ネコとカスタネット
「タタタタンタタンタンタタンタン」
何かを叩いている音がした。
「うぅ……」
軽快な音だけど、眠たいぼくにとっては、安眠妨害だにゃん。
「タタタタンタタンタンタタンタン」
その音は、続けて鳴った。
「うるさいにゃん! ぼくが眠っているときは静かにしてにゃん!!」
ぼくはすっかり目が覚めてしまった。
すると、目の前には子どもたちがいて、囲まれていた。どうやら音を出していた犯人は子たちだった。どうしてぼくの耳元で音を鳴らすかなぁ。もうちょっと離れたところでやって欲しい。
「んにゃ?」
ぼくは、あることに気がついた。子どもたちが持っているアレなんだろう。子どもたちは丸くて2枚に重なったものを手のひらに乗せている。
さっきの音の正体はあの丸いのだろうし、楽器っぽい。丸くて、青と赤色をしていて木のような材質。中央にくぼみがある。端にひもを通してあるから、子どもたちはそのわっかに指を入れている。
てのひらに乗せているくらいだから軽そう。
あの楽器は何?
「カスタネットって言うんだよ」
ご主人様が教えてくれた。
「カスタネット?」
ぼくは初めて聞いた。
「クリスマス会でカスタネットの演奏をするから今、練習しているんだよ」
※この小説で登場しているカスタネットは教育用カスタネットです。
「肉まんにも聞かせてあげようと思ったから持ってきたんだ」
「タタタタンタタンタンタタンタン」
子どもたちは、カスタネットを叩いた。
ぼくのために持ってきてくれたのは嬉しいけど、これからは今みたいな距離で演奏して欲しいにゃん。
ところで、ただ叩くだけなら、ぼくにもできそうだにゃん。
ぼくにも叩かせて欲しい。面白そうだし。
とは思ったものの、叩かせてもらえるとは思えない。
子どもたちがぼくにカスタネットを貸してくれるはずがない。
そこで、子どもたちがカスタネットから離れるときまで待つことにした。
しばらくすると、
「おやつだよー」
ご主人様は、子どもたちを呼んだ。すると、子どもたちはご主人様の方へ行った。
思った通り、カスタネットはカーペットに置いてある。
「今がチャンスにゃん」
ぼくは急いでカスタネットに近づいた。早速、カスタネットを叩いた。
「タンタン」
アレ? カスタネットがクルクル回りうまく叩けない。
「もう一度」
カスタネットを叩いた。
「タンタン」
やっぱりカスタネットはクルクル回り、うまく叩けなかった。
そう言えば子どもたちは、カスタネットの端っこについているわっかに指を入れていた。だから、動くことなく叩けていたんだ。ぼくの肉球を見た。肉球がこのわっかの中に入るとは思えない。
どうしたらいいかにゃ~。
「ジ~」
カスタネットを見つめた。
だったら、仕方ないにゃん。そのまま叩こう。
「タンタン」
叩くたびに、クルクル回りながら動いて
連続して叩くことはできないけれど、叩くだけでも楽しいから、コレでいいにゃん。
「タンタン」
「タンタン」
すっかり、カスタネットが気に入っていた。
すると、突然、ぼくの身体は宙に浮いた。
「きみー。子どもたちのカスタネットで遊んじゃじゃダメだよ」
ご主人様に首根っこをつかまれ身体が宙に浮かんでいたのだ。
どうやら、カスタネットの音がしているからぼくが遊んでいたことがバレたらしい。
夢中になっていて、すっかり忘れていた。
「そんなにカスタネットが好きならぼくたちが演奏してあげるよ」
子どもたちはいっせいにカスタネットを叩き出した。
「タタタタンタタンタンタタンタンタタタ」
「タンタンタンタンタンタンタンタンタン」
「タタンタタンタタンタタンタタンターン」
三人の演奏はバラバラでただ叩いているだけ。とても曲を演奏しているようには聞こえない。
「にゃ~。もういいにゃん」
次、カスタネットを持ってくるときは、もっと練習してお互いの演奏を合わせてきてね。
1人のときは気づかなかったけど、3人ともバラバラだと不協和音だにゃん。
簡単そうに見えたけど、演奏するとなると、カスタネットって難しいんだね。
ぼくは、音を鳴らすくらいで充分だにゃん。
《続く》