? あいちゃんは、お昼ごはんを買いに行ったんじゃないの?」
肉まんは不思議に思いました。そこでみうに聞いてみると
みうの様子がちょっと変でした。
「あいちゃんがお弁当を買うことになっていたのだけど買い忘れちゃったから、あいちゃんが買いに行くという話しになったの。玄関先であいちゃんが、『お昼ごはんは何を食べたい?』と聞いたら、肉まんのご主人様は気を使って、「あいちゃんの好きなものでいいよ」と言ったの。そうしたら、『じゃあ、私の好きなものを買ってくるね。どのお菓子にしようかな~』と言って、出かけちゃったのよ~。それを聞いた肉まんのご主人様はビックリして、呼び止めようとしたけれど、もうあいちゃんは出かけちゃったから止めることができなかったの。だから出前を頼んだみたいなのよ」
「それなら確実にお菓子だにゃん」
あいちゃんはチョコレートやクッキーが大好きで、お菓子ばかり食べているらしい。
「お菓子もおいしいけど、栄養バランスを考えた食事も大切だにゃん」
ぼくも人のことは言えないけど……。
「ピンポーン」
ブザーが鳴った。
きっと、あいちゃんが帰ってきたのだと思う。ご主人様が玄関に行くと、
「ただいま」
あいちゃんの声がした。あいちゃんは、大きなビニール袋を持ってリビングに入ってきた。
「おいしそうなお菓子があったからたくさん買ってきちゃった!」
あいちゃんはそう言って、袋の中からチョコレートやクッキー。パイやかりんとうを出してテーブルの上に並べた。
みんなの心の中では、
「予想通り」
と思ったに違いなかった。
ご主人様は、「やっぱり……」と言う顔をしつつ、あいちゃんにこう言った。
「お寿司の出前を取ったから、コッチを先に食べようよ」
結局、あいちゃんが買ってきたお菓子は、三時のおやつの時間に食べることになった。
あいちゃんは、テーブルの上に並べたお菓子を袋の中に戻して、
ご主人様は出前のお寿司をテーブル上に運んだ。
ご主人様は出前のお寿司のお魚を、ぼくの用のお皿の上に乗せてくれた。
「ありがとうにゃん。いただきーす」
ご主人様は出前を取ると、いつもぼくに分けてくれる。
「ムシャムシャ」
ぼくは、久しぶりに『やすけ』のお魚を食べた。
「おいしいにゃ~」
やっぱり『やすけ』のお魚はおいしい。
「
あっ」
ぼくはみうを見て気がついた。
「みうも食べたいよね? ぼくのお魚を少しあげようか?」
「みうはいいわ。いつも、みう専用のごはんしか食べないの」
みうはキッパリと言った。
「でも、おいしいよ~」
「お魚はウサギにとってはよくないみたいだし、変わったものを食べて具合が悪くなったら大変だもん。それに、一度食べたらはまっちゃって、やめられなくなったら困るから食べないようにしているのよ。体型維持もあるしね」
「そうなんだぁ~」
みうはそういうところは神経質。いや、自分の性格が分かっているからなのか、体形については決め事があるみたい。
だから、あいちゃんも、みうにはお魚を分けてあげなかったみたい。
それに比べてぼくは……。ぷっくりしたお腹を見た。首をブルブルブルブルと振り
「気にしない。気にしない」
と言い聞かせた。そもそもウサギとネコは違うから、比べてはいけない。
お昼ごはんを食べ終え、ご主人様もあいちゃんもすっかりくつろいでいた。
ご主人様とあいちゃんは、麦茶を飲みながら、自分たちの体型の話しをしていた。あいちゃんは、ごはんもお菓子もいっぱい食べているのに、太ってはいない。
ご主人様は、
「あいちゃんは太らない体質だからいいね」
うらやましそうに言った。
それに比べてご主人様は、ぼくと同じようにぷっくりと太っていく一方だった。
運動をしないで食べてばっかりだから仕方ないよね。
ぼくも、
「あいちゃんみたいに、太らない体質だったらよかったのに~」
とあいちゃんの太らない体質はうらやましかった。
ご主人様はぼくを見ながら、
「またぼくがまた太った」
と言う内容の話しをしている。
ぼくからしたら、
「人のことは言えないにゃん。ぼくはネコだけど……」
と言いたかった。
その話しに興味を持ったあいちゃんは、
「ぼくがどれくらい重いのか、抱っこしたい」
と言い出した。
「ギクッ」
ぼくは少しいやな予感がした。逃げようとしていたぼくをあいちゃんは、素早くつかまえてしまった。いつものんびり屋さんなのに、こうゆうときのあいちゃんの行動はとても早い。
ご主人様に助けて欲しくて、ご主人様を見たけど、気づかれることはなかった。
「よいしょ」
早速ぼくを持ち上げた。
「重いけど、これくらいなら大丈夫」
ぼくを抱きかかえたあいちゃんは言っていた。
あいちゃんのことで、ぼくの心の中には二つの気持ちが浮かんでいた。
一つ目の気持ちはこうだった。
「もう大丈夫だよ。あいちゃんはドジなんてしないよ。ちゃんとぼくを持ち上げられているじゃない」
二つ目の気持ちはこうだった。
「いやいや。あのドジのあいちゃんだよ。最後まで何が起きるか分らないよ。安心するのはまだ早い」
どちらかと言うと、二つ目の気持ちに傾いていた。
これまでのあいちゃんの行動を思い出してみると、やっぱり何かあると可能性がとても高い。
ぼくのことをちゃんと持ち上げられているけど、実は今、とてもビクビクしている。 これまでのことを思い出すと、
「何か起きるんじゃないのかにゃ!」
と、ドキドキが止まらない。
すると、あいちゃんは、
「のどが渇いたわ~」
と言い出した。
そして、ぼくをゆっくりとカーペットの上に降ろした。ぼくはホッとした。
「もしかしたら、高い所からドーンと降ろされるんじゃないのかにゃ!」
とヒヤヒヤしていた。
「もうきっと大丈夫。何も起こらないにゃん」
そう安心しきっていた。
そのときだった。
あいちゃんはテーブルの上に置いてあったコップを取ろうとしたとき、手が滑り、麦茶が入ったコップがこぼれた。
「あっ」
あいちゃんが気がついた瞬間、ぼくには麦茶が振りかかった。
さらに、
「コツン、コツン」
とコップに入っていた氷がいくつも頭を直撃した。
「にゃ~」
ぼくは悲鳴をあげた。
あいちゃんは、あわててふきんでぼくを拭こうとしたら
、テーブルの上で倒れたコップを落としてしまい、それがぼくに勢いよく当たった。
「ゴンッ」
今度は、コップが頭に降ってきたにゃん!
「にゃ~」
ぼくはまたもや悲鳴をあげて、その場にうずくまってしまった。やっぱり安心するのは早かったみたい。
あいちゃんのドジは忘れたころにもやってくるらしい。あいちゃんはぼくに謝りながら身体を拭いてくれているけれど、顔は大笑いしている。
ふと見ると、ご主人様もみうも、ぼくを見て笑んでいる。
「こんなにぼくが痛い目にあっているのに、みんなひどいにゃん」
ぼくは心の中で言った。
でもとりあえず、今はとにかく痛い。
「あいちゃんには、帰るときまで気をつけないといけないみたいだにゃん。油断大敵と言う言葉があるけれど、もしかして、こんなときに使う言葉なのかにゃん」
と思うようなそんな一日だった。
《終わり》