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ネコとおでん

「ピンポーン」


 ブザーが鳴った。


「んにゃ~誰か来たっぽいにゃ~」


 テレビを見ながら温かいお茶を飲んでくつろいでいたご主人様がゆっくり立ち上がり、玄関に向かって歩いて行った。

すると、ドアを開けた瞬間、うるさい声がいくつも聞こえた。


「もしかして……」


 部屋に入って来たのはいつもの子どもたちだった。

ぼくはいやな予感がした。

子どもたちに見つかったら、何をされるか分からないからとりあえず、コタツの中に避難だにゃん。

子どもたちに見つかる前に、


「コソコソッ」


 とコタツの中に潜り込んだ。コタツの中は温かくて、ものの数秒で眠ってしまった。


「スピピ~」


 と気持ちよく眠っていると、コタツには次から次へと足が入ってきて、ぼくを蹴る。


「痛いにゃっ!」


 ビックリしてコタツから出ると、子どもたちはコタツに入っていておいしそうにみかんを食べている。子どもたちがなにかものを食べているときくらいは、ぼくに危害を加えることなんてないと思ったけど、そんなことはなかったにゃん。

ぼくは渋々コタツがあるリビングを抜け出し、隣の部屋に移動した。

この部屋は、ストーブや電気カーペットみたいな暖かくしてくれるものはないから、サムサムだし、わざわざこの部屋に来ることはないはずだにゃん。


 コタツのあるリビングは、ストーブも電気カーペットもあって暖かいから、動きたくないよね。

ここなら子どもたちは来ないから安心にゃん。

それにしても、


「う~。寒いにゃ~」


 思わずブルブルふるえたけど、キョロキョロ周りを見渡したら、ひざ掛けがあった。

このひざ掛けは、ご主人様のお気に入りのあったかいひざ掛けにゃん。

これをかぶっていたらサムサムじゃないにゃん。

ぼくは、すぐにひざ掛けの中に入りまるまった。

これならぼくの姿は見えない。


「あったかいにゃ~」


 あまりの居心地よさに、シッポをフリフリしながらいつのまにか寝てしまっていた。


「ニャムニャム。ムシャムシャ」


 ぼくは高級キャットフード『ネコセレブ』を食べていた。

ぼくの周りには『ネコセレブ』の缶がたくさん置いてあって、缶の数が多すぎて、食べ切れないくらい量だった。


こんなにたくさんの『ネコセレブ』なんてめったに食べられないにゃん。

ぼくはとても満足していた。


「もうお腹いっぱいにゃん……」


そんなときだった。突然、突風が吹いた。


「寒いにゃー!」


 ぼくは声を上げた。そして、あることに気がついた。

『ネコセレブ』は?

周りを見渡したけど、『ネコセレブ』はどこにもなかった。

もしかして、さっきはでの光景は夢??

『ネコセレブ』はないけれど、その代わりにいるのは子どもたちだった。

ぼくがかぶっていたひざ掛けのはしっこを子どもたちが持ち、上下にパタパタと動かしている。

ぼくが眠っているときもイタズラするなんて~。

せっかくいい夢を見ていたのに~。

今日こそはおしおきするにゃん!


「にゃ~!」


 子どもたちに飛びかかろうとしたぼくは、突然、首根っこを捕まれた。


「痛いにゃ~ん!」


 後ろを振り向くと、ご主人様がぼくの首根っこをつかんでいる。

いつものごとく、こっぴどく怒られてしまった。

子どもたちが悪いのに、どうして分かってくれないにゃん。


それにしてもなぜ、主人様がこの部屋に入って来たのかにゃ?

そんなことを考えていたら、


「グ~」


 ぼくはお腹が空いてきた。余計な体力使ったからにゃん。


「肉まん、コッチヘ来て」


 子たちはぼくを呼んだ。


「なんの用にゃ! またイタズラする気かにゃ!」


 ぼくは警戒をゆるめず、キッと子どもたちを睨んだ。


「きみー。子どもたちといっしょにこっちへおいで」

 

 手招きしてご主人様までぼくに言う。


「ご主人様まで言うならイタズラじゃなそうにゃん」

 

 ぼくは子どもたちについて行って、リビングに戻った。

 

「ここに座って」


 ぼくはいつもごはんを食べている位置に座るように言われた。


「もしかして、なにかくれるの?」


 すると、子どもの一人がビニール袋に入った容器を取り出し、ふたを開けるとボワンと暖かい湯気が出てきて、いいにおいもする。

ビニール袋に入っていた割りばしを出して、容器から中身を取り出し、ぼくのお皿に入れてくれて、容器に入っていたお汁も注いでくれた。

も、もしかして、これをくれるの? よく見ると、『おでん』だにゃん。

金沢では、寒い時期じゃなくても、おでんを食べるから一年中食べる。

『金沢おでん』はおいしいのはもちろん、変わった具材があることでも

有名。

 カニの甲羅に身やカニミソを詰めて蒸した「カニ面」。

油揚げにひき肉、人参、玉ねぎを詰め込んだ「しのだ巻き」。

はんぺんと魚のすり身を合わせて作ったみたいに柔らかくてもっちりした「ふかし」

赤いかまぼこみたいな「赤巻」。

※「カニ面」は秋・冬限定で提供されています。


 どうやら、『おでん』を買ってきてくれたらしい。

たまに、ご主人様も『おでん』を買って来てくれてぼくにも分けてくれる。

けど、具材はたくさんあるのに、ぼくが食べられものは限られているからご主人様がうらやましくて仕方ない。


「はい。肉まん」


 ぼくの目の前には大好きな「イワシのつみれ」と「ふかし」が乗っている。


「いただきます~」


 ぼくは早速、「イワシのつみれ」にパクついた。

でも、次の瞬間!


「熱いにゃ!」


 あまりの熱さにビックリして、「イワシのつみれ」をお皿に落としてしまった。

しかも、勢いよく落としてしまったから、食べかけた「イワシのつみれ」は熱いおでんの汁が入っているお皿の中に落としてしまい、汁が飛んで、ぼくの身体にかかってしまった。


「ピチャン!」


と飛び跳ね、


「熱いにゃ!!」


再び熱さに悲鳴をあげた。まさか、おでんを食べるために、二度も熱いトラブルに遭うなんて悲しい。

その姿を見た子どもたちは笑いながらぼくを見ている。

そういえば、ご主人様が『おでん』をくれるときは、食べやすいように切ってくれていた。

そのひと手間のおかげで、ぼくが食べるときはぬるくなっていた。

だから、こんなに熱いのを食べたのは初めてだった。


 お皿にあけてくれたのが子どもたちだったみたいで、食べやすいように切ることと、ネコが熱いものが苦手なことをすっかり忘れていたみたい。

まだ、舌がヒリヒリする。

 ご主人様は、慌ててお皿を手に取り、割りばしで「イワシのつみれ」を切り、「フーフー」と自分の息を吹きかけ、冷ましている。また食べさせようとしているみたい。

 

 アツアツおでんを食べるのは人間だけでいい。

ぼくはアツアツおでんを食べてビックリさせられ、みんなの笑いをとるようなことはしたくない。

熱いし恥ずかしいし、まるでタチの悪いイタズラにゃん。

ネコにそんなことをさせないで欲しい。


「もう大丈夫だよ。きみー。口開けて」


 ご主人様が冷ましてくれたけど、まだ湯気が立っている。

限りなく怪しい。

 

 子たちはニヤニヤしながらぼくに言った。子たちはさっきのぼくのリアクションを

また見たがっているっぽい。


 ご主人様は、ぼくがおでんを警戒していることに気づいていたらしく、


「今度は大丈夫だよ。はい。アーン」


 ぼくの口元に持ってきた。ここまでされたら食べないわけにはいかない。

 食べやすいように、小さく切ってくれたし冷ましてもくれた。

なにより「ご主人様なら大丈夫」だと思い、口を開けた。


「あ、待って。ぼくが肉まんに食べさせたい」


 すると子どもが、ご主人様が持っている割りばしを取ろうとした。

ご主人様は子どもを見てよそ見をしてしまい、


「するっ」


 割りばしから「イワシのつみれ」が落ちて、ぼくの口元に当たった。


「痛い!」


 ぼくは食べられるものだと思ったのに、温かいものが口元に当たりビックリして、声をあげた。

それを見たご主人様はぼくを見て思わず割りばしも落としてしまい、


「痛いっ!!」


 割りばしがぼくに当たった。再び思わぬ悲劇に遭い声をあげた。


 それを見た子どもたちはゲラゲラ笑っている。


「ごめんね~」


 とご主人様は謝ってくれたけど、本当に悪いのは、子どもたちだ。

食べ物の誘惑に負けたぼくも悪いかもしれないけど、原因は子どもたちにゃ!


「ごめんね。今度こそは大丈夫だから~」


『三度目の正直』という言葉はあるけれど、一回だけでなく、二回もあったんだよ。

「次も」っと思っちゃうのが普通だよ。

 ぼくは再び警戒した。


「さぁ。口開けて。大丈夫だから。ねっ」


 ご主人様が、怪しいくらいにニコニコしている。それはそれで怪しさいっぱいだにゃ~。


「でも……」


 とためらいつつも、


「いわしのつみれは食べたいにゃん!」


 と食欲に負け、口を開いた。

ご主人様は、ぼくの口元に割りばしでつかんだ「イワシのつみれ」を近づけている。

ご主人様の後ろでは子どもたちがニヤニヤとしていた。

そして、子どもたちがぼくに近づいてきた。



≪終わり≫




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