その2
今回はぱんつ出てきません。
前回の失敗から、妙齢の女性の部屋に入り、そのタンスを開けるのは非常に困難だと理解した。
かと言え、『古代遺跡』はゲームでの主人公ルーディ――つまりはオレの能力のジャンプアップの為にどうしても行かなければならない場所でもある。ぶっちゃけ行かないとストーリーが進まない。
古代遺跡の奥に眠る『幻霊のオーブ』それを手にした主人公ルーディは伝説と呼ばれた英雄、ゲルヴィーンが使ったと云われるスキル『リミット・ゼロ』を習得する。
――伝説の再来。そしてルーディから『幻霊のオーブ』を狙う黒い影。
物語は北の果てにあると云われる、いまだかつて誰も――そうゲルヴィーンすらも踏破できなかった『千年迷宮』へと焦点を移していく――――。
……ってのがこれからのあらすじ。だからまず、古代遺跡に入らないと話にならない。
そんなモン無視してさっさと千年迷宮に行け? ひかりのた○を使わないでゾ○マをソロで倒してから聞いてやるよ、そんな話。
必要なことなのだ、これは。
『リミット・ゼロ』を覚えないってことは、スーパーサ○ヤ人にならずにぶるぁぁぁの人と戦うようなもの。
ゴ○ゴムの実を食べないで大海原に旅立つようなものなのだ。
無想○生が使えないケ○シロウがラオ○に勝てると思ってんのか? って話だ。
なので発想を変えてみよう。
鍵が手に入らないなら、錠前の方をどうにかしてしまえばいい。
「ということでやってきました古代遺跡」
壮大な密林地帯。その中にひっそりと佇む古代の遺跡。
石を積み上げられて作られたそれは、アステカ文明のそれに似ていた。
このピラミッド型の天辺に、固く閉ざされた遺跡への扉があるのだ。
「よし――」
準備は万端。ここからが勝負だ。
オレは意を決し、遺跡の扉へと続く石段を登り始めた。
―― …… ―― …… ―― …… ――
――作戦、其の壱――
“ゲームをやった人なら誰でも思うこと『いや、扉壊せばいいんじゃね?』作戦”
「ずりゃぁぁっぁあ!!」
この時のために買ってきたバトルハンマー。剣? やだよ。刃が欠けるし。
そもそもこのバトルハンマー。主人公には装備できないはずなんだけど、普通に使えるね。
……だからこそ、アリアのタンスは守らなきゃいけないんだ。頭装備にさせちゃダメなんだ。
ギイン!!
「っぐ!!」
バトルハンマーが扉に接触する直前に、空中に広がる波紋。
魔法障壁か! 流石は古代遺跡。味な真似を!
だが、物理が駄目なら魔法を使えばいいじゃない!
「ファイアランス!」
炎を槍の形にして、打ち出す。
――しかし、魔法障壁の前に傷ひとつ付かない。
「なら同時だっ!」
バトルハンマーに雷のエンチャントを掛け、一気に振り下ろす。
「トオオオオル! ハンマァァアアアア!!(そんな技はありません)」
ガギギンっ! ヒュンヒュンヒュン、ドスっ……
……まったくの無傷。どころかオレのトールハンマー(ただのバトルハンマーです)が柄から折れた……
「完敗だ……」
がっくりと項垂れるオレ。
だが、作戦はこれひとつじゃない!
――作戦、其の壱――終了。
総括:これでいいなら、他の人が試してるよね? たぶん。
「くそ……あのクソ重いハンマーを担いできた意味がなかった」
まぁ、なんでも試してみてから真実というものは生まれるものだ。『攻撃しても無駄』これが分かったことで成果と言えよう。
―― …… ―― …… ―― …… ――
「次はこれだ!」
――作戦、其の弍――
“ピッキング”
オレは懐からおもむろにピッキング道具を出した。
これを手に入れるために、盗賊団を三つ壊滅させた。
いやだってさ、売ってないもん。こんなもの。
そして、『盗賊団』っていっても、実際は『強盗団』って言った方がいいんじゃない? みたいなのばっかりだったんだもん。
三つ目を壊滅させた時、いかにも下っ端ですーってヤツの懐から、なんとか強奪できた。
『お前が強盗じゃねーか?』しらんしらん。聞こえん聞こえん。
さて! ではレッツトライ!
……
……――ないね。鍵穴。
ああ! あれっすか? 『鍵』はいかにも「鍵でーす」って形をしているのに、実際には持ってるだけで扉が開いちゃったりするアレですか!? 実にゲーム的っすね!! なんでこんなときばっかりゲーム的なんすかね!?
「だったら水晶玉とか、それっぽい形の鍵にしとけよ馬鹿野郎!」
――作戦、其の弍――終了。
総括:よく考えたらオレ、ピッキング技術とか皆無だったわ。それにこれも誰か試してるよね? 絶対。
―― …… ―― …… ―― …… ――
「ラストだ……これで駄目ならもう打つ手はない」
――作戦、其の参――
“道はオレの後に出来るものだ”
すちゃっとオレが取り出したるはツルハシ。
別に扉から入る必要はない。オレが用があるのは扉じゃない。その中だ。つまり、遺跡の適当なところを崩せば中の通路に繋がるはずなんだ!
あれ? これって作戦、其の壱と大差なくね? まぁいいか。
「んよいっしょォォォオオオ!」
オレのツルハシが唸りを上げ、扉の脇の積み石に襲い掛かる!
ガギン!
「ですよねー!」
防がれた。魔法障壁に。
ふん、ダイレクトアタックが駄目なら、他にも考えがある!
オレは遺跡の上から降りると、その近場の地面にツルハシを突き立てた。
『幻霊のオーブ』があるのは、遺跡の最下層――
だが、遺跡の大きさとダンジョンの大きさは明らかに合っていない。地下にダンジョンが繋がっているはずだ。
事実、『古代遺跡』のダンジョンは、途中から岩肌むき出しの通路から成り立つダンジョンに変化する。
「そこまで掘ればいいだけだ!」
ツルハシを振るう。ツルハシの先は、今度はあっさりと土にめり込む。失敗した! スコップも持ってくるんだった! でも、これから街まで往復するのは面倒すぎる。
それでもオレは掘り進む。
「もういっちょぉ!」
ガギン!
「え?」
土の中から出てきたのは、人の顔。いやさ、“岩で出来た人の顔をしたもの”――ゴーレムだった。
「っく!?」
慌てて戦闘体勢を取る。まさかゴーレムが出てくるとは思ってもみなかった。
剣に手をかけた瞬間、ゴーレムの口が開く。
「いやな、まぁ……ほっといても良かったんだが……」
「……?」
「結局な? そんなことしても、地下通路の壁の裏側にも魔法障壁があってだな?」
「あ……遺跡の管理人さんとかですか……?」
「ああ、うん。そんな感じ。流石にそこまで労力を重ねた上で駄目じゃ、ちょっと忍びないと思ってな?」
管理人さんから駄目出し喰らいました。
――作戦、其の参――終了。
総括:管理人さんは割りと親切な人(?)でした。
―― …… ―― …… ―― …… ――
――作戦、番外――
「えーっと……遺跡の中に入りたいんですが、なんとかなりませんかね?」
“どうせだから頼んでみる”
「あー、むりむり。鍵持ってこないと、こればっかりはどーしようもないわ」
「そこをなんとか!」
「ならんならん。というか、私でもなんともならんのだよねー。わたしゃただのシステムみたいなモンでさ。こればっかりは遺跡を作った人に言わないと……もう死んでるけどね。とっくに」
「そ、そんなぁ……」
がっかりだった。管理人さんは管理人さんだった。アパートやマンションでも管理人さんに言っても大家が「うん」と言わなければどうにもならないのだ。
「鍵があるところは分かってるんです! ただ、それを手に入れるには女の子のタンスを漁らないとならないんです!」
それでも必死に食い下がるオレ。
「――それはまた……うん……憲兵に気をつけて?」
「そ、そんなぁ……」
――作戦、番外――終了。
総括:盗みを推奨されました。あまりいい人(?)じゃないのかも?
―― …… ―― …… ―― …… ――
仕方なく、生まれ故郷にとぼとぼと帰ってきました。
その様子を、アリアに見られました。
「ルーディ、元気なさそうだね……」
「ああ……うん、ちょっとね」
マイエンジェルのアリアが気にかけてくれます。
「私に出来ることならなんでも言ってね……ルーディは私の大切な――幼なじみなんだから……」
「ああ、ありがとうアリア」
タンスの中を漁らせてくれって言ったら、アリアはどう返してくるんだろうね? 汚物扱いですかね? 人付き合いって、意外なところで亀裂が入ったりするんだよねー。
エンディングなのに、「え? なにいってんの? やめてよちょっとキモい」とか、ヒロインに言われる主人公とかどうなんだろうね? 死にたい。
――――ああ、まだまだオレのゲームクリアは遠そうです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
ぱんつ出ないと気分が乗らない……