『船幽霊(もうれんやっさ)』 其の二
「海の中?」
『ココロード』にある『霧島華音』店内。
今日も香奈が遊びに来ていた。
「そうなんですよ〜」
「大体水深20m位みたいなんですけどねぇ・・・」
「この前みたいに『船幽霊』を『魔術』でどーんっと解決なのかと思ってました。」
「それでは、根本的な解決にならないからな。」
「水上からでは無理があるし、水中で『魔術』は相性が悪い。」
「相性がいい『魔術』は無いんですか?」
「まあ、呼吸が出来ないと『魔術』は使えないからな。」
「基本的には無理・・・」
「・・・ふむ、『魔術』以外でやってみよう。」
「『魔術』以外??」
「花子、『姫薙』だ。」
「はい、華音様。」
言って花子は、トイレの扉を開ける。
「へ? そこトイレでしたよね?」
「ここは、華音様の衣裳部屋ですよ〜」
「???」
香奈は、頭の上に大量のクエスチョンマークである。
トイレの扉の向こうは、ウォークインクローゼットの様になっている。
「じゃあ、ちょっと着替えてくる。」
「???」
香奈はトイレの扉の向こうに消える華音を不思議そうに見ていた。
・・・
・・・
・・・さて、数分後。
トイレの扉から出てきた華音は、何時ものゴスロリではなく、
巫女?といった感じの衣装だ。
黒髪ロングな華音には、巫女装束も似合う。
「ロリ・・・巫女・・・だと!?」
「でも、ミニスカは邪道だと思います!!」
「誰がロリか!」
「それに、これは由緒正しき巫女装束だ。」
「でも、なんで着替えたんですか?」
「説明しよう!!」
「華音様は、衣装を変えることによって、さまざまな『術』が使えるのだ!!」
どやぁー っと何故かドヤ顔な花子。
「・・・まあ、そういう事だ。」
「巫女装束ならば、『巫術』が使える。」
『巫術』、シャーマニズムとも言い、精霊や神と交信し、
そのチカラを借りることで行われる『術』である。
「なんか、よく分かりませんが、『イタコ』・・・みたいなものですか?」
「まあ、遠くは無いな。」
「とりあえず、現地で実際に『巫術』を執り行なうとしよう。」
場所は変わって、漁港である。
今日は船を出さない為、香奈も一緒に来ている。
船で沖まで出ない分には危険も少ないからだ。
早速、『巫術』の準備に取り掛かる。
『巫術』には舞いや祈りによって交信する方法と、予め『チカラ』を込めておいた『符』を使う方法がある。
『符』の方は『魔術』に似た使い方も出来るが、今回は舞いと祈りの方でである。
簡易的な祭壇に、決められた供物を備え、舞いと祈りによって『精霊』を呼び出す。
華音が舞っている其れは、所謂『神楽』と呼ばれるものである。
「これって、『神楽』ってやつですよね?」
「そうですよ〜」
「『神楽』って神社とかで奉納の時にやるものだと思ってました。」
「いえいえ、それであってますよ。」
「通常は、神社の神楽殿でおこなわれたりするんですが、今回の『神楽』は『精霊』を呼ぶ方のヤツですので〜」
「『精霊』は歌や踊りが好きだからな。」
「今呼び出す『精霊』は当然・・・」
(あ、華音様。おひさしぶり〜)
現れたのは、イ○娘を思わせるような少女である。
(いやー何年ぶりだろうねぇ♪)
「うむ、久しいな。」
「えっと、この可愛い子はいったい?」
(可愛いだなんて、正直な子だねぇ〜お姉ぇさん嬉しいよ?)
「香奈、こう見えても海魔『クラーケン』だぞ?」
(華音様、こう見えてもってのはお互い様ですよ?)
(それに、華音様程ロリじゃありませんよ?)
「誰がロリか!」
「・・・今日2回目だ。」
「あは、あははははは」
周囲は乾いた笑いである。
こほん。
「さて、本題に移ろう。」
(あ〜大体わかります。)
(海の中のアレの事ですね?)
(うちらも、アレには困ってたんですよぉ〜)
「ふむ、して、何がある?」
(多分ですが、『霊石』の一種・・・だと思いますよ?)
(それも、カナリやばめのヤツですよ?)
(うちらじゃ、うっかり触れないシロモノですよぉ〜)
(できれば、封印もしくは破壊して欲しいなぁと思いますよ?)
「『船幽霊』を引き寄せた原因もそれだろう。」
「『符』を使う。」
「はい、『白符』と筆です。」
花子は何も書いていない『符』と筆を華音に渡す。
華音は其れに、さらさらと文字を走らせる。
「文字には力がある」
「って、誰かが言っていたが、それは本当だ。」
『符』に書かれている文字は、『大爆発祈願』
「へ?」
「これに、チカラを込めれば大爆発する『符』の完成だ。」
「っと、忘れていた。」
さらさらさら・・・
『防水祈願』
「・・・」
その他にも、『ばりやー祈願』(防水祈願付き)など、イロイロ作っている。
こんなことでいいのか、『巫術』・・・香奈はそんな顔をしていた。
「連絡用に・・・コイツを連れて行く。」
「あ、この子、いつもいる黒猫ですよね?」
「この子も、『霧島華音』の子なんですよ〜」
「じゃあ、行ってくる。」
「クラーケン、案内を頼む。」
(ほ〜い、華音様)
クラーケンの『チカラ』で、水中を移動する。
海魔の名を持つ精霊であるクラーケンを持ってすれば、容易い事である。
船で行くよりも早く目的地にたどり着いた。
周りに『霊』的なモノをイロイロと引き寄せている。
その多くが『船幽霊』である。
・・・中心には、『霊石』。
「此れが・・・何故、此れが此処にある!?」
(華音様?)
「此れは、此処にあってはならないモノだ。」
「此れは・・・」
『楔』
「此れがあるという事は・・・」
「兎に角、破壊しておくしかない。」
『ばりやー祈願』の『符』で『楔』や『船幽霊』を含む周囲を包む。
其処に・・・『大爆発祈願』の『符』
大爆発をばりやーの中に閉じ込める。
ずしんっ
と周囲が震える。
・・・
・・・
・・・収まった後、『楔』は跡形も無かった。
十数分後、華音達は漁港に戻っていた。
(ありがとうねぇ、華音様)
(じゃあ、うちは帰るね?)
言うと、クラーケンは海へと帰って行った。
「結局、『楔』って言うのは、何なんですか?」
「それは、私も知らないですねぇ?」
と、二人が華音を見る。
「・・・此処には、あってはいけないモノ」
華音は其れだけ言うと、海を眺めていた。