1 かえるさん
「ぼくのゼリー、返して!」
ちびくんの声が響く。
実は、このこえはちびくんの声ではなく、あたし――姫蘭の声。
かえる劇場という遊びをしている。
どういう遊びかというと、かえるのぬいぐるみを動かして、お話をつくる遊び。
楽しくないと思うかもしれないけど、意外と楽しいの。
今は、ゼリー大好きちびくんが、ゼリーを取られて泣いている場面。
ゼリーは無いけど、あるつもりでやっている。
「ぼくのゼリー返してっ……。」
「やだね~!ゼリーはもう食べちゃったもん。」
「ちび。ゼリーは今度買ってあげるよ。」
「やだやだやだっ!」
一人三役を演じながら、ちびくん、その親役のちゅうくん、ゼリーを食べたおおくんを動かしている。
(楽しいわ~!)
「ゼリー!ありがと……。」
お話が終わった。
(次、何にしよう。)
「姫蘭ちゃーん?」
聞いたこともない声が、あたしを呼んでいた。
だっ……誰……?
振り向いてみると、それはちびくんだった。
「やっほぉ!ぼくだよー。」
「ぎゃあああああっ!」
(しゃ、喋った!)
あたしはとても大きな声で叫んだ。
今までに出したこともない声で。
「驚かないで。」
(驚くに決まってるじゃない。)
ちびくんは、当たり前のように喋る。
「あのさ、『かえる劇場』っての?あれいや。」
「え?」
「ぼくも、そのほかのみんなも、嫌がってるよ。」
あたしは、声を失った。
(あたしは、あのかえる劇場が大好きだったのに……。なのに、嫌がられていたなんて……。)
悲しい……。
「ふんっ。」
(な、何今の?)
ちびくんは、指を立てて、「逃げるんだ!」とみんなに命令した。
何をするの!
あたしの心の言葉は、ちびくんには届かなかった。




