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ネコとパンダ

「ピンポーン」


 ブザーが鳴った。

「んにゃ~。誰かが来たっぽいにゃ~」


 リビングでお茶を飲んでいたご主人様はすぐに立ち上がり、玄関に向かって歩いて行った。

誰が来たのかとそっと首を出してのぞいてみると、宅急便のお兄さんがいた。


「いつもの宅急便のお兄さんだにゃん」


 腕も足も細いのに、とても力持ち。それに比べてご主人様の体形ときたら。


「ププッ」


 思い出しただけでつい笑ってしまう。


「きみ、笑っていなかった?」

「ギクリッ」


 そ、そんなことないにゃん。


「ブンブンブンブン」


 首を振り、慌てて否定した。

普段は鈍感なのに、こうゆうことだけ鋭いからね。ご主人様って。

そんなことを思いつつ、もうリビングに戻ってきたということは、軽い荷物だったぽい。


 ご主人様は、小さめのダンボール箱を降ろした。

ダンボール箱に貼ってある宛名を見ると、“森下りん”と書いてある。

どうやら、りんちゃんが送ってくれたみたい。

りんちゃんは、ご主人様の昔からのお友たちで、ずっと仲良くしていたのだけど、

お仕事の都合で、今は東京に住んでいる。

たまにりんちゃんは今日みたいに、石川県に住んでいるぼくらに宅急便を送ってくれる。

 ご主人様は荷物が入っているダンボール箱を開けると、一枚の手紙を取り出した。手紙は、ぼくに聞こえるようにご主人様が読んでくれた。


『こんにちは。お元気でしたか? りんは元気です。

年末に”福梅”を送ってくれてありがとう。


※福梅は石川県のお正月のお菓子。年末からお正月にかけて販売される。

梅をモチーフにした紅白のもなかで、もなかの中には小倉あんが入っている。もなかの表面に砂糖がまぶしてあるお菓子。

様々なお菓子屋さんで福梅を販売していて多少の違いはあるものの、基本的にはこのような形をしたお菓子である。


「動物園」に行ってきたので、お土産を送ります。

パンダを初めて見ました~。今年こそは、石川県に帰りたいです。りんより。』


 ご主人様は手紙を読み終えた。


今年は帰ってこられるかなぁ。りんちゃん……。

と思っていると、

ご主人様はダンボール箱から白と黒のぬいぐるみを取り出した。


「パンダだ」


 ぼくの身体の半分くらいの大きさのパンダのぬいぐるみを見せてくれた。

ダンボール箱には他にも入っていて、次に取り出したものは、

丸い缶にパンダの絵が描いてあるものだった。中を開けるとチョコレートクランチが入っている。


 まだダンボール箱にはものが入っていて、次に取り出したものは、

長方形の箱だった。箱を開けるとパンダの顔のクッキーが出てきた。


 パンダっていつも寝ていて、好きなときに笹を食べているんでしょ。

いいね~。のんびりしていて。

ぼくも、そんな生活がしたいにゃん。


「ねえ、きみ。今、パンダみたいな生活がしたいって顔をしているね」

「えっ!」


 そ、そんなことないにゃん。


「きみは十分のんびりした生活をしているでしょ。

食べては寝て、食べては寝て。だから、そんなお腹になるんです!!」


それはご主人様だってそうだにゃん。

そのお腹が証拠だにゃん! ぼくはご主人様のお腹を見た。


ご主人様はぼくの顔を見て、


「きみー。今度は、ご主人様だってお腹が出ているのに、そんなことが言えるよね? って顔をしているね」


 ギクリッ。バレてるにゃん。


「少しくらいは分けてあげようと思ったけど、あげません。そもそも、人間が食べるものはネコの身体によくないものも多いから、あげたくなかったけど、少しくらいはいいかなぁなーんて思っていた。けど、もうあげません」


えっ! 一口、いや、一片でいいにゃん。分けてほしいにゃん。

この前、りんちゃんから贈り物が来たときはくれたじゃない。


ご主人様は、箱に入っているクッキーを取り出し、包装されている袋を開け、ぼくの目の前で食べた。


「おいしい」


 おいしそうに食べた。


 その姿をぼくはじーっと見ていた。

実はコレは作戦。じーっと見つめて欲しがる姿をアピールするというもの。

じーっと見ている姿を見て、かわいそうだなと思わせ、クッキーを分けてもらう作戦だにゃん。


どうせ、1個で満足するご主人様じゃない。1個で食べるのをやめたら

あんなお腹になるわけがない。また次に手を伸ばすはず。


「パクッ」


 ご主人様は思った通り、2個目の包装の袋を開けた。


「分かったよ。そんなさみしい顔で見ないでよ。はい」


 クッキーをひとかけくれた。


「ありがと。ご主人様ー」


 ぼくはご主人様に感謝した。


 そして、ご主人様は3個目の包装の袋を開けた。

その姿をぼくはじーっと見ていた。だって、まだ食べたいもん。


「パクッ」


 ご主人様はクッキーを食べながらこう言った。


「そろそろ、その作戦やめた方がよいよ。もうきみにはクッキーあげないから。

いくらさみしそうな顔をして見つめられてもね」


 ご主人様は4個目の包装の袋を開けた。


「パクッ」


 クッキーを食べた。


「バ、バレているにゃ~」


 ご主人様は、ぼくが考えている以上にぼくのことを理解しているみたい。

 そして、 5個目のクッキーに手を伸ばした。



《終わり》


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