『花の城の音姫』 ~香奈の章~ 其の九
華音さんの話は続く。
それは、お伽噺の真実・・・
殺された姫は、闇に落ちる。暗く、何も無い闇の中。
そんな中で、姫の中にどす黒いモノが生まれた。
真っ白な姫の心に生まれたどす黒いモノは、瞬く間に姫を黒く染め上げる。
黒い姫は呪う。自分を・・・父様を母様を華を・・・民を惨殺した物の怪を呪う。
3日3晩にわたり呪いの言葉を吐きつづけ・・・
・・・姫は物の怪と同じ夜魅となった。
夜魅となった姫・・・黒い獣は、物の怪と対峙する。
「クワッハハハハハハハハハハハ・・・」
姫は楽しくてたまらない。
闇に落ちた黒い姫は、これから訪れるであろう至福の時を思うと笑いがこぼれる。
「何を笑っている?名も無き夜魅よ。」
「お前はこれから、喰われるのだぞ?」
「いや、すまないのじゃ。」
「お前があまりにも間抜けなのでな。」
「ククククククククク・・・」
「・・・その声。そうか、お前、あの姫か!!」
「姫が夜魅に身を落とすとは、これは傑作だ。元々嫁にして喰ってやろうと思っていたのだ。ちょうど良いわ!!」
物の怪は鋭い爪をふるうが、姫には届かない。
「面倒くさい・・・」
姫は一撃で物の怪の頭を潰すと、美味しそうに物の怪を喰らった。
「・・・うっ」
私はあまりに衝撃的な展開に吐き気を催した。
「大丈夫か?香奈。」
「う、うん、大丈夫。続けて。」
華音さんにとってつらい過去。私は全てを受け入れ、華音さんと友達でいると決めた。
私は全てを聞かなければならない。
華音さんは続ける。
姫は物の怪を全て喰らうと、山を下りた。
喰い足りぬ。餌は何処じゃ?
港の方に僅かながらの明かりが見える。
姫は其処に向かう。
餌だ。餌がある。
姫は餌にかぶりつこうとする。
「待ってください。物の怪様。」
「私をお食べ下さい。そして、この子・・・この子だけはどうかお助け下さい。」
姫の瘴気を浴び、息も絶え絶えに餌が懇願する。
餌が話す??
違う。
あれは・・・人だ。
姫には人が餌にしか見えなくなっていた。
このままでは物の怪と同じでは無いか。
現にあの・・・親子も儂を物の怪としか、見ていない。
「警告するのじゃ・・・儂はあの山に居る。何人たりとも、あの山に近づくでないぞ?よいな??」
「え・・・?そのお声は・・・姫様??」
姫は身を翻すと再び山に登り、里には下りず。ただ・・・ただ・・・己の中のどす黒いモノと戦っていた。
それから、ひと月ほど過ぎた。
何人たりとも近づくなと言った山に、一人の巫女が登った。
名は『柏木千重』
この地方を守る陰陽師の一族の者だ。
「闇に落ちた姫よ。貴女の瘴気はやがてこの地を滅ぼすでしょう。」
「巫女よ。ならば儂を殺してくれるのか?儂はもう、死にたい。」
「私に・・・いえ、私達のチカラでは姫を殺せません。ですが、封じる事は出来ましょう。」
「しかし、その封印すらも数百年に一度は、解け再び封印せねばなりません。」
「儂を封印したとして、数百年後に封印が解けてしまったら元もこうもあるまい。」
「ええ。ですから・・・私も同じ時を生きましょう。」
「姫を封印し、私も眠りにつく。姫の封印が解ける時、私はまた目覚め封印を施すのです。」
姫は、巫女を思い止めたが、巫女の体ももう、先の戦いで長くは持たないのであった。
姫は、巫女の提案を受け入れ、この地に封印される事となった。
それでもなお、強力な姫のチカラは3つに分けられる事となる。
一つは『桜』の下に、一つは海の『犬岩』になった。
そしてもう一つは・・・人形の体に・・・
その人形の体からは瘴気が漏れず、自由に動き回れる体。
巫女のチカラで生み出された姫そのものだった。
巫女は全ての封印を行うと『桜』を憑代に眠りについた。
それ以降、この『桜』は『千重の桜』と呼ばれるようになった。
物の怪になっても人を殺めなかった姫は『黒狼叉音』と呼ばれ、人々に恐れられながらも段々と土地神として崇められる様になった。
「それが、『花の城の音姫』の真実なんですね・・・」
「ああ、私は千重のお蔭で、人と再び触れ合う事が出来るようになった。」
「だから私は、少しでも人の役に立とうと、『何でも屋』を始めたんだ。」
「・・・最初は、『桜』の所でやってたんだが・・・あそこは危険もある事に気が付いたからな。」
「本当にそうじゃ。儂なんぞ、姫にビビッて一度は逃げたぞ?」
あれ?隣にいる白い狐は・・・桜井さん?その事に今更ながら気が付く。
「それで・・・だ。香奈。」
「香奈に頼みがある。」
私に頼み?
華音さんに頼みごとをされるなんて、これが初めて??だった。




