ネコとあじさい寺
「今日の降水確率は90%です。お出かけの際には傘を持ってお出かけして下さいね」
ぼくはリビングでテレビを見ていた。
どうやらきょうは雨らしい。梅雨ってやだなぁ。ジメジメシトシト。
ただでさえ、金沢は雨が多いのに……。
「きみー。お出かけするよ」
ご主人様はぼくを呼んだ。
「えっ。雨なのに? どこへ行くのだろう。あの雰囲気からしてお買い物ではなさそう。しかも、普段は使わないお気に入りの金沢和傘を持っている。まぁいいにゃん。久々のお出かけだし」
ぼくは車に乗った。
「きみはいつものように寝ていてからね。目的地に着くのは2時間後くらいだから」
「えっ? そんなのに遠いの?」
どこへ行くのだろう。金沢から2時間だと、手取フィッシュランドかにゃ。
それとも、県外の白川郷とか富山の方かにゃ。
※「手取フィッシュランド」は石川県にある遊園地。釣りぼりやペットショップも併設されたレジャー施設です。
けど、
「雨が降ることが分かっているのに今日、わざわざ行く必要があるところってどこだろう」
と考えていると、
「スピピ~」
いつものように眠ってしまった。
「さぁ着いたよ」
着いたところはお寺だった。お寺の境内に入ると、
「わ~キレイ。色々なあじさいが咲いているにゃ~」
赤紫、青紫、白、ピンク……。
ピンク色と言っても、全部が同じ色ではなく濃いピンク色、薄いピンク色、赤っぽいピンク色、
青っぽいピンク色がある。
他には、花びらのふちは白いけど、中心は青色をしているものがあったり、その逆の色があったり……と。色だけでもたくさん種類があってビックリした。
「まだ驚くのは早いよ」
「えっ?」
階段をのぼると、右も左もあじさいが咲いていた。
「100種類以上あじさいがあって、4,000株もあるんだ。だから色とりどりのあじさいがあるんだよ。ココは、平等寺というお寺なのだけど見て分かるように、あじさいがいっぱい咲いているから、『あじさい寺』と呼ばれているんだ」
「へ~え~確かに。あじさい寺だにゃん。んにゃ? 」
ぼくは気がついた。そう言えば去年、
あじさいが咲いている公園に連れて行ってもらったとき、
“もっとたくさん咲いているお寺があるのだけど遠いから、ココに来たんだ“
と言っていたけど、もしかしてココのことを言っているのかにゃ?
ぼくはご主人様を見た。
「去年のこと思い出したの? そうだよ。ココのことだよ」
ご主人様は言った。
境内のお庭を歩くと、どこを見てもあじさいがキレイに咲いていた。
あじさいって種類がたくさんあるんだね。こんなにも色も形も大きさ違うなんて……。
すると突然、
「ザーザーザーザー」
雨が降ってきた。
「パッ」
ご主人様は和傘を差した。傘の絵柄もあじさい。
周りもあじさいが咲いているからぼくらはあじさいに囲まれていた。
雨に濡れたあじさいもキレイだにゃん。
だから今日、ココに来ることにしたのだと思う。
普通のあじさいと雨に濡れたあじさいを見るために。
ご主人様はぼくのことを見てこう言った。
「毎年、「あじさい花灯り回廊」というイベントがあって、周りが暗くなったころにライトアップしてあじさいを照らすんだ。そのあじさいが幻想的でキレイで、本当はきみに見せたかったのだけど、中止になっちゃったんだ。だから、来年は見に行こうね」
「にゃ~」
来年もあじさいが見られるなんて嬉しいにゃ~。
「さぁ。帰ろうか。言っておくけど、今日は抱っこしないからね」
「えっ! この前は抱っこくれたじゃない」
「階段もあるんだよ。重いきみを抱っこするなんていやです。しかも、きみの足は濡れています。洋服が濡れてしまいます。自分で歩いて下さい。何もココからおうちまで歩いて帰って下さいなんて言っていないでしょ。駐車場のところまでじゃない。せっかくの外出ですから歩きましょう!」
「そんな~」
ぼくはしぶしぶ歩いて階段を下りた。
ふと見た雨に濡れた夕暮れどきのあじさいは色鮮やかに咲いていた。
《終わり》
※今回のお話に登場した平等寺は石川県に実在するお寺で、「あじさい花灯り回廊」も毎年開催していますが、今年はコロナウイルスの影響を考慮して中止となっています。