第9話⇔すれ違う思い。
頭が真っ白…。
私達…キスした。
帰りの車でも、何も話せず無言。
でも…このまま理由も聞かずに帰るのはイヤだし。
そう考えてたら家の前…。
『凌。』 『亜美。』
二人の声が重なる。
『亜美から言って?』
凌の優しい声。
恥ずかしくて下を向く私。
『あの…ね』
(………♪♪♪♪)
もう…こんな時に携帯の着信。
『出たら?』
優しい声に促され電話に出た。
『もしもし?亜美ちゃん!』
あれっ?
『智くん??』
二人で顔を見合わせる。
《俺は居ない事に!!》
身振り、手振りで伝える凌。
そりゃあね…この状況、説明しにくいよ。
『昨日さぁ〜凌のやつ!ホテルから亜美ちゃん捜索?で飛び出してさぁ…連絡取れ無いんだよ!!』
何?ホテル?
黙ってる私に追い打ちを掛ける言葉…
『凌、彼女の両親にあってたんだけど!!それが…』
どう言う事?
気分が悪い…。
血の気が引くってこう言う事言うんだよね…。
私は冷静を装い電話に答える。
『智くん…凌は迎えに来て帰ったから…。ゴメン、切るね!』
『えっ??亜美ちゃん!!』
智くんの声は聞こえたけど…。
それだけ言って電話を切った。
彼女?
両親?
何?
さっきまでの事は夢なの?
幸せだった気分が音を起てて崩れる。
『亜美?智なんだって?』
普通の顔で話かける凌に気持ち悪くなった。
平気な顔で…話かけないで!!
私に近寄らないで!!
『凌…気分悪いから、帰るわ。ありがとう。じゃあね!!』
『あっ亜美?』
凌の声を無視し車を降りた。
あのキスは何だったの?
そう心で唱えながら…。
『亜美?大丈夫?』
砂耶は心配そうにコーヒーを容れてくれた。
私はあの日以来、凌と話てない…。と言うより会っても居ない。
電話やメールは着信拒否。
そんなに強く無い私には、今ある電話やメールは本当にきつい…。
あの日は泣いた…。涙が枯れるんじゃないかと思うくらい…。
自分の気持ちに気付いた途端に現実を突き付けられ…。
今まで凌と言うぬるま湯に浸かってた自分にも嫌気がさした。
『一ヶ月だよ?そろそろ…家に帰らないと?』
そうだよね…。
あの日、家に帰り荷物を持ち飛び出し、一人暮らしの砂耶の家に転がり込んでる。
『ゴメン…迷惑かけて。』
『私は良いけど…。凌ちゃんとも話さないとね?』
逃げてばかりじゃいけないのは分かる…。
でも…凌の本心を聞くのが怖い。
『まぁ…亜美が話したい時でも良いか!』
優しい手で私の背中を軽く叩いてくれた。
『あんたって子は…!』
母親の小言…。
連絡を入れてたとは言え、一ヶ月も家出状態には心の広い母親もさすがにね!
『すみません…。』
謝りますよ…。
『お父さんが居ないから良かったけど…』
うちの父親は単身赴任中。
はい…。おかげで助かりました。
あの父親にバレたら…。
怖いよ!!
我が家に女の子は私だけだから…可愛いみたい。
兄貴は県外だし…。
『あっ!凌ちゃん…昨日挨拶に来たわよ』
凌が挨拶?
『挨拶?』
『あぁ…あんたも知ってるでしょ?』
ん?知ってる?
『何が?』
母親の驚いた顔!!
『凌ちゃん。先週引越したのよ』
『…。』
引越し?
『まさか?知らなかったの』
知らない!!!
家を飛びだし、三軒隣の凌の家。
ピンポン!
ピンポン!!
何度も鳴らすけど…
無言のインターホン。
『凌…』
私がいけないんだ…。
何も聞かず、無視して。
罰が当たったんだ…。
本当に何もかも無くしてしまった。
私は答える事の無いインターホン越しに、泣き崩れるしか無かった。