8 名前は魔法が掛かっている
美容院からは、たくさんの声が聞こえた。
まず、目立つのは女性の叫び声。
「きゃあ――!」
次に聞こえるのは、かわいい子供の声。
「シャンシャンシャン♪ルンルンルン♪」
「じゃぁー♪」
「バサバサバサッ!ルンルーン♪」
「ランラララン♪どんどんやろう♪ルンルンルーン♪」
(……まさかっ!)
その正体は、あたしのかえるだとすぐ分かった。
なぜだか分からないけど、かえるたちがやりそうなこと。
慎重に、慎重に、美容院へ向かっていく。
あたしだとばれたら、もうどうしようもない。
慎重に、慎重に……。
(今だっ!)
美容院のドアを素早く開けて、かえるたちを捕まえる。
美容院には、魔法ちゃん、紅葉ちゃん、幸福ちゃん、葡萄ちゃんがいた。
「それっ!」
ひとり、魔法ちゃんを捕まえた。
魔法ちゃんは、意外と鈍足だった。
そして、他の子たちも捕まえていく。
「それっ!」
「それっ!」
紅葉ちゃん、葡萄ちゃんも捕まえた。
しかし、幸福ちゃんはいつまでたっても捕まえられない。
(なんで足が速いわけでもないのに捕まえられないのっ!紅葉ちゃんと、葡萄ちゃんはかなり速かったのに。)
そう。幸福ちゃんは、魔法ちゃん並に遅いのだ。紅葉ちゃんと葡萄ちゃんは俊足で、かなり捕まえにくかったのに幸福ちゃんはそれ以上だ。
幸福ちゃんは、テレビの下や棚の中など、捕まえるのが難しいわけではない場所に隠れる。
(ど……、どうしてっ!)
何回も追いかけるけれど、何回も外す。
(なんてあたしから逃げられて幸せなの?)
そしてあたしは、なぜ捕まえられないかひらめいた。
(幸福……。そうか!幸福だから、いつも幸福ちゃんには幸せがまとっているんだ。どんな時も。だから、『捕まえられる』という不幸から逃れられるんだ。)
でも、ひらめいても嬉しくはなかった。
(じゃあ、永遠に捕まえられないんだね……。名前には、魔法が掛かっているんだもん。)
あたしは、がっくりした。




