『自分攻略サイト』 其の四
「俺が死んでいる!?」
意味が分からない。
「俺・・・いや、私は生きていると思うのですが?」
「あー無理に敬語使わんでいいぞ?」
「すみません。」
「少なくとも、現在、俺は生きていると思うのだが・・・」
「うむ、佐藤一郎は生きている。」
「だが、お前は死んでいる。」
「と、言った方が良いだろう。」
ますます、意味が分からない。
佐藤一郎は生きている。
だが、お前は死んでいる?
まるで、俺が佐藤一郎じゃない様な言い回しじゃないか・・・
「まあ、その事については、詳しく事情を聴いてからにしよう。」
「詳しい話も無しでは、此方も説明が出来ない。」
俺は、霧島華音にループしてきた14日〜21日の事を詳しく説明する。
偶然『佐藤一郎 攻略サイト』を見つけた事、何度も死んだ事、霧島華音に出会った事・・・
「佐藤一郎に家族は居るのか?」
「幼い時に事故で、お袋と双子の弟を亡くした。」
「今は、親父と二人だが、俺は一人暮らしをしている。」
「ふむ・・・」
「そういう事か・・・」
「しかし、過去に戻る話はどうなる?」
霧島華音は、ぶつぶつと呟く。
「花子。」
「お前は、出来るか?」
「同一世界で無いって条件なら、方法はあるかも知れません。」
「どちらにせよ、私には無理ですけどね。」
「成程、類似別世界軸か。」
「後は、攻略サイトか・・・」
俺はすっかり、置いて行かれている。
それに気が付いたのか、霧島華音は此方に向き直る。
「あーすまない。」
「いろいろと仮説を立てていた。」
「その・・・『佐藤一郎 攻略サイト』というのを見せてくれないか?」
霧島華音は、ノートPCを取り出す。
俺は、それで『佐藤一郎』と検索する。
表示される検索結果。
その中に『佐藤一郎 攻略サイト』を見つける。
早速クリックし、メインページを表示させた。
「・・・これだ。」
「・・・」「・・・」
「すまない、私には『ページが表示できません』というエラー画面しか見えないのだが?」
「花子、見えるか?」
「いえ、私も同じです。」
「そんな馬鹿な!」
「今、ここに表示されているだろ!?」
「私も花子もエラー画面にしか見えない。」
「しかし・・・だ、お前が見えているなら、それはあるのだろう。」
「もう少し、ヒントが欲しい。」
「花子、『フォーチュナー』だ。」
「はい、華音様。」
「すまない。少々待っていてくれ。」
言うと、霧島華音と花子は奥の部屋に引っ込んでしまう。
数分後。戻った霧島華音は、オリエンタルな・・・占い師が着ている様な服を着ていた。
「まあ、他の衣装でも、占い的な事は出来るのだが、『占術』を使うからな。」
『占術』?まあ、占いの事だろうが、着替える意味はあったのだろうか?
「運命は・・・まだ・・・」
「ん?」
「私は、そう言ったのだな?」
「確かに、そう言った。」
「ならば、占ってみよう。」
「お前の過去、現在、未来・・・運命を・・・『占術』でな。」
「『占術』・・・占いは、大別すると命、卜、相の三種類に分かれる。」
「これらを使い分け・・・または組み合わせる事により占う。」
「先ずは、命」
「お前の、生年月日・・・出来れば、生まれた時間、場所も分かるか?」
「生年月日は19○○年○月○日生まれ・・・で、生まれた場所は、確か、そこの鳥田総合病院だ。」
「時間までは・・・分からない。」
「ふむ、四柱推命と言うのを行うのだが、時間が分からないのならば、三柱という事になる。」
「花子、ちょっと調べてくれ。」
「はい。」
「・・・○○時ですね。」
「な、今何をした!?」
「え?ちょっとお役所のサーバーから失礼しただけですよ?」
「昭和20年以降の新生児は、出生届けに生まれた時間を記載することが義務付けられている。」
「まあ、兎も角これで四柱揃った。」
「早速始めよう。」
霧島華音は、何やら用意を始める。
干支?が書かれた紙・・・表の様な物だろうか?
年、月、日、時、子、丑、寅、卯・・・見てもさっぱり分からない。
「止・・・暮・・・比肩・・・」
「成程・・・ならば、あの事故で・・・と、いう事になるのか。」
「次は卜だ。」
「あの・・・結果は?」
「後で纏めて話す。」
「組み合わせる事も重要なのでな。」
先程の紙をしまい、今度は板状のもの・・・を用意する。
「此れは、天地盤という。」
「月将・・・干支・・・四課・・・三伝・・・十二天将・・・空亡、徳神、禄神・・・」
「ふむ・・・」
「次は相だが・・・」
「此れは、特に用意するものもない。」
「既に、会話しながら行っていたからな。」
占いの道具をしまい、改めて向き直る。
「さて、此れまでの私の推測と『占術』で導き出された結果だが・・・」
「少し、覚悟のいる事だ。」
「心の準備はいいか?」
ゴクリと唾を飲む。
何とも言えない緊張した雰囲気の中、俺は静かに答えた。
「・・・話してくれ。」
「うむ。」
霧島華音は、一度目を閉じ、静かに話し始めた。
「先程も言ったが、お前は既に死んでいる。」
「そして、お前は佐藤一郎・・・では無い。」
「は?」
「俺が、佐藤一郎でなかったら誰なんだ!?」
「・・・最後まで聞け。」
「お前の体は佐藤一郎のものだ。」
「だが、お前はおそらく・・・佐藤一郎の双子の弟だ。」
「お前は、死んだ後、佐藤一郎の『守護霊』として佐藤一郎を守ってきた。」
「21日に佐藤一郎は何らかの形で死ぬ運命にあった。」
「その死の瞬間、もしくは死んだ後、お前は守れなかった事を後悔した。」
「先に話したように、お前は死んでいるから時間の概念が無い。」
「正直、私にもどの様な『チカラ』なのか見当もつかないが、過去に戻る事が出来るようになった。」
「正し、別世界の14日に・・・だ。」
「別の世界・・・便宜上、類似別世界とするが、其処で私に会い相談をした。」
「すまないが、俺は霧島華音・・・様に相談した記憶がないのだが?」
「そう、それだ。」
「それが、『佐藤一郎 攻略サイト』の意味だ。」
「お前は記憶が欠落している。」
「お前がループしている回数は4回じゃない。・・・おそらく、数百回にも及ぶだろう。」
「そんな、大量の死の記憶に耐えられる筈が無い。」
「類似別世界の私は、お前に記憶を『佐藤一郎 攻略サイト』に移す事を提案し方法を授けた。」
「そのサイトをよく見て、思い出せば自ずと全てを理解するだろう。」
「攻略サイトなら、穴の開くほど見た。」
「しかし、記憶なんて・・・」
「其れは、お前がお前の記憶として見ていないからだ。」
「俺の・・・記憶・・・」
霧島華音のPCに表示されている『佐藤一郎 攻略サイト』を見る。
此れは、俺の記憶。
俺が歩んできた軌跡・・・
攻略チャートをクリックする。
ループ156、157、158・・・
今まで記載されていなかったチャートが次々と表示される。
・・・そして、俺は全てを理解した。




