『千重の桜』 其の七
私達が図書館で『花の城の音姫』を見つけた夜、眩い光がてうし市を包み込んだ。
でも、それは一瞬の事。
直ぐに光は収まり、夜は静寂を取り戻した。
それは、私が眠っている間の出来事だった。
「おはよう。」
「はよーん」
「おはようございます。」
登校すると、私達は何時もの様に集まる。
もはや、毎日の恒例行事??みたいな感じ??ですらある。
「結局、分からない事が増えただけだったわね。」
「華音さんに会ってみないと、謎は解けそうにないわ。」
「うん、そうだね。」
「今日も放課後行ってみるよ。」
「おはようなのじゃ」
昨日は休んでいた桜井さんが、今日は登校してきた。
桜井さんは、他のクラスメイトに挨拶をすると、私達が集まっている机に来た。
「昨日はすまなかったな。また明日と言いながら、学校には来れなかったのじゃ。」
「それで・・・じゃ。放課後、時間はとれるか?」
「あ、うん・・・大丈夫。」
「他の者は、ちょっと遠慮してもらいたい・・・のじゃ。」
桜井さんは、香織ちゃんと双子達を見る。
「すまないのじゃ。」
そして、放課後となった。
私は、桜井さんと共に『霧島華音』に向かっている。
桜井さんの用事とは、やはり華音さんに関係する事だった。
私は歩きながら、昨日調べた事について聞いてみる事にした。
「桜井さん、華音さんって・・・音姫なんですか?」
我ながら直球ど真ん中な質問だと思う。
「ん?本人に聞いたのか?」
「いえ、華音さんとはまだ合えてません。」
「図書館で『花の城の音姫』って言う本を見ました。」
「なるほどの・・・まあ、本人に聞くのが一番じゃが、そこまで調べてしまったのなら・・・」
「そう、お主達が『霧島華音』と呼ぶ少女こそ、音姫の事だ。」
「やっぱり・・・では、桜になった巫女って言うのが、桜井さんなんですか?」
と、またもストレートな質問をする。
「なんだ・・・凄く直球な質問ばかりだな。」
「それは違うな、儂はただの・・・」
「・・・む、着いたようだな。」
ただの・・・何だろう?
「入るぞ?」
きぃぃぃぃぃぃ
少し軋む扉。
何かとても久しぶりな気がする。
ただの・・・の先がとても気になったが、桜井さんは先に『霧島華音』に入ってしまった。
「あら・・・ここちゃんに・・・香奈ちゃんっ久しぶりですねぇ♪」
「あはは、こんにちは。花子さん。」
「姫はおるか?」
「華音様は、まだ『桜』の所ですよ。」
「何じゃ、それなら学校から直接『桜』に行った方が良かったの。」
「いえいえ、『桜』は今、何人たりとも近づけません。」
「私なら、『桜』の近くまで行けますから、一緒に迎えに行きますか?」
「うんっ」「うむ。」
「じゃあ、こちらの扉から・・・」
そこは、トイレの扉。
花子さんは、扉があれば”どこにでも移動できる”らしい。
花子さんは扉を開ける。
その先に見えたのは、満開の『桜』
私は扉をくぐる。
舞い落ちるピンクの花びら
そして、幾重にも折り重なる枝全てが満開に咲きほこる。
怪しいほどに美しい『桜』
季節を間違えていたの私だったの?と疑いたくなるような光景だった。
「お、皆来たのか。」
そんな満開の『桜』の中に、何時ものゴスロリ衣装の少女が一人。
「華音さんっ」
「香奈。久しぶりだな。」
「うんっお店に行っても全然いないんだもんっ」
「すまなかったな。」
「ちと・・・野暮用でな。」
「野暮用とはな。これだけの事をしておいて・・・」
これだけの事??
「なんだ、狐も来ていたのか。」
「なんだはないだろう、なんだは。」
狐??
満開になった『桜』といい、野暮用といい、今度は狐??
う〜ん、今回の件は本当に訳が分かんない。
「華音様。そろそろ香奈ちゃんに説明してあげた方が・・・」
「おっと・・・そうだな。」
「香奈。今回の事は凄く危険が伴ったので、話さなかった。」
「それに、何度も店に足を運ばせて悪かったな。」
「ううん・・・それはいいの。」
「・・・では、今回の・・・てうしに起こっていた事を話そう。」
満開の『桜』の下、華音さんは静かに話し始めた。




