ネコとお正月7
「ガチャガチャ」
ぼくは、物音で起きた。リビングに行くと、
ご主人様が、おせちが入っていると思われる黒い箱を運んでいた。
ぼくに気がついたご主人様は、
「あけましておめでとう。今年もよろしくね」
ご主人様が言った。ふとテレビを見ると、
神社に着物を着た人がいっぱい映っている映像が流れている。
どうやら、年が明けたらしい。
「今年もよろしくにゃー」
ぼくは、ご主人様のところへ言ってスリスリしながら鳴いた。
毎年、お正月にぼくおうちに親戚が集まってくる。
そして、毎回、新年早々子どもたちにイタズラされる。
「今年こそは……!」
と毎年思うけど、うまくいったためしがない。
とりあえず、今年は様子を見てからにしよう。
「あけましておめでとうございます」
玄関から声が聞こえた。どうやら子どもたちがやってきたらしい。
リビングに入ると、子どもたちはぼくに気づき、
「あけましておめでとう」
そう言うと、ぼくに近づきあっという間に子どもたちに囲まれ、
「なになに?」
「グシャグシャ」
みんなでぼくの毛並みを立てた。
「にゃー。ひどいにゃん!!」
最初のイタズラをされた。
「もう、こうなったら。今年こそはー」
と子どもたちに飛びかかろうとしたら、
「さあ、みんな座って。おせちを食べよう」
ご主人様が言うと、
「わーい」
子どもたちは、さっとぼくから背を向け、テーブルに向かった。
「にゃー!」
ぼくは思いっきり飛んだのに、誰もいなくて勢い余って、
お腹をカーペットの上に打ちつけた。
「痛いにゃん!」
「きみ、どうしたの?」
何も知らないご主人様は言った。
しばらくすると、おせちを食べ終わった子どもたちは、おもちゃの車で遊んでいた。
一方ぼくは、おせちは食べられなかったけど、お刺身を食べたからウトウトしていた。
子どもたちは、おもちゃの車に夢中だし、ぼくに危害を加えることはなさそう。
だから安心安心。
すると、
「おやつだよー」
ご主人様がお菓子を運んできてくれた。
コレなに?ぼくは見たことがないお菓子だった。
小さくて、花のような形をしている。
お菓子にはそれぞれピンク、緑、黄色と色がついている。
しかも、よーく見るとお菓子の真ん中には何かが入っている。
あんことかクリームみたいなお菓子の中に入っている食べ物じゃなくて、
よく見えないけど紙っぽい?
ご主人様、コレ何?
これは、辻占というお正月のお菓子。
お菓子の中に、占いが書いた紙が入っているんだよ。
※辻占とは石川県で、年末から販売されるお正月のお菓子。
お菓子の中に小さな紙が入っていて、「占い」が書かれている。
子どもたちは嬉しそうにお菓子を手に取り、お菓子を食べた。
そして、口から折りたたまれている小さな紙を取り出した。
あっ。やっぱり、紙だったんだ。子どもたちに近づくと、紙を見せてくれた。
なになに。なんて書いてあるの?
「宝船がまいこむ」
だって。子どもが言った。
他の子どもたちも、紙を見せてくれた。
「あきらめられぬ」
「思いがのこる」
それぞれ、読み上げてくれた。
へ~え~。面白い。ぼくもやりたい~!
ご主人様をチラリと見た。
「きみには食べさせてあげられないけれど、お菓子を選んでいいよ」
やったー。ぼくは、このピンクのがいい。
肉球で、ピンク色の辻占を触った。
「コレだね」
ご主人様は、辻占を食べ、紙を取り出した。
すると、そこに書いてあったのは……。
「らくになる」
だって。
「今年は、おりこうさんになるってことかなぁ。きみ~」
ご主人様は、ぼくを見てニヤニヤしながら言った。
え~。ぼくは、いつもおりこうさんだもん!
ただ、食いしん坊なだけだにゃん。
でも、「らくになる」ってどういう意味なんだろう。
らくしてよいことが起こるなら、
たくさん食べても太らないとか、運動しなくても痩せられるとか?
んにゃ~。お正月早々、気になることができてしまったにゃん。
そんなことを考えている間に、隣にいた子どもたちは二個目の辻占に手を伸ばした。
《続く》
※辻占の結果については色々な解釈があります。
自分なりに楽しむことをおススメします。