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第四章 魔術武器

目を開けると、そこには長年の末、濃くなったと思われる木製の天井があった。


「ここは・・・・」


一体・・・・。頭がボンヤリして、いまいち考えがまとまらない。自分が宿屋の寝台に寝ている事に気がつくまで、少しかかった。

「気がついた・・・?」

声がしたほうを見ると、フラムが座っていた。

「フラム・・・」


起き上がろうとすると、フラムが助け起してくれた。

「一体何があった?」

そう訊くと、フラムはそっと息をつく。

「気を失ったのよ」

「気を・・・」

そうだった。あいつと剣を交えている内に、身体が重くなっていったんだった。

「あいつは?!」

まるで飛びつくように、エレイドはフラムに聞いた。けれど、彼女が答える前にギュルルという音が響いた。フラムは小さく笑うと、息をついた。

「そんな感じなら、大丈夫ね。詳しい話は朝ごはんを食べながらにしましょう?」



「とりあえず、俺はどれだけ気を失っていたんだ?」

パンを頬張りながらエレイドは口を開いた。

「一晩よ。あいつとやりあったのは、昨日の晩の事」

「そうか・・・」

思っていたより、時間はたってはいないらしい。

「やつは?それより何が?」

「結論からいえば、取り逃がしたわ。途中で引いたから、封印はまだ出来ていないわ」

ゆっくりと、コーヒーを飲み干し、エレイドは躊躇いがちに口を開いた。

「俺の・・・せいだな」

「まあ、そうね」

「いったい、何があったんだ?」

「うん、そうね・・・。食べ終わったようね。話の続きは外でしましょう?」

蒼く艶のある前髪にそっと手をふれ、フラムは立ち上がった。



宿屋を出て、エレイドがつれてこられたのは町外れのだった。山に入る直前の場所は、開けており、ちょっとした広場になっていた。

「ここならちょうどいいわね」

「フラム?」

「話の続き」

フラムはクルリと振り返った。

「昨日、あなたは気を失った。その時の事、覚えている?」

「剣を交えているうちに、身体が重くなっていた」

「やっぱりね」

息をついてから、続ける。


「エレイド、その子で本格的に戦うの、初めてじゃない?」

彼女の視線は青年が腰に下げている剣へと下がる。確かにこの剣で戦うのは初めてだった。

「図星のようね。あなたが気を失ったのはその子の所為よ」

「えっ?」

そんな様子のエレイドにフラムは大きく溜息をついた。

「まったく。その様子じゃ、ジェシカは何も教えてはくれなかったのね」

「どういう事だ?」

フラムは彼女が下げている剣を抜いた。刀身はエレイドのよりかなり短い、短剣だった。

「あなたのその子も私のも、魔術武器なの。その事は知っているね」

「ああ」

魔術武器。それらは作る際に魔力を混めた武器だった。形状は剣にとどまらず、フラムのような魔術師たちは様々な形の武器を持っていた。魔力を持った武器、という事でそれを使うのは大半が魔術師だったが、エレイドのように魔力を持たない人間も魔術武器を持っていることがあった。特にエレイドの場合、その腰に下げる剣は一騒動あって、ようやく手に入れたばかりの剣だった。


「エレイド見ていて」

フラムはスッと切っ先をエレイドに向けた。

「魔術武器は普通の武器とは少し勝手が違うの」

シュッと、彼女の短剣が風を切る。次の瞬間、短剣の刃に炎が纏った。

「なっ?!」

フラムはクスリと笑うと、刃の炎は消えた。

「私の魔術武器は『火の短剣』。魔術武器はその属性を纏わせることが出来るの。今のは・・・そこまで大層なものではないわ。言うのであれば、これは『見せる』技。でもこれと同じことが常に起きているの」

「どういう事だ?」

「魔術武器は常に魔力を纏っているの。今のは、その魔力をわかりやすくしただけの事。そして魔術武器はその魔力を持続しようとするの」


「うん?」

その言葉にふと何かが引っかかった。

「何か気づいたみたいね」

「聞いた限りだと、剣自体もまた魔力を魔力を持っているんだよな?武器の魔力は無限じゃないはずだ。その魔力を継続させようとするなら、その魔力はどこからくる?」

エレイドの言葉に、フラムは微笑んだ。

「もしかして、その使い手か?この場合・・・・俺か?」

「ご名答」

「って、なんだ?あれか?昨日のあれは・・・・」

「その子に持っていかれた、そういう事」

目も丸くし、自分の剣を見つめるエレイドを優しく見守りながら、言葉を続ける。

「でも忘れないで、その子がいたから、その程度で済んだのよ。あなたが気を失うほど、その子は魔力を持っていった。でも裏を返せば、その力がなければヘルドッグの剣は受けきれなかったって言うことよ」

「うぐっ」

悔しいが認めるしかなかった。

「けど、どうすればいい?あんなの、そう長くは持たないぞ」

「だから、覚えて」

「覚える?」

「そう」

フラムの短剣がもう一度空を切ると、その刃に炎を纏った。先ほどとは炎の威力が段違いだ。光り輝くその刃の熱気をエレイドは感じるかのようだった。

「あなたはこの状態で昨日戦った。だから、あれだけ持ってかれた」

また短剣が空を切る。今度は炎は完全に消えていた。そしてもう一度、シュッと音がする。今度は最初に見た炎ぐらいだ。そして彼女はゆっくりと短剣を鞘に収めた。


「『銀月の夜』はあと一週間続く。だからその間で、少しでいいの、感覚を掴んで」

「感覚を掴むたって・・・。俺は魔術師じゃない。魔力を操ることなんて出来ないぞ?」

「大丈夫。私に考えがあるから」

そう言って満面の笑みでにこやかに笑う魔術師を前に、あまり良い予感がしないエレイドであった。

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