『花の城の音姫』 ~香奈の章~ 序
この世に不思議な事は結構ある。
例えば『夜魅』は存在し、『魔術』だってある。
そんな『不思議』を扱う『何でも屋』が存在していた事実は、私しか知らない。
昔、てうしの地にそれは美しい姫が居たと言う。
その姫の名前は『音』。
音姫の住む城は、春には桜や菜の花、夏には百合、秋には秋桜・・・それは美しい花が咲き乱れ『花の城』と呼ばれていた。
ある時、山から物の怪が下りてきて、城を襲った。
城の者をあらかた殺した物の怪は、ついに音姫の前に現れる。
あまりに美しい『音姫』を見た物の怪は、
「俺の妻になれば、命だけは助けてやろう。」
と、言った。
しかし、音姫は気丈にも、
「私を他の者と同様に殺しなさい。」
「でも、いつかあなたも他の誰かに退治される日が来るでしょう。」
「その時に、あなたは自分の犯した罪の深さを知るのです。」
そう言うと、音姫は目を閉じる。
物の怪は、音姫を殺すと、山に帰っていった。
それは、図書館で調べたてうしに残るお伽噺。
『音姫』は『華音』さん。
『物の怪』と言うのは、恐らく『夜魅』。
そして、このてうし市に何かが起こっていた。・・・いや、まだ起こっているのかも知れない。
でも、その事も華音さん達の事も・・・もう、誰も覚えていない。
・・・
・・・
・・・
・・・私以外には。




