『花の城の音姫』 ~香奈の章~ 其の八
「華音さん!!」
私は黒い獣に向かって叫ぶ。
「私は華音さんに言わなければならない事がたくさんあります。」
思いの丈をぶつける様に。
「私自身がどうとか、華音さんが何者かなんて関係ありません。」
「私達は・・・そう、友達なんですから。」
でも、言葉が、その先の言葉は続かない。
そう、友達だから心配した。無事だったから嬉しい。それで十分だった。
「香奈。だが私は、香奈に知って欲しい。」
「私の事、そして・・・それには香奈の事も関わってくる。」
「私の事も?」
「香奈が『この世のモノ』じゃないモノを見たり、私の事を忘れなかったという事だな。」
「少し長くなるが・・・昔話をしよう。」
「が、その前に・・・クラーケン。」
華音さんは、クラーケンさんの方に向き直る。
(はい。華音様。)
「お前が戻ったという事は、『楔』は全て破壊できた・・・という事だな?」
(はい、途中邪魔が入りましたが、全て破壊してまいりました。)
「そうか、そちらにも手が及んだか・・・私の方に全て引き付けられると思っていたのだが・・・」
「・・・すまなかった。」
(い、いえ、勿体ないお言葉にございます。)
「これで、夜魅の王も動けまい。」
「・・・結局は振りだしなんだがな。」
獣の姿の華音さんから、その表情はうかがい知れないけど・・・今回の騒動?はこれで終結したみたい。
「さて・・・昔話だ。」
「私にとって、これはあまり思い出したくは無い話だ。でも、香奈には知って欲しい。聞いてくれるか?」
「うん。」
「私達・・・友達だもん。」
華音さんはゆっくりと話し始めた。
昔、この地にひとつの国があった。
その国は、季節ごとに花が咲き乱れ、その国の城は、花の城とまで呼ばれていた。
「あ・・・『花の城の音姫』・・・」
「・・・そう、その真実だ。」
その国には、器量はあったが少し怠け者で、でも、父様と母様・・・そして、女中の華が大好きな姫がいたんだ。
平和な毎日を過ごしていた姫だったが、ある時、隣国が一匹の物の怪によって滅ぼされ、戦火は姫の国にも及んだ。
物の怪のチカラは強く、人のチカラでは到底かなわなかった。城は落とされ、城下は火に包まれ・・・
・・・城よりなんとか逃げ出した姫と女中の華も物の怪に見つかってしまった。
華は姫を庇って死に、目の前に迫った物の怪はこう言った。
「美しい姫よ。俺の嫁になるならば、命だけは助けてやろう。」
姫は本当は恐ろしくて、恐ろしくて・・・足も竦んでいたのだが・・・
「ふざけるでない。他の者と同様。儂も殺すがいい。」
「じゃが、いつかお前も誰かに殺されるじゃろう。」
「その時に、自分の犯した罪の深さを知るがいい。」
物の怪に屈する事無く、姫はそう言いい目を閉じた。
物の怪は、姫に爪を振り下ろし・・・姫も他の者と同様に殺された。
「やはり、お伽噺と同じなんですか?」
「いや、此処からだ。此処から・・・今の私に繋がるんだ。」
私は何時の間にかかいていた汗を拭うと、華音さんが続きを話すのを待った。




